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歴史上初の女性騎士と、愛で結ばれた姫の物語  作者: 風見 咲良


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【第十六話】謎の光

第十六話 謎の光


〜 女王エルサ side 〜


 爺やたち夫婦も無事に帰宅し、それから数日が経った。


もはや日課となった、いつものように部屋の窓から外の風景を見る。

ここ数日で気が付いたことだったが、遠くに見える山の山頂付近でピカッピカッと光が反射することがある。


それを見た瞬間、なにか胸が騒ぐような違和感を覚えたため、私は密かにそれらを見た時刻や光が反射する回数、そのほか頻度といった詳細を、手帳に書き留めていた。


やはり、今日もまた、明らかに作為的に光が放たれている。街の中心部に向けられているであろうそれは、こちら側からでは角度がやや異なるため、正確に記録するのは難しかった。


だが、数日間の記録を続けるうちに、なにやら信号のような、とある規則性が見受けられた。それらを解読するために夜な夜な、いままでに読んできたあらゆる書物の記録と照らし合わせていた。


コンコンコン。


「どうぞ」


湯気が出ているティーカップを置いたトレーを持って、ルカが部屋に入ってきた。

いつも寝る前に飲むハーブティーを持ってきてくれたのだ。


時間が経つのを忘れるほど集中していたようで、もうそんな時間かと思いながら、ルカを見る。


いつなにがあっても良いようにと、護衛のために私とルカはあの夜以降、同じ部屋で寝ている。


「お身体が冷えます。これでも飲んで、早く毛布に入ってください」


ソーサーの音すら立たせず丁寧にそれを机の上に置いてくれる。


「ルカ、ちょっとこれ見て」


私は今まで睨めっこしていた手帳に記した、とある記録を見せる。


「これは……」


ルカの瞳が、騎士団の任務にあたるときのように鋭くなった。


「ここ数日、あの山の山頂付近で光が反射しているの。それも街の方に向かって」


静かな暗闇のなか、月夜に浮かび上がって佇む遠くの山を指差しながら、私はそう言った。


「つまりは城に向けて、ということですよね」


ルカは開いた状態の手帳を手に取り、解読しようと目を細めている。


「紙とペンを貸していただけますか」


それらをルカに手渡すと、手帳に綴られた記録を見ながら、なにやら横線と点を紙に記していっている。ときには目を閉じて、口でカウントしながら、横線を引っ張り続け、それが終わったと思うと、点を書き連ねていく。


それら一連の作業が終わると、紙には横線と点で記した、まるで手紙のような文章が出来上がった。


ルカと二人で、それを凝視する。


「ルカも、やはりそう思う?」


「はい。やや変則的に変えてあるので分かりにくいですが、一種の信号のようです」


二人の知恵を用いて、出来上がった線と点を一つずつ解読していく。


キタル、ヨテイ、マダ、スコシ、カカル、マタレヨ


シザイ タリズ、マダ カカル、マタレヨ


ソロワズ ナンコウ、マダ カカル


それらのただのテント線の連なりが、意味を持っていると確信したとき。私たちは思わず顔を見合わせた。


緊張した空気が一瞬にして迸る。


「っ、やはり」


不意打ちのコンカ国からの攻撃、開戦、戦争。


そんなワードたちが頭を駆け巡り、日々、着実に開戦のための兵器を着々と準備しているコンカ国の軍人たちの様子が、映像として私の頭に思い浮かぶ。


いったい、どんな兵器を隠してあの山の山頂に準備しているのかまでは分からない。だが、しっかりと地面に備え付けられた大掛かりなミサイル型の大砲であれば、我が国まで容易に届く。


万に一つ、不意打ちにそんなことをされては、被害は甚大なものとなり、全面戦争は免れない。

そんな戦争の火蓋がひとたび切り落とされて仕舞えば、罪のない大勢の国民が一番に苦しむ。


親を亡くした子は、復讐心を持って、再び時が巡れば、また戦へと駆け出すだろう。その連鎖がいく年にも続き、歴史を繰り返すとしたら。仮にそう想像しただけでも悍ましい。


私は、そんなことを決して許さない。

いや、そもそも、そんなことを決して起こさせない。

私は、この命に変えてでも、我が国を絶対に守ってみせる。


国民たちに平和を。この地上に光を。輝ける生きる喜びを。

国民みんなが笑って暮らせるように。


 ここ数日間、まだ半信半疑で、でも心のどこかで確信していた出来事が急にはっきりと輪郭を持ち、現実となったいま。私の心臓の鼓動も自然と早くなる。


そんな私を安心させるかのように、ルカが私の両肩を優しく抱く。


「大丈夫です。阻止できます。私たちは幸運なのです」


色々と言葉を選んでくれたのだろう。ルカもショックを受けているはずなのに、どこまでも冷静さを保っている。優しく抱かれた私の肩に密着したルカの胸元から、素早く脈打つ心臓の鼓動が伝わってくる。


