【第十二話】久しぶりの来客
第十二話 久しぶりの来客
〜 女王エルサ side 〜
トッ、トッ、トッ。
力強く土を蹴って駆ける馬の足音が、かすかな地響きのように遠くから聞こえる。リズミカルに跳ねるように、でもしっかりと一歩ずつ踏みしめて力強く。その足音の強弱で、乾いた硬い土の上を走っているのか、湿った芝生に入ったのかが分かる。
足音が着実に近づいてきている。 私は窓に人影が映ってしまわないように注意しながら、こっそりとカーテンの淵から外を覗く。
地面に豊かな緑が折り混ざる広大な大地に、一点の光が動いて近づいてきている。
まるで太陽の光を乱反射させてキラキラと光る水面のように、光を反射している黒い馬。
それに乗っている、華奢でスラリとした体。
赤い髪が風になびいて、ユラユラと風に煽られる炎を思わせる。
その姿を見た瞬間、心臓がドキリと高鳴った。
ルカとルークだ。
息を潜めてじっとその場にいるだけなのに、まるで激しく階段を駆け上がったときのように心臓がバクバクと音を立て始めた。
もう三年にもなる。
私のことを死んだと思っている人。
生きているのに、もうこの世では会えない人。
すぐそこにいるのに、会えない人。
私はここにいる、それを知ってほしい、すべてを知ってほしいとワガママに願ってしまう。
私が、唯一わがままに感情的になってしまう相手。
いつだって、それはルカだった。
そんな考えが頭をよぎったところで、この生き方を選んだのは他でもない自分なのだと、そのワガママな衝動にそっと蓋をする。
たしかにこちらに近づいてくるルカとルークの存在を感じながら、いつものように部屋のクローゼットのなかへと身を隠した。
窓から人影を見せてしまうことすら、防がなければならない。
物音を立てることすら、言葉を発することすら許されない。
貴女を巻き込みたくない。
「ルカ、私を国に連れて帰って」
もし、そう伝えれば、貴女は必ず遂行するだろう。いつもの礼儀正しい敬礼と鋭い芯を持った眼差しで。
だが、もし失敗に終われば、二人で地獄を見る。貴女にそんな運命を辿ってほしくない。
我が国を守ることを第一に考え見るものの、答えが出ない。出せない。自分の立場を踏まえての考えと、ただ一人の人間としての感情が交錯する。ずっと、その繰り返しだった。
この運命に生まれついたのであれば、それをまっとうしようと決心したのだから。
〜 ルカ side 〜
女王様が亡くなってから三年。
いまだ慣れない女王様不在のバルコニーを見つめる朝礼が終わった後、団長から呼び出された。
それは、田舎に移り住んだ爺やの様子でも見て来い、という命令だった。
おそらく、遠いところまで行って新鮮な空気を吸い、羽を伸ばして、少しは気分転換してこい、という団長なりの思いやりもあったのだろう。
女王様が亡くなり、さらには爺やまでもが城を去った後、私は、以前のような覇気をどこかに失くしてしまっていた。まるで、心にぽっかりと穴が空いたように。そこに吹く風は、もはやただの通り風となっていた。
その穴に、いつか女王様の息吹が再び吹き込んで、いっぱいに満たしてくれないかと願いながら、ただ淡々と過ごす日々を送っていた。
女王様がいて、その瞳を見つめては心を大きく動かし、この命を燃やしていたころとはとんだ違いだった。まるで、前線で活躍していた騎士が引退し、隠居老人になったような暮らしぶりだった。
だが、そんな日々でも時は経っていく。日に日に命は燃えていく。まったく同じように思える日々でも、季節は巡り、風の匂いが日々変わる。そこに住む虫や小動物たちが毎日忙しなく動いている。必死に生きている。
一日たりとも、同じ日などないのだと、自然のなかに身を置いていると、実感となってやってきた。 朝起きて、今日も生きているのだと実感して、起き上がる。それが良いことなのかどうか、まだ分からない。
