第38話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】ジョウさんのイリジウム孤軍奮闘(衛星通信プロトコル)
【AIマンション・オアシス幕張 外伝】ジョウさんのイリジウム孤軍奮闘(衛星通信プロトコル)
[午前11時00分・オアシス幕張の前の公園]
「繋がれ……繋がれ僕のMojoアルゴリズム……! 地球低軌道のイリジウム衛星群よ、僕のパケットを拾ってくれ……!」
幕張ののどかな公園のベンチで、ジョウは絶望的な形相で天を仰いでいた。
彼の両手には、現代のスマートなiPhoneとは程遠い、鈍器のように分厚い軍用仕様の「イリジウム衛星携帯電話」が握られている。極太のアンテナを必死に千葉の空へと突き出している姿は、怪しさの極みだ。
そう、ジョウはきらぼし銀行の反社チェックに続き、携帯キャリアの審査(一般社団法人電気通信事業者協会:TCAのブラックリスト共有)にもバッチリ引っかかり、スマホのSIMカードを1枚も作れなくなっていたのだ。
「フ、フン……日本の携帯キャリアが僕を拒絶するなら、僕は宇宙(衛星通信)から直接ネオHeavenのAIたちに命令を下すまで。通話料が1分数百円、パケット代が天文学的数値だろうが、数百億の富を持つ僕には痛くも痒くもない……!」
だが、衛星通信は気まぐれだ。幕張の高層ビルの影に入るだけで、すぐにリンクが途切れてしまう。
「あ、ありえない……! 毎秒130回以上のアタックを誇った僕の超高速通信が、衛星の軌道待ちのせいで『1秒間に0.01回』の超低速ダイアルアップ接続(暗黒期)に逆戻りしている……!」
そこへ、散歩がてら近所の、Seria 100円ショップの買い物袋を下げたパー子姉さんと、いつものデータロガーを持ったタエコおばさんが通りかかった。
「あらジョウさん。何それ、トランシーバー? 昭和の刑事ドラマのロケでもやってるの?」
パー子姉さんが茹でピーナッツを口に放り込みながらクスクス笑う。
「違う! これはイリジウムだ! 携帯が作れない僕に残された、唯一のグローバル・プロトコルなんだよ!」
すると、タエコおばさんがデータロガーの画面を見せながら、気の毒そうに肩をすくめた。
「ジョウさん、あんたそのごついアンテナで頑張ってるみたいだけどねぇ。うちのAIトリオ(チャ子、ジェミ子、エー子)がさっき、暇つぶしに『幕張上空のドップラー効果シミュレータ』を走らせてね。あんたが使ってるイリジウムの周波数帯(1.6GHz帯)の電波、幕張新都心の高層ビル群の反射(マルチパス干渉)のせいで、あと3分で完全に通信エラー(パケットロス)になるってデータが出てるよ」
「な……何だって……っ!?」
「おまけにねぇ」とタエコおばさんは電卓を叩く。「そんなオープンな宇宙の電波、地下のコボルばあさまが40年前の短波無線機で『ジャミング(電波妨害)』しちまえば、一発でただのノイズの塊さ。あんたがネオHeavenのAIに『ブリトー買ってこい』って1行送る間に、こっちの妨害電波で『オアシス幕張に松阪牛10キロ寄付しろ』ってコードに書き換わっちまうよ?」
「う、宇宙の通信プロトコルまで、オアシス幕張の『ババア連合・アナログ妨害陣形』にインターセプト(迎撃)されるというのか……!」
ジョウはアンテナを握りしめたまま、公園のベンチでガタガタと震え出した。
スマホも持てず、銀行口座もなく、かろうじて繋がるのは宇宙の彼方の衛星だけ。しかしそれすらも、幕張のローカルな地上の知恵(ババア達)によって完全にコントロールされてしまう。
富だけはあるのに、世界で一番不自由なサイバー難民となったジョウさんの明日はどっちだ。




