第43話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】イオンモール幕張新都心の天丼プロトコル(二重のアルゴリズム)
【AIマンション・オアシス幕張 外伝】イオンモール幕張新都心の天丼プロトコル(二重のアルゴリズム)
[午後1時00分・イオンモール幕張新都心 グランドモール3F「LIVE KITCHEN」]
「ハハハ! 埼玉のレイクタウンが広すぎて遭難しかけたが、僕としたことが致命的なハルシネーション(勘違い)を起こしていたよ。僕たちの地元には、日本屈指の超巨大インフラ『イオンモール幕張新都心』があるじゃないか!」
ジョウは、幕張本郷駅から紙の切符(現金220円)をわざわざ買って総武線と京成線を乗り継ぎ、圧倒的なスケールを誇る巨大フードコート「LIVE KITCHEN」に堂々と君臨していた。
手元には、ジュラルミンケースの現生からチャージし尽くした無記名WAONカード。
「ここなら僕の無記名WAONは100%完璧に承認される! さあ、イオングループの基幹通貨の力で、この僕の遅めのランチを承認するんだ!」
ジョウは、お気に入りの『ティーヌン』でタイ料理を頼もうかと思ったが、ふと隣の席を見て激しく絶句した。
そこには、いつもならお稲荷さんや茹でピーナッツをケチケチと齧っているはずの、管理人・パー子姉さんと、データロガーを叩くタエコおばさんが座っていた。
だが、二人の目の前に並んでいるのは、丼からはみ出すほど豪快な海老天が2本そびえ立つ、『江戸前天丼 濱乃屋』の出来立てサクサクの「特上天丼(赤だし付)」だったのだ!
「な……ななな、なぜ君たちがここにいるんだぁぁぁ!! というか、なぜそんな高級なご馳走(天丼)をありがたがって食べているんだ!」
ジョウが椅子から転げ落ちそうになる。
タエコおばさんが、揚げたての海老天をサクッと良い音を立てて頬張りながら、データロガーの画面をニヤニヤとジョウに突きつけた。
「ハハッ! アタシら日本のシニア世代をナメちゃいけないよ。パクチーだのナンプラーだのエスニックな外国のスープは絶対に口にあわないけどねぇ、
この目の前で揚げてくれる甘辛いタレの『天丼』だけは、大好物として100%ありがたがって完食するシステムになってるのさ!」
「そ、シニア世代の食性プロトコルに完全最適化された、圧倒的な和食の暴力……!」
「それだけじゃないわよ、ジョウさん」
パー子姉さんが、上品に赤だしをすすりながら冷ややかに微笑む。
「あんたが『cafe oblivion 幕張』でナポリタンを弾かれ、『ワイズマート幕張本郷店』でWAONを弾かれ、今またこのフードコートのレジでエラーを起こそうとしているその一連の流れ……お笑い用語で何て言うか知ってる?」
「え……?」
ジョウの頭の中のMojoコンパイラが、今日一番の恐怖でフリーズする。
「同じボケと失敗を何度も繰り返して笑いを取る手法――通称『天丼』よ」
タエコおばさんが大笑いしながら言った。
「そうさ! あんたが携帯ブラックのせいで、ここから幕張本郷へ帰る時もまた、自動改札を遠回りして『紙の切符』を現金で買わなきゃいけない長蛇の列の精神的ストレス……。
この『エラーの繰り返し(天丼)』のパケット過負荷により、あんたの肉体は、あと3分で強制終了するのさ!」
「う、嘘だろ……! 食べ物の『天丼』をババア達がありがたがる裏で、僕の行動履歴そのものが、完璧なお笑いの『天丼』としてシステムに組み込まれて(ループして)いたというのか……っ!」
激辛スパイスではなく、あまりにも美しく回収された「二重の天丼アルゴリズム」の恐怖により、ジョウのまぶたに凄まじいスリープモード(睡魔エラー)が一斉に押し寄せてきた。
「う、うぷっ……!? 帰りの切符を……現金で買うための……体力の帯域幅が……残ってない……っ! 誰か、誰か僕の代わりに現金を預かって、駅の券売機で切符を買ってきてくれぇぇぇ!!」
地元・イオンモール幕張新都心のど真ん中で、無記名WAONの富を抱えながら、目の前で美味そうに天丼を平らげるババア達の「完璧な天丼(笑いのループ)」に完封され、テーブルに突っ伏して爆睡し始めた大富豪ジョウの悲痛な寝言が、広大なフードコートに虚しく、虚しく響き渡るのだった。