こんな姿に成り下がってしまった私を、女王様が見たらどう思うだろうか。もう何度目かも分からない、そんなことばかりを考える。
風が吹くたびに貴女を思い出し、食事をすれば舞踏会や会食での貴女との会話を思い出し、水に触れても、どこにいても、なにをしていても、目の前のことよりも貴女のことで頭がいっぱいになった。
寝る前には、今朝みた夢の続きで、貴方に会えないかと思いながら眠りに落ちた。
夢のなかで、貴女は私に向かって精一杯に手を伸ばす。
私は必死にそれを掴もうとする。
やっと掴んだと思った瞬間、貴女は優しく笑って、掴んだ私の手を優しく包み込んで、また離す。
私は、それらすらをも振り切って、必死に掴もうとする。だが、もう届かない。
貴女はいつも微笑みながら、光のなかへと一人で消えていってしまう。
それを追いかけようとして目が覚める。
天井に向かって精一杯差し出した自分の手が視界に映る。
どうして。
私は、その手を離したくない。
もう決して、貴女の手を離さない。
誰知れずそう心に誓ったところで、もう貴女はいない。
◇◇◇
爺やの家までは、数日あれば着くだろう。通過する途中の街で泊まる計画を立てる。
いまは風も涼しく、爽やかな気候のため、休憩さえ十分に取っていけば、ルークの体力も大丈夫だろう。それでも、最も暑い陽の時間帯を避けるため、久しぶりに市場まで出向き、食料などを調達して準備を整えようと考えた。
我が国特有の天候だからこそ、美味しく育った果物を手土産にしようと、屋台を物色する。ここ最近は天候も比較的安定しており、我が国の経済状況もやや上向いてきている。
桃を手に取り、品質を確かめる。産毛が柔らかく、力を入れれば潰れてしまいそうな感触が手に触れた瞬間、舞踏会で女王様が召し上がっていた果物のコンポートを思い出す。
「これ、美味しい!」私に向けられた、無邪気な女王様の笑顔。
私の分を差し出したら「ルカもちゃんと食べて」と、召し上がらなかった。
「二人で食べるから、もっと美味しいんでしょ」
そう言う女王様の横顔を見て私は笑いながら、スプーンを口に運んだ。そのときの鼻に通る豊かな香りまで覚えている。
そんなことを思い出しながら、さっき収穫したばかりだという新鮮な桃を手に入れた。
この涼しさであれば、数日は持つだろう。ルークに装備した麻袋に入れ込んで、落ちてしまわないように開口部の紐を固く結ぶ。これで準備は整った。
ルークに跨った状態でポンッと脇腹を軽く蹴る。陽の影り具合を見計らって、私は爺やの家へと出発し、国を後にした。
国境を跨ぐ際、最後に見上げた城は、立派でどこまでも尊厳だった。
なぜか今回だけは、しっかりとこの景色を心に焼き付けおこうと思い、またルークの横腹をポンっと蹴った。
〜 エルサ side 〜
階下の玄関から、久しぶりに再会した賑やかな会話が聞こえてくる。
ルカの声が耳に届いた瞬間、私は声を押し殺してうずくまった。鼻を啜る音を立ててはいけないと思い直すものの、息苦しいクローゼットの蒸し暑い空気のなか、湿度を増させるように押し殺して泣き続けることしかできなかった。すぐそこにいる。
けれど、会えない。
私は、生きたまま死んだも同然なのだから。
階下の話し声が微細な振動となって、クローゼットの床から伝わってくる。クローゼットの真下には、食事をとる丸テーブルがちょうど位置しているため、そこで座って話し合っているのだろう。
私はそっと静かに、床に耳を押し当てる。
自分の声や鼓動、吐息すらも押し殺しながら、響いてくるルカの声に耳を澄ませる。目を閉じて、ただ耳を澄ませていると、脳裏に話している様子が映像として浮かんでくる。
