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歴史上初の女性騎士と、愛で結ばれた姫の物語  作者: 風見 咲良


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【第十七話】愛の旅路

 

 十七 愛の旅路


〜 女王エルサ side 〜


「それでは、行って参ります」


よく晴れた、澄み渡った気持ちの良い朝だった。


爺やと婆やの姿を心に焼き付け、ルカが手綱で導くルークに跨る。


「朝陽に映えて、まるで女神のようです」


爺やと婆やが、神に祈る姿勢のように、私たちを見送った。


 昨晩、爺やと婆やには言葉では尽くせぬ限りの感謝の気持ちを伝えていた。

思い出話にも花が咲き、この人たちはいつなんどきも私の側を離れず、味方をして、愛し続けてくれていたことに、私は深く涙した。


 祈る姿勢で見送ってくれていた爺やたちが、どんどんと小さくなる。


振り返らないように努めながらも、私の頬には涙が伝っていた。


「エルサ、大丈夫ですか」


涙が流れるままにしていたら、すぐさま風がそれらを乾かしていった。


「大丈夫。貴方と一緒だから」


ルカは私の言葉に優しく微笑んで、真正面に続く道筋をしっかりと見据えていた。


 ここから数日かけて、あの光信号が放たれる山の頂を目指す。

まずは山へと続く平地をひたすらに歩いてゆく。相手方に見つからないよう、どうしても少し遠回りにはなってしまう。


だが、街の中央にある城から機材を運ぶであろう順路を予測し、出来るだけ人目につかない道を進むことにした。本格的に山に入るまでは、重たい荷物の負担を減らすためルークを連れていく。


行く道しか存在しない、かもしれない。

この道を辿るのは、最後になるかもしれない。


だが、恐れずに進んでいこう。

一歩一歩、登っていこう。


貴女と共に。






〜 ルカ side 〜


 長い平地を歩き続けて、ようやく山の麓へと到着した。


数日間分の食料などが減った分、荷物も軽くなった。ここからは草木が生い茂る険しい山道となるため、ルークに別れの挨拶をする。爺やに頼んでおいた手筈で、もうじき従者がここへルークを引き取りに来る。


爺やの元へと無事に届けられた後は、騎士団の者に引き取ってもらい、やがてイーリスが待つ馬小屋へと帰ることになっている。

私たちは身元が分からないよう、ルークだけを麓に残して、ひと足先に出発しなければならない。


 ルークの鼻先を優しく撫でていると、ルークが寂しそうな目でこちらを見つめていた。

動物は賢い。

すべて分かっているのだろう。


「ルーク。イーリスによくしてもらうんだぞ」


私はルークの鼻先におでこをつけて、頭のなかでイーリスに真心込めてお世話される様子を映像で思い浮かべながら、これから起こることを伝える。


最後の別れの挨拶として、ルークの鼻先に抱きついた。

エルサも同じようにした。


ルークの瞳に見つめられながら、私たちは山へと歩み進んで踏み込んだ。


 山道に入ってから、より一層、油断できない状況となった。

相手方の人数や拠点とする場所、どの道を辿って資材を運んでいるのか、一日の作業工程などがまだ分かっていない。

つまりは、それらがハッキリと把握できるまで、誰に見つかってはいけない。


 足跡を残さないよう、木の枝一本折らないよう十分に配慮しながら、道なき道をかき分けて、ただひたすらに歩く。


木の葉が擦れて起こる物音にも、不自然に動く茂みにも、すべての感覚を研ぎ澄ませて、風を読む。

だが、いまのところ人の気配は一切ない。


資材を運びやすい城からの道筋を計算して、大体の予測を立てたのが功を奏したらしい。

人の目を避けるため、私たちは逆サイドから登ったのが良かったのだろう。


足元に広がる草花は自然そのままの姿を残し、腰あたりまで伸び切った茂みもかき分けられた跡などもなかった。


 先頭を切って歩く私のすぐ真後ろを、エルサが黙々と足元を見ながら着いてきている。


「エルサ、少し休憩しましょう」


声を抑えるため、乱れた呼吸の合間に囁くように言う。


「まだ大丈夫。歩けるわ」


私は少し先へと目線を上げ、少し空が開けて見える岩場を指差した。


「では、あそこまで行ったら、一休みしましょう」


指差した先をエルサも見上げる。


「分かった」


 茂っていたジャングルのような低草地帯を抜け、少し開けた岩場へと出た。

空が広く感じられ、束の間の開放感に浸る。大きな岩が支え合うように出来た岩場の上を進むと、広大な草原が一望できた。視線のずっと先には、光信号を送っていた先の城が建つ街が見える。


