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歴史上初の女性騎士と、愛で結ばれた姫の物語  作者: 風見 咲良


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【第十三話】街での運命の再会


十三 街での運命の再会



〜 ルカ side 〜

 

 黒いスカーフから、瞳が覗いていた。


その瞳と目が合う。


その瞬間だった。私は、まさかと思った。

まるで雷に打たれたように、衝撃が脳天からつま先へと迸ったようだった。


身体中に歓喜が満ち溢れ、このまま天に登り詰めても不思議ではないと。


「貴婦人の方、右足に怪我をしておられるのでしょう。乗ってください」


繁華街の雑踏のなか、私は周囲にいた街の人たちの気を引かないよう、できるだけ静かにそう言った。

後ろに乗るように仕草で促したものの、黒いスカーフの女性は躊躇する。


これ以上、時間をとっていては人目を引いてしまう。


 私はもどかしくなり、半ば強引に女性の両手を掴み取って、そのまま力づくで抱き上げようと試みた。間もなく観念したのか、それをキッカケにその女性は自らルークに跨った。


その動作は慣れており、軽やかで滑らかだった。

細くしなやかな体つき。


服装だけでは隠しきれない、高貴な雰囲気と佇まい。

誤魔化しきれない、その瞳。


女王様だ。


生きておられた、生きておられた!


その喜びは、幾千もの命を繋いで生まれてきたこの世の喜びが凝縮されているかのようだった。


生まれてきて良かった。

そう心から思えるほど、至福に包まれた瞬間だった。


 ルークから振り落とされないよう、真後ろに乗せた女性の両腕を自分の腰へと促す。

背後からそっと抱きしめられるような、包み込まれる感覚が、これが現実であり、私たちはまだ生きているという現実味をもたらした。


 誰に見られても困るため、私もすぐさま風除けのスカーフを顔に纏い、出発の合図としてルークの脇腹を軽くポンっと蹴る。幸いにも、人通りの少ない街の石畳を抜け、人間の姿が見えない草原へと入る。


全身に風を感じる。走りながら、喋りかける。


「生きておられたのですね! 女王様」


抑えきれない興奮が声に乗るものの、風が、すぐに私の言葉を持ち運びさってしまう。


目から流れ出る止め処ない涙が、すぐさま目の下に巻いたスカーフへと吸収されていく。

背後の女性から返答はない。だが、私は続ける。


「どのような事情かは、まだ計りかねます。ですが、このルカ・エクセス、もう二度と貴方様のお側から離れることはいたしません」


相変わらず、背後の女性からの返答はなかった。だが、さっきまでよりも一層、私の腰を抱く女性の両腕に力が入るのを感じ、背中に頭を垂れる温かな重みを感じた。


それらすべてが、幾千もの言葉を重ねるよりも、私にとってはるかに意味を持った。


「どう、どう」


女性といえど、大人二人を乗せ、街から爺やの家まで疾走してくれたルークの興奮を落ち着かせて、立ち止まる。


 辺りに人がいないことを再度確認して、私が先にルークから降りる。


すぐさま女王様に手を差し出し、今度は差し出された女王様の手をしっかりと掴む。女王様を先に爺やへの家へ入らせてから、私はルークを納屋へ連れて行ってから、爺やの家に入った。


後から入った私を、驚いた表情を浮かべた爺や夫婦が出迎えた。


「女王様、ルカ様。どうして……」


俯きがちに立つ女王様と、私の顔を何度も見比べて、爺やが尋ねる。


自らは話し出そうとしない女王様の様子を見て、私が答える。


「私が、女王様を街でお見かけしたのです」


その発言を聞いた爺やも、どんな言葉を返せば良いのか分からないのだろう。無言の空間が行き詰まったとき、奥から紅茶を淹れた婆やが出てきた。


「立ち話もアレですから。座ってじっくり、お話しされたらいかがでしょう」


爺やが頷いて、ダイニングにある木製の丸テーブルの椅子を引いて私たちに着席するよう促した。


 四人でテーブルを囲む。

私は両膝の上でギュッと拳を握っていた。


次第に女王様の口から、ポツリポツリとこぼすように語られた言葉たちで、事の顛末を伺った。


「……やはり、私が到着した晩、二階の窓に見たあのお姿は、女王様だったのですね。ならば、どうして。真っ先に、この私に、生きていると伝えてくださらなかったのですか!」


まだ私に詳しい事情を伝えることを躊躇している女王様に腹が立ち、語気が自然と強くなってしまった。つい机の上に置いた手のひらで、拳を強く握る。


「私はずっと、女王様が亡くなったと聞いて……もうお会いできないのだと……」


話しながら涙が溢れ出そうになるのを隠そうと、下を向いた。その瞬間、太ももの上に大きな涙の粒がいくつかこぼれ落ちた。


真正面に座る女王様は相変わらず、表情を変えずにただ一点を見つめるように、心の内を悟られぬような振る舞いを続けている。そんな女王様の態度に、つい思っていたことが口から出る。