燃えるようなウェーブした赤い髪、澄み切ったスッキリとした声、力強い目。その目に、もう私が映ることは許されないのだと考えると、胸が悲鳴を上げる。ここにいるのに。
そこにいるのに。
高い山々に囲まれたこの地は、陽が山陰に入ってしまうのが早い。そのため、ルカは今晩ここに泊まっていくだろう。
一通りの挨拶が交わされた後、ルークを丁寧に納屋に寝かしつけている物音が裏庭から聞こえてきた。
ルーク。
ルークとチェスに跨って、共に城から泉へと広野を駆けた日々。
なんと、自由で幸せな日々だったのだろう。
自分の脳裏に焼き付いている光景を思い返しながら、私はクローゼットの床へと静かに横になった。
クローゼットの扉のわずかな隙間から、果物を煮詰める爽やかで甘い香りが漂ってくる。我が国の名産品の桃を煮詰める匂い。ルカと二人で食べた味を思い出す。言葉を交わしながら食べた。思い出の桃のコンポート。私の喜ぶ様子を、あたたかく包み込むように見守るルカの顔。
どれもこれも、ちゃんと覚えている。
そんなことを思い出していたら、いつの間にか私は眠りに落ちていたようだった。
〜 ルカ side 〜
久しぶりに、爺やと女王様の話を気兼ねなく出来ることが、私の心を救ってくれた。
相変わらず爺やも、そして爺やの奥さんも元気そうだった。女王様の思い出話をしながら、偶然か運命か、手土産にと持っていった桃はコンポートとなって夕食にて振る舞われた。
食べながら、また思い出す。
目の前に見慣れた爺や夫婦がいることで、どうしてそこに貴女がいないのかと、まだ思う。
「今晩はもう遅い。ぜひ泊まっていってくださいね」
その言葉を期待していなかったわけではなかったが、爺やたちが心からそう言ってくれてると実感して、その変わらない温かさに安堵した。
一晩を越すため、ルークを裏庭にある納屋に寝かしつける。
ここは高い山々に囲まれており、反対側には広大な大地が広がっている。だが家の敷地内に大きな木が何本もあるおかげで、それらが防風林ともなり、広大な土地にポツンと家があるにもかかわらず、どこか囲まれて守られたような聖域が広がっていた。
家と山の境界線まで広がっている菜園を横目に、納屋へと進む。菜園を踏み荒らしてしまわないよう気をつけながら、ルークを連れて行く。
ルークを入れた納屋から出て菜園を見る。丁寧に手が入れられた菜園から、爺や夫婦の日々が垣間見えるようだった。高い山々に囲まれ、強い風に吹かれながらも、しっかりと地に足をつけて生活を営んでいる。
以前なら気がつかなかった、気も向けなかったような事柄だ。
そんなことを考えながら、ふと二階にある出窓を咄嗟に見上げた。なにか気配を感じたのだ。
その瞬間、部屋の内側でフワッと白いカーテンが動いた。それが一瞬、白いワンピースに見えた。
女王様が好んで着ていた服装。一瞬、女王様かと空見して、勝手に心臓が持ち上がる。
だが、よく見ると少し開かれた窓に夜風が吹き込み、カーテンのレースがそよいでいるだけだった。いつまでも、どこまでも期待してしまう。どうしても、いつか貴女に会えるような気がしてしまうから。
そんな自分に対して寂しく笑いながら、玄関の扉を開け、家へと入った。
爺やが私が泊まる部屋へと案内してくれる。
一階から階段を上がると、二階には部屋が三つあった。右側に二つ扉があり、左側には扉が一つある。左側の扉から覗く暗い室内には、ベットが二つ置いてあった。おそらく、爺や夫婦の寝室なのだろう。
右側にある奥の部屋は扉が閉められており、電気もついていないようだった。先ほど出窓からカーテンのレースが覗いていたのは、そこの部屋のはずだ。
その扉を見つめていると、手前の部屋へ「こちらに、どうぞ」と爺やに促され、今晩私が泊めてもらう部屋に入った。こじんまりとはしているが、たしかに木の温もりが感じられる良い雰囲気の部屋だ。
