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尾行結果

 シューエンの調査をするために尾行を始めたが、実に簡単なものだった。

 教会で思い通りに進まなかったから、苛立ったのだろう。怒りを隠しもせず歩き、後ろを少しも気にしない。だから簡単に家を突き止められた。あっさりしすぎて、肩透かしを食らう。

 家はアパート。築年数は十年ほど経過しているだろうか、といった外観だった。丁度その頃、流行した外観をしていた。

 近所の者へ聞きこみを行うことにする。領主夫人の使いだと言えば、皆、口は軽かった。


「ああ、その外見はシューエンさんね」


 下の階に暮らしているという女性は、外見の特徴を伝えると、すぐにシューエンだと教えてくれた。


「下の娘を亡くして以来、ちょっとね……」


 これだけで間違いなく、教会の女性で間違いないと分かる。


「体調が悪いと旦那さんは言われているけれど、あれは精神を病んだのよ。昨晩も怒鳴り声や、強い足踏みの音も聞こえてきたから、暴れたんじゃないかしら。あれじゃあ娘さんも旦那さんも、苦労しているでしょうね」


 他の部屋に暮らす住人にも声をかけ、シューエンについてなにか知っていないかと、尋ねる。


「下の娘を亡くしてからは、挨拶も返してくれなくなったよ。前は明るい人だったのに。でも最近は外出が増えてね。行き先? 本屋じゃないか? 本屋に勤めている友人が、よく見かけると話していたから」


 本屋への出入りは、悪魔の書を探しているに違いないと、すぐに分かった。

 だが、まだなぜ悪魔の書を欲しているのかは分からない。

 さすがに理由を突き止めることは難しいかと、使いの者たちは思う。それでも名前、家族構成が分かっただけでも、収穫はあったと言えるだろう。

 気になったのは、下の娘と皆が言うことだ。つまり、姉妹。最低でも、一人は姉がいることになる。


「上の娘さんは、生きていらっしゃる?」

「シュールちゃんね、生きているよ。母親に代わって買い物したり、洗濯したり、大変そうだけどね」


 教会でのやり取りは、まるで上の娘の存在はないような言動だった。てっきり一人娘を亡くしたのだと思っていたが、違っていたと知る。さらに上の娘は、病んだ母親に代わって家事を担当しているようで、苦労しているようだ。名前が一人しか挙がらないことから、二人姉妹だったと見当をつける。

 娘を異様なまでに愛する母親だと思っていたが、以前から姉妹での扱いに差があったのだろうか。そんなことを考えたが、どうやら妹が亡くなってから、姉への態度が悪くなったらしい。それまでは姉妹へ、極端な差をつけて接していなかったらしい。

 昨日が姉の誕生日だったらしいが、怒鳴られていたと言うから、よほどである。なにで怒ったのかは分からないが、祝うどころか怒鳴るようでは、やはり病んでいると判断しても良いだろう。


「上の子に、大丈夫か。なにか困っていないかと尋ねても、曖昧(あいまい)に笑うばかりでね。あれじゃあ、上の子もそのうち心を病んじゃなわないかと、心配でね」

「旦那さんは、どういう人ですか?」

「良くも悪くも普通。普通すぎて、周りに頼れない。ほら、ああいうのは他人に知られたら、どんな目で見られるか分かったもんじゃないでしょう? ただ、最近は旦那さんも思いつめている感じがするね。今日はどこへ行ったか知らないけれど、急いで出かけていたよ」


 今のシューエンは精神を病んだからか、シュールという娘を虐待していると判断しても良いだろうと、使いの者たちはノートに記す。


「何年前だったかしら。シュールちゃんが誕生日だからって、旦那さんがお菓子を買ってきたの。良い店の箱だったから、なにかお祝いでもあるのかと尋ねたら、娘の誕生日だと言ってね。でもその後、あの家から怒鳴り声が聞こえてきて……。あの子は土の中で、一人ぼっちなのにとか、そんなことを言っていたかしら」


 ライデンが思っていた以上に、家のことは近所に知られていた。そもそも薄い壁なので、周囲に怒鳴り声が聞こえない訳がないのだ。ただ皆、本人たちに触れないだけだ。


「あたしゃ、家が隣なんだけどね。最近窓を開いていた時、気になることを聞いてね。もうすぐママが生き返らせてあげるから、待っててって、シューエンさんが言ってたんだよ。でもそんなの、無理な話だろう? 人は生き返らんし、もう何年も前に亡くなってんし。あれはもう、治らんかもねえ」


 近所の者にとってシューエンは、すっかり精神病患者という認識らしい。だが、老婆の発言に使いの者たちは、視線を交わらせる。

 人を生き返らせるという、不可能の実現。それこそ悪魔の書にでも願わなければ、無理だ。


「そう、娘を生き返らせる……。悪魔の書なら、きっと可能でしょうね。なんて恐ろしいことを……」


 調査結果を聞いたヴィネンは、シューエンの狂気の目を思い出した。

 きっと亡くなった娘に固執しているのだろう。死者を生き返らせる。今の彼女には、それしか頭にないようだ。


「明日、リーレンを先生のもとへ連れて行ってちょうだい。その間、シューエンさんと話をするわ。手配をお願いね」


 本当はこの館で診察を受ける予定だったが変更し、シューエンを招いて忠告し、リーレンへ近寄らないように動くべきだと判断した。

 本当はリーレンに付き添いたいが、シューエンは危険すぎる。必ずリーレンへ接触するという、嫌な予感が拭えない。

 正直にリーレンへ伝えると、娘は素直に頷いたが、不安そうに顔を曇らせる。


「でもお母様、大丈夫ですか? 教会の様子からすると、あの方とまともに話ができるとは思えません。お医者様のもとから帰ってきて、もし、お母様の身になにか起きていたら……」


 リーレンにとって、シューエンは暴力を振るってもおかしくない人物になっていた。それほどの狂気を彼女から感じたからだ。母へなにを仕出かすか分からない恐怖が、リーレンには拭えない。


「大丈夫よ、護衛や従者も残すし。それに、なぜか彼女は私が悪魔の書について知っていると思いこんでいるから、悪魔の書を望む以上、私に危害を加えることはないはずよ」


 いくら正気ではないとはいえ、情報源を失うことはしないだろう。

 甘い考えかもしれない。だけど、リーレンには落ちついた環境で病気と向き合ってほしい。そのためには、シューエンが邪魔だった。


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