「……やはり、私が謀者だと女王様も疑っておいでだったのですか?」


女王様が、そんなことではないと、静かに首を横に振る。


「ルカを巻き込みたくなかったからよ」


その言葉に、私は勢いよく女王様を睨みつける。


「ここまで女王様のお側に仕えておきながら、いまさら私を巻き込みたくない⁉︎」


言葉の勢いのまま、椅子から思わず腰を浮かした私を、両隣に座っていた爺やと婆やが慌てて抑える。


「そんなにも私は、このルカ・エクセスは、信頼が無く頼りがないですか⁉︎」


毅然とした表情で、女王様が言う。


「この度の不祥事は、国の顛末を担う女王である私が、己の未熟さから引き起こした事態です。すでに謀者であるなどど理不尽な容疑がかけられ、不名誉を被らされている貴女に、この件でさらに窮地に追い込むようなことはしたくなかった、という私の個人的な意向でした」


口調も、語られる言葉も淡々としているが、それらに隠された女王様からの心遣いに気がつき、私は脱力して、椅子に身を預ける。


そんな私の様子を見た女王様が、一段階柔らかい口調へと戻り、話を続ける。


「今朝、ルカがもう城に帰ったと爺やから聞いたから、いつものように未亡人の格好をして、街へと出かけた。コンカ国の城から逃げ出してからずっと、私が密かな反撃として行っている朝の情報収集へとね。未亡人の格好をして市場を物色するフリをして、街の人々の噂話に聞き耳を立てて回っているの。この国の現状を少しでも知ろうと、我が国にとて有益な情報がないか探ろうと。 私こそ、このコンカ国では正真正銘の謀者になっているということ」


謀者という言葉で、目が合う。その瞳は、まるで二人だけの秘密を共有する少しいたずらな少女のようだった。


「すると、そこで偶然にも城へと帰る前に、コンカ国の市場を偵察していたルカと鉢合わせしてしまった。私は黒いスカーフで顔すらも覆い尽くしていたのに、瞳があった瞬間に、ルカは手を差し伸べてきた。あれ以上、私たちが顔を合わせていたら不審に思われるだろうと思い、私は観念して咄嗟にその手を取った」


女王様の両手を掴んだ時の、黒いレースの手袋の感触を思い出す。


「私は、もう今後一切、誰にも姿を見せないつもりだった。『私は死んだ』ということにしておいて、と爺やたちにも頼んでいたから」


爺やと婆やが目配せをして、ソッと席を外して二階へと上がっていく。


「生きたまま、死んだように隠れて生きることで、私にもまだ我が国のためにできることがあるかもしれないと、そう考えたから」


爺やたちの後ろ姿を見送った女王様が、机の上に置いた私の拳に両手を重ねる。


「ルカ。私は貴女を守りたかった。それが、私から示せる唯一の愛の証だったから」


私はなにも言わずに、下を向いたまま首を振る。


「女王様。貴女は間違っています」


顔を上げると、目を見開いた女王様がいた。


「……間違っている?」


いま放たれた言葉が聞き間違いではないかと疑うように、私に問う。


「はい。間違っています。貴女の愛は」


真正面に座る女王様を見据えて、私は言う。


「私がいつ、貴方様に『守ってください』などとと申し上げましたか」


女王様の手が、私の拳をより一層、強く握る。


「もし仮に、この国の領地内で、私と一緒にいるところなどが見つかれば、貴女も地獄を見てしまう」

私は笑う。


「それが一体なんだと言うのです。昇るときであれ、堕ちるときであれ、私はいつだって貴女と二人で乗り越えたい。私はエクセスの称号を得たとき、貴女の専任護衛に任命されたとき、貴女を守りたいと申し上げ、それを生涯を通して果たすと誓いました。それが私の願いだから。それが唯一、私が示せる貴女への愛だから。でも、貴女はそれすらを受け取ることを拒んだのです。私の愛を拒んだも同然です」


なにを言うのかと、いまにも怒り出して口を開いた女王様を制して私は続ける。


「私の愛が、女王様には伝わっていないのですか……? エクセスの称号のために女王様に尽くしてきたのでは決してありません。こんなにも心身ともに捧げ、貴女様の信念のためならばと、胸を貫くような痛みを抱えて、身を引いた」


女王様の瞳が、あの日二人で見た泉の水面のようにゆらゆらと小刻みに揺らいでいた。


「それらに加えて、このまま貴女がこの世に生きていることすら私が知らぬまま、痛みを抱えて日々を生き、一人孤独に死んでいけと? そんな生き方に、なんの意味があるのですか」


気が付くと私の頬には涙が流れていた。

泣きじゃくるわけではなく、ただ静かに頬を涙が伝った。


女王様が立ち上がり、私の隣へと歩み寄る。

女王様の両手で顔が包み込まれ、その胸に抱かれた。


私の涙で女王様の胸元が濡れていく。その胸元にだんだんと涙が濡れ、服の色が変わり、まるで泉の水面のように静かに広がっていく。


「ルカ。私は、貴女を愛しています」


頭上から、今までに一番近く、深い声がした。

私は思わず立ち上がり、全身で精一杯の力で女王様を抱き締める。


「女王様、私も貴女を愛しています」


その心に直接伝わるように。今度こそ、ちゃんと気持ちが届くように。私は抱かれた胸元に向かって、そう言った。


私たちは、生きながらに一度ずつ死んだのだ。


死んだように隠れて生きることは、もうしない。

再度与えられたチャンスを、精一杯生き抜くのだ。


私だからこそ、生きられる道を歩むのだ。


もう二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、生まれ変わって生きていく。

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