この人も、私と同じことを考えて、感じている。それだけで心強くなった。


私たち二人がいれば、この局面を乗り越えられる。歴史を大きく、より良い方向へと私たちで変えられる。まだ出来ることが、私たちには残されている。

私たちはどこまでも、我が国のために国民のために、戦える。


ルカの手に上から触れながら、ゆっくりと深呼吸をする。


ルカに触れたその温もりが私を安心させてくれる。冷静な声色になるよう意識しながら、ルカに言う。


「こんな極秘の相手の作戦に気がつけたのは、私たちがここにいたからね」


「はい。しかも、相手方は私たち二人はもうすでに死んだものと思っています。ですので、好都合この上ないでしょう」


国の存亡がかかった事態であるのに対して、私たちは二人並んで希望を見つめ、微笑んでいた。


 そこからは、ルカと緻密に計画を練り、どのように相手の作戦を阻止するか、来たる旅に備える日々が続いた。


幸いなことに、山頂での作業は難航しているらしく、「マダカカル」という光信号が出続けていた。


「あれだけ高い山の上に壮大な装置を備え付けようと考えれば、それだけ莫大な時間と労力ががかかって当然ですね。どうやって資材を運び切るつもりなんでしょう」


ロウソクの朧げな光がゆらめき、空っぽのティーカップが置かれた机で、ルカと静かに話し合う。


「相当な人手が必要だし、食糧なども一体どうしているのか」


ブツブツとルカが相手側の心理を読もうと、あれこれ思案している。

その様子を見ながら、つい私はこの旅が終わった先を考えてしまう。


「ねぇ、ルカ」


急に変わった私の声色に対して、ルカがパッと顔を上げる。ルカの瞳にカゲロウが映って、まるでその瞳に炎が宿っているようだった。


「この先、いったいどうなると思う? 私が本当に居なくなった後、我が国は? 国民たちは? ……どうなるの」


話し始めて、己で情けないと思いながらも、涙が滲んで声が震える。


ルカが、フッと短く目を細めて笑い、私の右頬に伝った涙を指で拭い取った。


「エルサ、私たちは死にに行くのではありません。生きるために、行くのです」


それに……言葉を続けながら、ルカが私の手を取る。二人でしっかりと手を握り合う。私の震える指先にルカの体温が伝わってくる。


「どこまでも、二人一緒です。私がいます」


私は目を瞑りながら頷いた。その瞬間に目に溜まっていた大粒の涙がこぼれ落ち、再び目を開けると視界が以前より鮮明になっていた。その澄んだ瞳で、しっかりとルカの瞳を捉える。


「死ぬのが恐いわけじゃないの。ただ、その後は、どうなるんだろうって思うだけ」


「こんな感じですよ。きっと」


そう言ってルカが、おいでと言わんばかりに両手を広げる。

私はそれらに誘われるようゆっくりと近づき、次の瞬間には温かさと安堵に全身が包まれた。

ルカの背中に手を回して、二人でしっかりと抱き合う。


「こんなふうだったら、いいけれど」


ルカの肩口が、私の吐息で熱くなる。


ルカが私の腰を引き寄せる。


そこから二人で毛布に潜り込み、まだ生きているという実感と、肉体を持つ喜びに全身が包まれたまま、朝を迎えた。


◇◇◇


 長期保存が可能な食料を調達し、長い旅路に備えた諸々の装備を整え、あとは出発の朝を待つのみとなった。


「明日の朝、発ちます」


いつもと変わらない朝食の席で、爺やたちにそう言った。

何気なく、まるで普段の会話のように。


その言葉に、爺やは婆やと顔を合わせて、寂しそうな顔をした。


「分かりました。いつか、その日が来るのだろうと覚悟はしておりましたが、いざ直面すると、感情は隠せないものですな。笑顔でお送りしたかったのに」


下を向いて、押し殺した泣き声を静かに上げる爺やの背中を、涙をこぼしたままの婆やが優しくさする。


自分のために、泣いてくれる人がいる。

自分を愛してくれる人がいる。


ここにいる四人全員が、生きて戻っては来られないだろうと、心のどこかで覚悟していた。


相手の人数や、私たち二人で行える作戦の限度を考えても、それは免れないだろう。

だが、私の気持ちは不思議と清々しかった。


死にに行くのではない、生きるために行くのだ。

ルカがくれたその言葉が、どこまでも私を鼓舞し続けた。


 チラリと横目で、ルカの表情を盗み見る。


ルカはどこまでも優しい表情で爺やと婆やを見つめていた。

口元には微笑みまでを浮かべている。


 私の視線に気がついたのか、ルカと目が合う。

膝の上に置いていた手の甲に、温かい感触が広がる。私の手の甲をルカの親指が撫でる。


ルカと静かに頷き合う。それだけで、私は十分だった。


「さっ、食べましょう。我が国に、乾杯」


私の合図に、爺やと婆やも顔を上げ、ワインの入ったグラスを掲げて祝杯を挙げた。

四つのグラスが合わさり、カチャンと高い音を響かせた。


どれもがこの家で過ごす最後なのだと悟ると、一つ一つ、どんな些細な日常のことでも、ありがたく愛おしいものに思えた。


 朝食をとり、畑仕事をし、昼食を食べ、また働き、晩には祝杯を交えて、身を清めて眠りにつく。

それらすべてが尊く、同じような繰り返しに思えても、どれもが史上の喜びなのだと、あらためて気がつく。


私が守りたいのは、この平和で平穏な日常だ。

みなが飽きるほどの平和を。


争いを知らない子どもで我が国を満たすこと。

それで将来の子どもが平和ボケしていると詰られても、そんな幸福な詰られ方があるだろうか。


私が作りたい、守りたいのは、そんな国だ。

それが、私の役目。

そして、それが私の幸せ。


私が私に生まれたからこそ、歩くことのできた道。

もがいて生きた日々の経験や思い出すべてが、いまとなっては愛おしい。


そして、なによりも私が私に生まれたからこそ出会えて愛した人、ルカ。


私は、それらすべてに感謝している。

どんなに苦悩し、もがいた日々も、すべて私しか辿れなかった道。


私は、それらすべてを抱えて、宙に還る。

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