私は持ってきた荷物を床に下ろす。
「もしなにか御用があれば、私たちは向かい側の部屋におりますので、お声掛けください」
部屋をザッと見渡しながら、私は尋ねる。
「隣の、出窓がある部屋は使っていないのですか?」
爺やは顔色ひとつ変えず答える。
「はい。物置部屋として使っておりますので、扉は閉めています」
案内された私が泊まる部屋の窓を見る。普通の窓だ。わざわざ出窓がある過ごしやすい部屋を物置部屋として潰す? 私は不思議に思いながらも頷いた。
「ありがとうございます。では、ゆっくりと休ませてもらいます」
そう返事をすると爺やは部屋の扉を閉めて出ていった。
部屋に一人。ベットに腰掛けて、窓から見える夜空を眺める。
夜露が降りるかも知れないのに、物置部屋の窓を開けておくだろうか? そう不審に思いながらも、旅の疲れを癒そうと着替えてベットへと潜り込むと、知らずの内に私はすぐさま眠りの床に着いていた。
なつかしい夢だ。
まだ女王様が結婚する前。姫さまがルークに乗って、泉へと駆けている夢。白いワンピースの裾が風を含んではためき、陽の光を浴びて風に溶ける黄金の髪。
それはまるで、風に揺らめいて溶ける光のようだ。いつもそこで目が覚める。続きを夢見ていたいのに、いつもそこで終わってしまう。
ゆっくりと目を開けると、青白い月光が反射した見慣れない天井がある。それをぼんやりと見ながら、そうだ爺やの家に来ていたことを思い出す。
いままで見ていた夢があまりにも鮮明だった分、すっかり目が覚めてしまった。身を起こして、窓からの景色を見る。
広大な大地を月夜が柔らかく照らしている。
来たときには気がつかなかったが、少し離れたところに小さな池があるのが見えた。
月夜を反射して、そこだけが光って見える。
見知らぬ土地を散策してみるのも、良い気分転換になるかと思い、凛とした月夜の散歩に出ようと行動服に着替える。爺や夫婦を起こさないよう忍足で階段を降り、扉を静かに開けて外に出た。
忍足で音を立てないように力を入れて家のなかを歩いていた分、外に出た瞬間に精一杯、身体を伸ばした。自然と深い呼吸ができるようになり、解放されていくのを感じる。
光る水面が忘れられず、私は南にある小さな池の方を目指した。部屋から見ると近いと思っていた池だったが、実際に歩いてみると思ったよりも距離があった。
ただ、その分さらに人気を離れて、まるでこの世界に自分しかいないのではないかと、そんな幼稚な錯覚を覚えるほど、静かな場所にあった。まるで神聖な池を守るかのように、大小の木々に囲まれていた。
近づけば近づくほど、池があるのかどうかすらも分からない。少し高い場所からしか見えない立地になっているのだ。だから到着したときも目に付かなかったのかと納得する。 木々を掻き分けながら、池へと向かっていく。
いったん水の匂いが感じられるほど近づけば、草原のような低い草木が広がっており、ある程度は開けていた。水面が静かに、それでも絶え間なく、そよ風によって揺らめいている。
月の光が水面に揺らめいて、まるで第二の宇宙を見ているようだった。 草木の間に腰を下ろす。体育座りのように座れば、自分の顔あたりまでは草木が伸びていた。少し身を隠しているような気分になって、それはそれで気持ちが良かった。
水面が揺らいで、水の匂いがする。月夜が柔らかく辺りを照らしてくれているため、少しの範囲なら見通しも効く。しばし、物思いに耽る。
「女王様。もう一度お会いしたいです」
思わず、口からそんな言葉が出た。ただ、口にしたところで、音は泉のなかへ沈んでいき、声は風に乗ってどこかへ飛んでいった。私は顔をうずめて、ただ地面を見つめていた。
「私も」