大きな岩の突先に立つと、焦りを払拭するような風が全身を吹き抜けていった。

幸いにも、まだ風は涼しく、湿度も低い。


汗で服が湿る前に立ち止まると、たちまち風が熱さとともに汗の水分を持ち去り、乾かしていった。


すぐ側にこようとするエルサの手を取ろうと、両手を伸ばす。


「そこに岩と岩の隙間があるので、思いっきり飛んでください」


もし落ちたら、命はないだろう。

だが、私はエルサを信じて、両手を広げて待つ。


風に溶けるように舞う髪を片手で押さえながら、エルサが私に向かって思い切り飛んだ。

私はそれを全身で受け止めた。


思わず、手を取り合って抱き合うような形となる。


「ふぅ、結構登ってきたね」


エルサとしっかり抱き合っていることで、足元がぐらつかない。

その安定感を利用して、私は真上の空を見上げる。


雲の流れる速度が速い。

これだけ風が強いと、夜は冷えるだろう。


陽が登っている間に、どこか安心して眠れる場所を見つけたい。

広大な景色を前にして、そんなことを考えていると、私の胸元で声がした。


「ねぇ。あそこに見えているのって、私たちの泉?」


エルサの視線を目で追う。

木々に囲まれるなかに、ポッカリと泉が広がっているのが見てとれた。


エルサと行った、あの泉だ。

上から見ると、まさに聖なる泉の聖域を守るように木々が綺麗に囲っている。


「ほんとだ、そうですね。こんな方角に見えるとは」


地上であれこれと地図を開いているだけでは分からないこと、体感として実感しにくいことが、山に登るとよく分かる。


 我が国の領地の末端にある、あの泉。

エルサがまだ姫さまだった頃、私がまだ専任護衛として仕える前、二人でルークとチェスに跨って行った、あの泉だ。


 二人で木々が囲む遠くの泉を見つめる。

その間も、心地よい乾いた風が二人の間を伸び伸びと抜けていく。


背後の木々がさわさわと風に揺れ、その度に光が木の葉に反射してキラキラと煌めいていた。


「あっ」


エルサが急に大きな声を出した。

私は咄嗟に両手に力を込めて、より一層エルサを強く抱きしめる。


周りに気が付いた者がいないか素早く辺りを見回して気配を伺う。

大丈夫だ。


「どうしたんですかっ」


ルカの小声に、そうだ大きな声を出してはいけなかったと思い直したらしいエルサが答える。


「大きな声で、ごめんなさい」


口元を抑えながら、エルサが目をギュッと閉じた。


「どこか、痛みますか」


エルサの顔を覗き込む。

私の両手に力が入っているからか、エルサがそれを和らげるように、両手で包み込むように上から触れられる。


「違うの。いま、思い出したの」


静かにそう告げるエルサに、なんのことかと不思議そうに次の言葉を待つ。


「あのとき、泉に行ったとき。スコールが降って二人で身を寄せて雨宿りしたとき。ルカも、幼少期によくあの泉に来ていたって言っていたでしょう」


目を開いたエルサと間近に目が合う。

私は話の先が気になって、思わずその瞳を覗き込む。


「いま、遠くに泉を見ていたら急に思い出した。燃えるような赤髪を見たことを」


えっ、私は驚きのあまり大きく目を見開く。


「そういえば、木々の隙間に人影を見たことがあったの。目で追ったその子は、私の視線に気がついて、目が合った瞬間に背を向けて走り出した。その後ろ姿の映像が急に脳裏に浮かんできた」


私は信じられない、と言った表情でエルサの言葉を待つ。


「そう、まさに赤髪だった。その走って去っていく背中で揺れる髪は、まるで風になびく炎のような赤い髪だった」


「じゃあ、やっぱり私があの泉でよく見かけていた少女は……」


おかしくなって、フフフと二人で声を押し殺しながら笑う。

声を出してはいけないと笑い声を押し殺そうとするがあまり、目尻には涙が滲んだ。


「私たち、そのときには、もうすでに出会っていたのね」


エルサが目尻の涙を拭いながら、そう言う。

静かに笑い合った後、たがいの瞳が真剣な眼差しに切り替わった。


私はそれを合図に、エルサの腰を自分の腰へと抱き寄せる。

それと同時にエルサは私にしがみつくように両腕を両肩へと回してくる。


まさにいままで話すのに忙しかった唇の動きが止まる。

二入にとって、それが合図のように。


柔らかい唇が触れ合う。

二人の影が一つになり、風になびいた赤髪の毛先がエルサの頬を撫でる。


それはまるで、歓喜の火の粉を散らしながら燃え上がり、どこまでも風に舞い上がる炎のようだった。


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