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管理人、パー子姉さんの「AIマンション・オアシス幕張」  作者: 東曌


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第40話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】cafe oblivion 幕張の非同期ナポリタン

【AIマンション・オアシス幕張 外伝】cafe oblivion 幕張の非同期ナポリタン


[午後2時00分・オアシス幕張の隣にある純喫茶「cafe oblivion 幕張」]


カランカラン、と涼しげなドアベルが鳴る。


「フッ……盲点でしたよ。宇宙に目を向ける必要なんてなかった。こんな身近に、反社チェックも契約もなしで使える『高速データ通信のオアシス』があったとはね」


ジョウは店の一番奥の席陣取り、ノートPCを開いていた。


足元には、数千万円の現金が入ったジュラルミンケース。手元には、さっき現金で買ったばかりの無記名WAONカード。そして画面には、喫茶店の壁に貼られたパスワードで一発接続された、快適な無料Wi-Fiのシグナルが輝いている。


[STATUS] Connected to: Makuhari_Cafe_Free_WiFi

[SPEED] 150 Mbps (Mojo Compiler: READY)


「素晴らしい。これならMojoの超高速自動生成コードを、毎秒130回以上のフルスペックでオアシス幕張のルーターに叩き込める! さあ、完全オフラインの聖域とやらを、今度こそ僕のデジタルな富で――」


ジョウの細い指が、狂気のリズムでエンターキーを叩こうとした、その瞬間。



[午後2時15分・cafe oblivion 幕張]


コンクリート打ちっぱなしの壁に、かすかにジャズが流れるシックな店内。


だがその実態は、近所のエンジニアたちが身元を隠して怪しいパケットを飛ばし合う、幕張の吹き溜まり。

その最奥の席で、ジョウは冷や汗を流しながらノートPCの画面を睨んでいた。


[STATUS] Connected to: cafe_oblivion_guest_WiFi

[SESSION] Time Remaining: 14 min 32 sec


「くそっ、この『cafe oblivion』……名前の通り、30分経つと僕の接続ログを完全に『忘却(消滅)』させやがる。セッションを維持するためのナポリタンの過負荷(オーバーフロー)が、僕の胃袋の限界を超えそうだ……!」

ガタッと、ジュラルミンケースの横に重々しい音が響く。


「はい、お待たせ。cafe oblivion名物、鉄板ナポリタンの3皿目だよ、ジョウの小僧」


名札に「たえこ」と書かれたエプロン姿のタエコおばさんが、不敵な笑みでタバコの煙(あるいは茹でピーナッツの湯気)の向こうから現れた。


「タ、タエコおばさん……。なぜこの『忘却』という名の陰気な喫茶店でパートなんかしているんだ……」

「フン、陰気だからこそ、生データ(リアル・ログ)がゴロゴロ転がってるのさ!」


ジョウは冷や汗を流しながら、慌ててPCの画面を隠そうとする。


「無駄だよ。いくら無料Wi-Fiで150Mbps出てるからって、うちのマンションにアタックできると思ったら大間違いさ」


タエコおばさんは、データロガーをピコピコと叩きながら言った。


「この店の無料Wi-Fiの規約(プロトコル)、

第1条を読みな。『当店のWi-Fiは、30分ごとに自動切断され、再接続には【1注文ごと】にレジでもらえる新しいワンタイムパスワードが必要である』。


つまりねぇ、あんたが毎秒130回のアタックを維持したければ、30分ごとにうちの特製ナポリタン(950円・現金払いのみ)をおかわりし続けなきゃならないのさ!」


「な、何だと……っ!? 30分ごとにナポリタンを……!?」


ジョウの計算が、またしても激しくハルシネーションを起こして崩壊する。


「おまけにね」とタエコおばさんはニヤリと笑う。


「あんたのそのMojoの超高速コード、30分でどれだけのセッション数を消費すると思ってんだい?


最初の30分が切れた瞬間、あんたのパケットは未完了のまま宇宙の藻屑さ。次のパスワードが欲しけりゃ、ほら、早くそのナポリタンを平らげて、次の注文をしな!」


タエコおばさんはハンディをポケットに突っ込み、ジョウのPC画面を覗き込む。


「この『cafe oblivion 幕張』はね、きらぼし銀行の融資を受けて最新のセキュリティーを導入してるんだよ。


あんたがMojo言語でどれだけ身元を偽装しようが、この店に入ってナポリタンを注文した時点で、アタシの『パートタイマー監視(モニタリング)・プロトコル』に全パケットがインターセプト(迎撃)されてるのさ。

さあ、Wi-Fiが消滅(オブリビオン)してほしくなけりゃ、早くその3皿目を平らげな!」


「う、宇宙のイリジウム通信(2.4kbps)から逃れて辿り着いた先が、タエコおばさんの現場パートシフトのド真ん中だったなんて……。これが、これが統計的な絶対絶望(オブリビオン)かぁぁぁ!!」


Mojoの超高速アルゴリズムは、今日も時給1,050円のパートタイマー タエコおばさんの前に、ケチャップまみれになって敗北するのであった。

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