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管理人、パー子姉さんの「AIマンション・オアシス幕張」  作者: 東曌


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第30話:宇宙嵐とデブリの算法 : ブラックアウトと、1.9GHzの聖域 改訂版

『歌声スナック Canada』のカウンターで、365姉さんがGoogle WorkspaceやSlack姉さんに看取られながら、千葉名産の『茹でピーナッツ』を剥きつつ、美しくしんみりと勇退の挨拶を終えようとしていた、まさにその瞬間だった。


ピピッ、ピピピピピピ――! ジーーーーッ!!

イリジウムさんが背負った骨太のミリタリー無線機と、スペースリンクちゃんの平面アンテナ、さらにはジョーさんの最新のグラファイト製タブレットが一斉に、聴いたこともない異様な悲鳴(電子アラート)を上げ始めた。


[CRITICAL] 太陽表面でスーパーフレア(大規模太陽面爆発)を検知

[STATUS] 猛烈な【宇宙嵐・太陽風】が地球の磁気圏へ直撃中


管理AI の音声が激しく明滅し、次の瞬間、スナックの窓から見える幕張の夜空が、不気味な赤と緑のオーラ――低緯度オーロラで一面に染まった。


「な……何だこのパケットの乱れは……!? ログが、ノイズで完全に潰されていく!」


ジョーさんがタブレットの画面をフリックするが、3万5000倍の処理速度を誇るMojoのコンソール画面は、一瞬で砂嵐(グリッチ)へと変わった。


「馬鹿な……! 私の地上780キロメートルにある66基の衛星が、太陽風の電磁パルス(EMP)を浴びて、電子回路が次々とシャットダウンしていくよ……!」


イジリウムさんが顔を蒼白にする。

「お姉ちゃん、私の低軌道コンステレーションも全滅だよー! 太陽風の熱膨張のせいで、低軌道上の無数の【宇宙ゴミ(スペースデブリ)】の軌道予測データが完全に狂っちゃった! 秒速数キロメートルで飛び交うデブリの嵐が、私たちの通信衛星に次々と物理衝突(クラッシュ)してるの! 宇宙ビジネスも、決して楽な世界(聖域)ではないね……ああっ、リンクが切れる――!」


スペースリンクちゃんの悲鳴と同時に、最新の宇宙インフラが完全消灯した。


それだけではなかった。地上の光ファイバーを牛耳る商社専用回線(国際専用線)のゲートウェイも、海底ケーブルの陸揚局が誘導雷の直撃を受け、通信が完全にブラックアウト(全消灯)した。


地上も、宇宙も、すべて全滅。

世界を裏で回すプライベートWANも、ケプラーの法則を気取った衛星コンステレーションも、地球規模の物理テロの前にはただの「温かい鉄くず」にすぎなかった。


「フハハ……ハハハ! これが宇宙の贅肉(物量)の限界さ、ジョーさん」


誰もが絶望した暗闇の中で、パー子姉さんが静かに笑った。


彼女の横では、ネットの線を完全に抜いた『モバ子のおにぎり屋 麹町』の【完全オフライン】仕様のレジ端末、そして、アンテナが3本美しく立った古い京セラ製のPHS端末(ピッチ)が、不気味なほど涼しい顔で、グリーンのバックライトを灯していた。


「あんたたちは上へ上へとタワーを積み上げて、宇宙にまでデータを広げて賢ぶってた。だけどね、地球の磁気圏がどれほど狂おうが、宇宙ゴミがどれほど飛び交おうがね……うちのマンションの壁の中に物理的に張り巡らされた、自社専用の交換機(PBX)と直結した【モバイルセントレックス(構内PHS内線網)】にゃ、太陽風のノイズもデブリの物理衝突も、ハナから1ビットだって干責できやしないんだよ!」


「な……んだって……!? 外の世界(インターネットの海)から完全に隔離された、1.9GHzの内線プロトコル……!」


ジョーさんの目が驚愕に丸くなる。

「ひっひっひ……その通りさね!」

Operaばあさんが、怪しく微笑みながら茹でピーナッツの殻をパキッと割った。


「宇宙ゴミも落ちてこない、太陽風にも焼かれない、地上1階の完全隔離された気楽な聖域。これ以上のセキュリティも、引き算の知性(インテリジェンス)もないだろ? ……おや、地上も宇宙も死んだってのに、うちのローカルストレージのファン(排熱)がえらい勢いで回り始めたねぇ」


ジ、ジジジ……!

