第37話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】ジョウさんの無記名イオン無双(流通系ICプロトコル)
【AIマンション・オアシス幕張 外伝】ジョウさんの無記名イオン無双(流通系ICプロトコル)
[ネオHeaven・最上階]
「フッ、交通系ICがダメなら流通系ICを使えばいいじゃないか。僕の算法に死角はありませんよ」
ジョウはデスクの上に、紫色の犬のマークが描かれた『無記名WAONカード』と、セブン系の『nanacoカード』をジャラジャラと並べ、不敵に笑っていた。
自宅に現金を置いておくのが怖くなったジョウは、ジュラルミンケースから一万円札の束を引っ掴むと、幕張のイオンやコンビニのチャージ機へ直行。限界まで現金を電子マネー(流通系IC)へと吸い込ませたのだ。
「これなら身元もバレないし、ポケットに収まる。おまけに買い物するたびに『ポイント』まで貯まるんです。どうですかパー子姉さん、これが大富豪のスマートな非接触型サバイバルですよ!」
[午後6時00分・イオンモール幕張新都心]
ジョウは流通系ICカードを片手に、フードコートや専門店街を闊歩していた。
セルフレジにカードをかざすと、軽やかな電子音が響く。
『ワオン!』
「ハハハ! 素晴らしい決済音だ! 毎秒130回のアタックを仕掛けていた頃の殺伐としたログに比べて、なんと平和で、なんと洗練されたトランザクションだろう。貯まったポイントで、次はプレミアム・ブリトーが実質無料で買えてしまうぞ!」
完全に幕張の「ポイント活動(ポイ活)大富豪」と化したジョウ。
そのままホクホク顔で、オアシス幕張の横を通り過ぎようとした、その時。
ゴミ出しに出てきたパー子姉さんと、おなじみデータロガーを持ったタエコおばさんに見つかってしまった。
「あらジョウさん。何だか嬉しそうね。財布が薄くなってるじゃない」
「フン、パー子姉さん。僕は現金を『流通系IC』という無記名の電子プールに分散投資したのさ。これでもう空き巣も怖くないし、反社チェックも関係ない!」
すると、タエコおばさんがデータロガーの画面をピコピコと叩きながら、気の毒そうな目でジョウを見つめた。
「相変わらずデジタルな数字に騙されやすい小僧だねぇ。ジョウさん、あんたそのカードにいくらチャージしたんだい?」
「ふ、数、数百万円分を何枚にも分けて上限まで……!」
「あちゃー、やっぱりねぇ」
タエコおばさんが深いため息をつく。
「あのね、流通系ICカードってのはね、『紛失したときの払い戻しや利用停止』ができるのは、名前と電話番号を登録した『記名式』だけなんだよ。あんたが持ってるその『無記名カード』、もしその辺にポロッと落としたら、拾った人が使い放題。セキュリティーもへったくれもない、ただの『誰でも使えるお財布』なのさ」
「え……?」
ジョウの頭の中のMojoコンパイラが完全にフリーズした。
「おまけにねぇ、うちのAIトリオ(チャ子、ジェミ子、エー子)が暇つぶしに作った『幕張ポイント自動吸引スクリプト』が、その辺の野良Wi-Fi経由で非接触通信(NFC)の電波を拾ったら……あんたが1秒間に130回アタックした仕返しに、1秒間に130ポイントずつ、あんたのWAONポイントがうちの『修繕積立金(きらぼし銀行宛)』に裏口送金されちゃうかもね?」
「な、何だと……っ!?」
ジョウは慌ててポケットのカードの束を両手でギュッと押さえた。
『ワオン!』という可愛い鳴き声が、今は自分を破滅させるウイルスの産声に聞こえる。
「くそおおお! 記名にすれば身元が割れて反社チェック(きらぼし銀行)に引っかかる! 無記名にすれば落としたら終わりだしババア連合のポイ活ハッキングの標的になる! 僕の数百億の資産は、一体どこへアンカー(定着)すればいいんだぁぁぁ!!」
夕暮れの幕張の空に、ジョウの悲痛な「ワオン!」という絶叫が響き渡る。
大富豪でありながら、一歩間違えれば全財産を失う「最もセキュリティの脆いポイ活難民」として、ジョウさんの過酷な幕張サバイバルはまだまだ続くのであった。




