第36話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】大富豪ジョウのコンプライアンス地獄
【AIマンション・オアシス幕張 外伝】大富豪ジョウのコンプライアンス地獄
[翌朝・きらぼし銀行の窓口]
「――大変申し訳ございません、ジョウ様。当行の総合的な判断により、今回の口座開設はお見送りという形になりました」
きらぼし銀行の綺麗な窓口で、行員が丁寧極まりないお辞儀とともに、突き返したのは一枚の拒絶通知。
「な、何だって……!? 僕は数百億円相当の資産(BTC)を日本円に換えて、そちらの『きらぼし銀行』に全額預けようと言っているんだぞ! なぜ口座が作れないんだ!」
ジョウが窓口のガラスを叩かんばかりに抗議する。
しかし、行員の背後のパーテーションからひょっこり顔を出したのは、きらぼし銀行の「外部有識者コンサルタント」のバッジを胸に付けたタエコおばさんだった。
「無駄だよ、ジョウの小僧!」
「タ、タエコおばさん!? なぜ君が銀行の奥にいるんだ!」
「アタシときらぼし銀行の繋がりをナメちゃいけないよ。アタシが趣味と特技の統計データで作った『サイバー犯罪・不正ウォレット相関関係アルゴリズム(R言語仕様)』が、さっきあんたの指紋と名前から、世界中のランサムウェア(身代金要求)のログを瞬時にクラスタリングしちまったのさ!」
タエコおばさんは、ノートPCの画面をジョウに突きつけた。そこには、ジョウがこれまでに世界中で暗躍し、身代金を貪ってきたビットコインの移動履歴が、見事なまでに可視化されていた。
「これを見な! 1秒間に130回以上のアタックを仕掛けるような危険人物、地銀のコンプライアンス、通称『反社・サイバー犯罪チェック』で一発アウトに決まってるだろう! きらぼし銀行の健全な地域密着プロトコルを汚させやしないよ!」
「くっ……! 警察のサイバー犯罪対策課すら誤魔化してきた僕のミキシング技術(資金洗浄)が、おばさんの統計解析ごときに……!」
そこへ、ロビーのソファで茹でピーナッツをパキッと剥いていたパー子姉さんが立ち上がる。
「諦めなさいジョウさん。ネットの線を抜かれた我が家(オアシス幕張)に入りたければ、きらぼし銀行の口座振替が必要。だけど、あんたは暗躍しすぎたせいで、一生口座を作れない。つまり、あんたの巨万の富は、このリアルな金融社会(現実)じゃ、ただの『使えない電子の藻屑』なのよ」
「あ、ありえない……! 数百億持っているこの僕が、地銀の反社チェックに引っかかって、家賃や修繕積立金の引き落とし口座すら作れないなんて……そんな社会的ハルシネーション(嘘)があってたまるかぁぁぁ!!」
ジョウの悲痛な叫びがきらぼし銀行のロビーに虚しく響き渡る。
彼はついに、デジタルな富を抱えたまま、現実社会の「口座を持てない難民」へと完全お気楽(?)引き算転生を遂げてしまったのだった。