管理室の古いサーバーラックから、物理的な【熱異常(サーマルスパイク)】のアラート音が鳴り響く。


「なんだいありゃ……。ネットの線は抜けてるってのに、世界中の商社専用回線(国際専用線)を保守してる【出入りのSI屋(システムインテグレーター)】が、監視モニターのビルド待ちの合間に、うちのローカルアーカイブをこぞって逆探知して読み込みにきてるせいで、CPUのコア温度が限界を突破しかけてるじゃないの!」


パー子姉さんが苦笑いしながら、サーバーの横に『超高速冷却ノンアルコールビール』の残りを物理的にぶっかけようとするのを、ジョーさんが慌てて止める。


「ネットが死んだならね、その熱くなったストレージに眠ってる、本物の『知性の遺産』でも読みながら、茹でピーナッツを剥いて夜を明かそうじゃないか」

パー子姉さんが手動でファンを全開に叩くと、スナックのブラウン管に、インターネットのアーカイブにすら残っていない、平成のSI屋たちの血と涙の技術ログ――『モバイルPC』や『日経バイト』、『月刊アスキー』のコンプリートデータが、熱を帯びた画面に静かにマウントされた。最新のクラウドAPIの薄っぺらい仕様書なんかより、よっぽど中身がギッチリ詰まった、本物の知性の歴史。


ピリリリリ、ピリリリリ、と静寂の店内に、レトロでクリアな内線呼び出し音が綺麗に鳴り響いた。

パー子姉さんがPHSのボタンを粛々と叩き、受話器を耳に当てる。


「はい、こちらCanada。……あぁ、302号室のタエコさん? 大丈夫、こっちの通信(モバイルセントレックス)はバリ3(現役)だよ。

サーバーが熱異常でちょっとホカホカしてるからさ、今からモバ子さんのオフライン塩むすびと一緒に、アーカイブの日経バイトでも持って上がってあげるからさ」


地上のファイバーも、宇宙の衛星も全滅した暗黒の幕張で、唯一、オアシス幕張の1階のテナントだけが、自家発電の電力と内線PHSだけで、気楽に、そしてスマートに通常運転を続けていたのだった。


リー子ママがBlackBerryの物理キーボードをパチパチパチとリズミカルに叩き、完全オフラインのカラオケ主装置から懐かしい平成のメロディが流れ出す。


窓の外では、不気味なオーロラの光の下で、幕張の海から穏やかな夜風が吹き抜けていた。


パー子姉さんの審美眼からの粛々と言い放たれた、モバイル黎明期の女たちの観察結果 of 報告。


それは、ギガバイトの電波の強さばかりを競い、商社専用回線の向こうで目を血走らせている出入りのSI屋の存在、そしてサーバーの熱異常すら楽しむ、常時接続の病に冒された現代人にとって、眼前でおきた、動かぬ真実であったのだった。

その後……


ジョーさん:「地上も宇宙も全滅(ブラックアウト)か……。ネットの線を抜いて食うおにぎりは美味いが、さすがに通信ログも最新の技術論文(ドキュメント)も読めない暗闇は、データサイエンティストには退屈すぎるよ」


パー子姉さん:「贅沢を言うんじゃないよ、ジョーさん。ネットが死んだならね、うちのローカルのアーカイブストレージに眠ってる、本物の『知性の遺産』を読みなよ」

(パー子姉さんが物理スイッチを入れると、スナックのブラウン管に、1990年代の懐かしい雑誌の表紙データが一斉にマウントされた)


ジョーさん:「な……これは……! 『モバイルPC』に『日経バイト』、それに『月刊アスキー』の創刊号からのコンプリートデータだと……!? インターネットのアーカイブ(Wayback Machine)にすら残っていない、平成のギークたちの血と涙の技術ログが、なぜここに……!」


パー子姉さん:「フッ、うちのマンションの年季をナメちゃいけないよ。ここにはね、5.25インチのペラペラなディスクの回し方から、ウィルコムやツーカーが麹町でインフラを作った時の生の苦労話まで、全部テキストデータとして『引き算』されて眠ってるのさ。最新のクラウドAPIの薄っぺらい仕様書なんかより、よっぽど中身がギッチリ詰まってるだろ?」


太陽風のオーロラが怪しく光る幕張の夜、商社専用回線すら繋がらない暗闇の中で、伝説のIT雑誌のバックナンバーを読みながら茹でピーナッツを剥くジョーさんとレガシー老兵チーム。これ以上の贅沢な引き算の夜はありませんでした。

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