第24話:最古の韋駄天オペラと、ノルウェーからの超圧縮サーバー
「ハハハ! 確かにその塩むすびは美味い、モバ子さん!」
丸椅子で塩むすびを噛み締めながらも、ジョーさんの頭脳に宿る『Mojo』システムは、冷酷な最終計算を弾き出した。
「だが、おにぎり屋の線が完全に抜けていようとも、我がネオHeavenが誇る数ギガバイト級の超高解像度3Dハッキンググラフィック(メタバースパケット)を、このマンション全体のモバイル回線に流し込み続ければどうかな? 処理能力の前に、オアシス幕張のインフラそのものがパケット詰まりを起こして、物理的に圧死するだけさ!」
ジョーさんがタブレットのエンターキーをフリックした瞬間、店舗のスマート照明がトラフィックの過負荷で一斉に赤く危険に明滅し始めた。最新鋭Mojoが放つ、物量の暴力。
まさにその時、スナックCanadaの奥のボックス席から、紫色の煙を吐き出しながら、不気味に微笑む老婦人が立ち上がった。
「ひっひっひ……ジョーさん。あんた、最新のギガバイト社会に毒されすぎて、データってのは『そのまま運ぶもの』だと思い込んでるねぇ」
彼女こそ、iPhoneが誕生する前、世界中のすべての携帯電話(ガラケーや初期のスマホOSのガワ)の画面を裏で完全に支配していた、ブラウザの皮を被った最古の韋駄天・Operaばあさんだった。
「Operaばあさん……! あんた、まだそのエンジン(Presto)が動くのかい!?」
パー子姉さんが驚きの声を上げる。
「当たり前さね。ジョーさん、あんたの3万5000倍の超高速Mojoがどれほど美麗な3Dグラフィックを送りつけてこようがね……私の【Opera Turbo(超圧縮サーバー)】を通しちまえば、ただのゴミクズさ!」
オペラばあさんが、怪しい北欧の毛皮の中から、古びたコマンド入力を叩いた。
ジョーさんが放った数ギガバイトの重厚なハッキングデータは、オアシス幕張に届くより早く、遙か北欧ノルウェーにあるOperaの伝説的なデータ圧縮サーバーへと強制的にルーティングされた。
最新AIが誇る美麗なテクスチャ、無駄なアニメーション用のJavaScript――それらの「データの贅肉」が、Operaばあさんの超圧縮アルゴリズム(スモール・スクリーン・レンダリング)によって、骨の髄まで削ぎ落とされていく。
数ギガバイトあったはずのハッキングデータは、オアシス幕張の1階に届いた瞬間には、なんと「わずか3キロバイトの、モノクロの数行のテキストデータ(WAP規格並み)」へと完全無力化されていたのだ。
「な、何だと……!? 我がMojoの放った最新のモバイルグラフィックが……届いた瞬間に、ただの『文字だけの回覧板』にスクラップされているだと……!?」
「ひっひっひ……最新の贅肉を運ぶほど、今のネットの線は気楽じゃないんだよ。1パケット数円の重みを知らない若造には、この『引き算の魔法』は破れないさね」
オペラばあさんが高笑いすると同時に、ネオHeavenのモバイル通信ジャミングシステムは、すべてのエネルギーをノルウェーのサーバーで浪費させられ、完全にハングアップ(白旗)を迎えた。




