第41話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】ワイズマート幕張本郷店
[深夜3時45分・ワイズマート幕張本郷店]
あれから、半日後。
『cafe oblivion 幕張』でのナポリタン地獄により、すっかり胃袋のメモリをリーク(パンク)させたジョウは、深夜の頭脳労働に備えるべく、幕張本郷駅前にある24時間営業の「ワイズマート」の店内にいた。
「ハハフ……胃袋は破壊されたが、僕の脳の糖分がプレミアム・ブリトーを求めている。24時間営業のこの場所なら、僕の深夜の『夜食調達プロトコル』を邪魔するババアどもは誰もいない……!」
ジョウはカートに深夜の夜食を大量に放り込み、セルフレジの前に立った。
携帯電話の契約が反社チェック(TCAのブラックリスト)で弾かれ、スマホ決済(Apple Pay)のNFC機能が一切使えないジョウが、懐からドヤ顔で取り出したのは紫色のカード。無記名の『WAONカード』だ。
「さあ、この無記名流通系ICの匿名プロトコルには、きらぼし銀行の審査も割り込めない! 『ワオン!』と鳴いて、僕のブリトーをコミット(承認)するんだ!」
ジョウが読み取り部にカードを叩きつけた。
――ブブーッ。
【エラー:このカードはご利用いただけません。別の決済方法を選択してください】
「え……?」
ジョウの頭の中のMojoコンパイラが、致命的なセグメンテーション違反を起こした。
「な、なぜだ……!? チャージは完璧なはず……!」
「ハハッ! とんだ大ポカをやらかしたね、ジョウの小僧!」
パニックになるジョウの背後から、深夜の品出し用コンテナの台車を押しつつ、これまたワイズマートの深夜シフトのエプロンを着たタエコおばさんが、茹でピーナッツを咀嚼しながら現れた。
「タ、タエコおばさん!? なぜ君がワイズマートの夜勤シフトにも潜入しているんだ!」
「きらぼし銀行の地域ネットワークをナメちゃいけないよ。アタシはこの店の店長とも20年来のダチさ! それよりジョウさん、この店の決済アーキテクチャをちゃんとデータ解析しな。ワイズマートはねぇ、楽天EdyやSuicaは使えても、イオン系列の『WAON』は全店で一律【使用不可能】なんだよ!」
「な……何だってぇぇぇ!? 千葉(幕張)のスーパーなのに、WAONが使えないレガシーシステムだというのか……っ!」
「使えないものは使えないのさ」
ゴミ袋を片手にレジの向こうから現れたパー子姉さんがクスクスと笑う。
「くっ……! ならばこれだ!」
ジョウは狂ったように、懐から別の骨董品を引っ張り出した。
「WAONがダメなら、JCBの歴史を再利用する! 昔裏ルートで手に入れた、このプラスチック型の『QUICPay専用カード(プリペイド型・無記名)』なら、ワイズマートの決済網にも対応しているはずだ!」
ジョウが震える手で、絶滅寸前のQUICPayカードをレジに押し当てる。
――ピピッ。
「決済受付中……」の文字が画面に浮かぶ。
「いける……! 繋がれ、JCBのセンターサーバー!!」
ジョウの瞳に勝利の光が宿りかけた、その瞬間。
――ブブーッ。
【エラー:カード会社へお問い合わせください(コード:G12 / 与信不可)】
「な……なぜだぁぁぁ!! 仕様の壁は超えたはずだ! なぜJCBまで僕を拒絶するんだ!」
「諦めなさいジョウさん。2026年10月のキャッシュレス・トレンドを甘く見ちゃダメよ」
タエコおばさんが、データロガーの画面をジョウの目の前に突きつけた。
「ちょうど今(2026年10月)、オリコやトヨタファイナンスといった主要なカード会社が、QUICPay専用カードの新規発行や分離発行を軒並み完全終了させてる真っ最中なんだよ。
モバイルへの一本化が進むキャッシュレス界の転換期(2026年の崖)に、そんな怪しい無記名のプリペイド専用カード、JCBのコンプライアンス監視AIが深夜の一括バッチ処理で、とっくに『マネロン疑い』として一斉凍結してるに決まってるじゃないの!」
「な、何だって……!? キャッシュレスのインフラそのものが、僕の算法を消滅させているというのか……っ!」
パー子姉さんが冷ややかに微笑む。
「日本の金融システムをナメないことね。携帯が作れないあんたはモバイル型のQUICPay+も登録できないし、プラスチックの専用カードは時代の波で絶滅。ジョウさん、大人しくそのジュラルミンケースから、本物の『現生(日本円)』を出しなさいな」
「くそおおお! Mojoの超高速自動生成コードでも、2026年10月のリアルな決済インフラの規約改定(仕様変更)のスピードには追いつけないのかぁぁぁ!!」
深夜のワイズマート幕張本郷店。
大富豪でありながら、1本のブリトーすら電子決済できず、セルフレジのエラー音に包まれながら、財布からしぶしぶ千円札(現金)を数え始めるジョウ。
どれほど巨万の暗号資産を抱えようとも、幕張本郷の地域密着型コミュニティと、厳格なキャッシュレスの仕様変更(2026年の崖)の前には、天才サイバーメンタリストのプライドも、ドロドロのナポリタンとエラーログのように完膚なきまでに丸め込まれてしまうのであった。