なんて聞こえたように思ったのは、風のいたずらだろう。
〜 女王エルサ side 〜
息を潜め続けていた緊張からか、はたまたクローゼットのなかでの窒息しそうな窮屈さからか、いつの間にか眠ってしまっていた。
視界が効かない真っ暗ななかでは、視覚以外の五感が研ぎ澄まされる。
外から聞こえてくる虫の音などで、いまが真夜中だということが分かる。
こんなにも近くにルカがいながら眠ってしまった不覚を残念に感じながらも、起きていたらどうしても物音を立ててしまっていただろう。だから、それで良かったのかもしれないと思い直す。
近くにいても、触れることも話すことも見ることすらも許されないのだから。
隣の部屋では、ルカが寝ている。そのことを考えながら、ゆっくりと静かに細心の注意を払いながら、私は姿勢を正した。起き上がってみると、お腹が空いていることが分かる。もっと言うのであれば、お手洗いにも行きたい。
普段は来客などほぼ皆無なため、こんなにも長い時間、部屋に身を隠していなければならないことはなかった。いつもなら部屋へと運んできてもらう食事も、今日はさすがにお預けだった。物置部屋に料理が運ばれていっては不審そのものだから。
どうしたものかと思いながらも、生理現象であるそれらを必死に耐える。だが、意識すればするほどお腹は空くし、女王のプライドとして部屋で用を足すのはどうしても避けたい。あたりが寝静まっている様子を耳を澄まして確認してから、ゆっくりとクローゼットの扉を開ける。
今宵は月夜であったことに気がつき、その優しい包み込むようなほんのりとした明るさに安堵する。窓から差した柔らかな月光に安堵するほど、いままで閉ざされた真っ暗闇な世界にいたのだ。
窓からひんやりと心地いい風が入ってきている。空気が循環しないクローゼットから解放され、全身を伸ばしながら静かに深呼吸をする。窓枠の軋む音に懸念しながらも、私は出窓から少しずつ身を乗り出す。
物音を立てないように、すぐ近くの木に飛び移る。木の感触を裸足で感じながら、少しずつ降りていく。
地面に降り立ったとき、木の影から2階を見上げた。ルカが泊まっている部屋にはなんの変化もなく、カーテンすら揺れていないことを確認して、静かに家の南側にある小さな池の方へと走った。もしかしたら、納屋にいたルークは物音に気が付いたかもしれなかったが、私の姿はだれも人間には見られていない。
◇◇◇
池のすぐ脇の茂みで用を足し、帰ろうと思ったとき。どこからか池へと静かに近づいてくる人の気配があった。すかさず殺気立った目を暗闇に走らせて、木の影に潜む。
草木をかき分ける足音で、どのぐらい相手と距離があるかが分かる。相手からの死角に入るため微妙に位置をズラしながら様子を伺う。
近づいてくる足音の軽さから、男性ではないのが分かった。
低い草木のところへ一人の人影が姿を表した。
燃えるような赤い髪、スラリとした姿、力強い目。
ルカだ。
どこまでも奇遇な運命を感じながら、その姿を木の影に隠れて遠くから見つめる。せめて遠くから見るだけであれば、許されるだろうと思いながら。
眺めているうちに気がついた。ルカは泣いているようだった。
池近くの茂みに座り込んだ背中は寂しげで、力がなく、まるで幼い子がひとりぼっちで泣いているかのようだった。
いますぐに駆け寄って、その背中を抱きしめてあげたい。そう願えば願うほど、私は胸の奥が痛くなった。
静かに去ろうと右足を引いたとき、ルカの声がした。
「女王様、お会いしたいです」
風に乗って私の耳に届いたその声。
私は声を発してはならないと強く思いながらも「私も」と噛み締めながら静かにそう呟いた。
その瞬間、ルカが空を見上げた。
その背中を最後に見て、私はまたクローゼットへと走るのだった。




