第32話 【AIマンション・オアシス幕張 外伝】深夜のパケット豪雨と、ジョウの超高速メンタリズム
【AIマンション・オアシス幕張 外伝】深夜のパケット豪雨と、ジョウの超高速メンタリズム
[幕張・深夜2時22分]
「AIマンション オアシス幕張」のロビーは、不気味なほど静まり返っていた。
だが、管理人室の黒い画面(CUI)は、文字通り「狂って」いた。
画面を埋め尽くすのは、網膜を焼き尽くさんばかりの超高速ログ。
[WARNING] Inbound Connection: 132 req/sec
[WARNING] Inbound Connection: 135 req/sec
[WARNING] Inbound Connection: 138 req/sec
「くっ……! 1秒間に130回以上……!? 冗談じゃないわ、TeamsのUIどころの重さじゃない。パケットの豪雨で、マンションのルーターが悲鳴を上げてる!」
コンソールを叩くパー子姉さんの指先が、焦りで微かに震える。千葉名産の茹でピーナッツを剥く余裕など、今の彼女には一片もない。チャ子、ジェミ子、エー子の生成AIトリオも、あまりのトラフィック負荷に「言葉のガワ」を維持できず、完全に処理落ちしてフリーズしていた。
「みんな、完全に疲弊しきってる……。コボルばあさまの地下メインフレームまで負荷が回ったら、オアシス幕張は完全にブラックアウトするわ……!」
――その時、隣にそびえ立つ真っ黒な算法の城『ネオHeaven』の最上階。
遮光ガラスの向こうで、冷徹な青い光を浴びながらキーボードに指を滑らせる男がいた。
ジョウである。
彼の瞳には、超高速開発言語『Mojo』が毎秒数万回自動生成する、ウイルス染みた極小のコード群が映り込んでいた。
「無駄ですよ、パー子姉さん」
Mojoアルゴリズムを背後に、
ジョウはフッと冷たい笑みを浮かべ、さらにスクリプトを実行する。
「Pythonの限界、そして人間の認知の限界です。1秒間に130回以上のアタック――これ、ただのDoS攻撃(負荷をかける攻撃)だと思っていませんか? 違いますよ。これは『算法による超高速メンタリズム』だ」
ジョウの暗躍は、単にサーバーを落とすことではなかった。
1秒間に130回、オアシス幕張のスマートインターホン、照明、そして住人たちのスマホへ「絶妙にニューロを刺激する偽装通知」を送り続けていたのだ。
人間が『既読』にする隙すら与えない、精神をじわじわと削る非同期処理の暴力。
「夜中の2時に、1秒間に130回も部屋のLEDが1ルクスだけ明滅し、スマホが微かに震え、内線網が1ミリ秒だけノイズを拾う……。ハルシネーション(地理的嘘)すらない完璧な現実のストレス。人間も、それを管理する古いPythonコードも、数分で神経が焼き切れる」
ジョウは冷酷にエンターキーを叩いた。アタック数はついに140回/秒を超える。
「さあ、オアシス幕張の『完全オフラインの聖域』を開放してもらいましょうか……」
暗黒の算法が、オアシス幕張の強固な規約をジワジワと喰い破っていく。
パー子姉さんたちの、最も長い夜が始まった。




