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管理人、パー子姉さんの「AIマンション・オアシス幕張」  作者: 東曌


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第42話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】歌声スナックCanadaのオーバーレイ(Airペイの陥穽・WAONの逆襲編)

【AIマンション・オアシス幕張 外伝】歌声スナックCanadaのオーバーレイ(Airペイの陥穽・WAONの逆襲編)


[午後11時15分・歌声スナックCanada]

「は、はは……。JCBのクレジットカードも、絶滅寸前のQUICPayも、アプリ層のセキュリティ・オーバーレイで全滅か。やっぱり僕の数百億の資産は、このスナックじゃハイボール1杯にも変わらないのか……」

完全に電子決済の手段を失い、カウンターでガックリと項垂れるジョウ。


だが、iPadの画面(Airペイのオーバーレイ)を未練がましく見つめていた彼の目に、ある「奇妙なアイコン」が飛び込んできた。

JCBやVisaのロゴがグレーアウト(利用不可)している中、画面の隅で、紫色の犬のマークと、カラフルなキリンのマークだけが、不気味に鮮やかに発光しているのだ。


「ま、待てよ……。ママ、このAirペイの画面……まさか」


「あらいやだ、気づいちゃった?」

365ママが、茹でピーナッツの殻をゴミ箱に捨てながらニヤリと笑った。


「うちはスナックだからねぇ、常連のババアたちが昼間にイオンモール幕張新都心やイトーヨーカドーでポイ活した帰りに寄るのよ。だから『きらぼし銀行』の担当者に頼んで、クレジットカードは全部止めて、決済できるのは【WAON】と【nanaco】の2種類だけにアプリをカスタムしてもらったのさ!」


「な……何だってぇぇぇ!!」


ジョウの頭の中で、Mojo言語のコンパイラが光の速さで再起動を始めた。

さっき「ワイズマート幕張本郷店」のセルフレジで非対応と言われ、ただのプラスチックのゴミと化していたジュラルミンケースいっぱいの『無記名WAONカード』。それが、この昭和レトロなスナックCanadaにおいてのみ、唯一無二の「基幹プロトコル(通貨)」として君臨していたのだ。


「ハハハ! 盲点! まさかスナック側が流通系IC特化型のアドホック・ネットワークを組んでいたとはね! 僕の無記名WAONのプール(数百万円チャージ済み)が、ついに火を吹くぞ!」

ジョウは狂喜乱舞しながら、ポケットから紫色のWAONカードを引っ掴み、iPadに接続されたリーダーへ叩きつけた。


――『ワオン!』


歌声スナックCanadaの店内に、どこか気の抜けた、しかしジョウにとっては勝利のファンファーレとなる電子音が響き渡る。

「勝った……! ついにJCBのコンプライアンスも、タエコおばさんの反社チェックもすり抜けて、決済(コミット)が成功したぞ!」


「へぇ、やるじゃないの小僧」


ボックス席からマイクを持ったタエコおばさんが、データロガーを片手にニヤニヤしながら歩いてきた。

「確かにその無記名WAONなら、JCBの深夜一括バッチ(反社チェック)はすり抜けられるさ。だけどねぇ、さっきアタシが言ったことを『忘却(オブリビオン)』しちゃ困るよ。あんたが今、ドヤ顔でタッチしたそのカード……名前も電話番号も登録してない『完全無記名』だろ?」

「フン、それがどうした! 匿名性こそ最強のセキュリティーだ!」

「ひっひっひ、だからバカだねぇって言うんだよ」

タエコおばさんは、Airペイと連動しているお店のiPadの画面を指差した。


「あんたが今『ワオン!』って鳴らした瞬間にね、うちのAIトリオ(チャ子、ジェミ子、エー子)が仕込んだ『幕張ポイント自動吸引スクリプト』が、NFCの非接触ログからカードの固有IDを完全に特定しちまったのさ。あんたが無記名なのをいいことに、今夜あんたがここでハイボールを飲むたびに、そのカードの中身(数百万円の残高)が、1秒間に130円ずつお店の『現金(日本円)』としてママの手元に全額キャッシュアウト(自動引き落とし)されていくよ?」

「え……?」 


ジョウの顔から血の気が引く。

「そうよ」


カウンターの端でウイスキーを飲むパー子姉さんが冷ややかに微笑む。


「無記名カードは落としたりハッキングされても、カード会社は一切守って(利用停止して)くれない。つまりあんたの数百億のプールは、うちの店のAirペイを経由して、今夜で全部ママの懐へ『現金』として吸い込まれる規約(プロトコル)になってるの」

画面を見ると、ものすごい速度でWAONの残高カウンターが減っている。


[WAON BALANCE] ¥2,980,000 -> ¥2,950,000 -> ¥2,920,000...

「う、嘘だろ……! 決済は通ったのに、無記名プロトコルの脆弱性を突かれて、僕の富がリアルタイムでスナックの売上(現生)に変換されていく……っ! ママ! ストップだ! もうカードは使わない! 頼むから決済を取り消してくれ!」


「あら、一度『ワオン!』って鳴いたトランザクションは、オフラインじゃ取り消せないわよ?」

ママが上機嫌でキャッシュドロワーを開ける。

「くそおおお!! 使えるのはWAONとnanacoだけという最高の天国から、一瞬で全財産をキャッシュアウトされるコンプライアンス地獄へ叩き落とされるなんて……! 結局、僕がこの店で身を滅ぼさない唯一の方法は、最初から財布の『現生(日本円)』で普通に払うことだけだったのかぁぁぁ!!」


歌声スナックCanadaの店内に、爆速でポイントと残高を吸い取られていくジョウの悲痛な絶叫が、昭和歌謡の重低音とともに虚しく響き渡るのだった。

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