街まで糸を買いに行こう
私の趣味の一つであるかぎ針編み。
夏向けの何かを編みたくなって考えていると、ふとスイカが浮かんだ。
そうだ、スイカ模様のバッグを編もう。
緑と黒の夏糸で縞々のを。
すぐに家の毛糸箱を漁ってみたが、いまひとつイメージに合う糸がない。
久しぶりに街まで出て、手芸屋さんに行こうと決めた。
街へは馬車で2時間ほどかかる。
週に4日、朝夕定期便が出ている。
明日はちょうど、定期便のある火曜日だわ。
手芸屋さんに置いてもらう作品もいくつか持っていこう。
前に置いたのが売れてるといいんだけど。
そんな事を考えながら明日の準備をして、その夜は少し早めに寝た。
朝の便が出発するのは8時半なので、それまでに村の中央にある広場へ向かう。
馬車はこの村へ来るときに、郵便や荷物を積んでいる。
それを雑貨屋で降ろし終わったところらしかった。
「おはようイリスさん。今日はお出かけかい?」
「おはようイーガルさん。ええ、お買い物に」
雑貨屋の店主のイーガルさんとあいさつを交わし、私宛の手紙はないことを確認してから、馬車に向かう。
水を飲んでいた2頭が、こちらを見た。
「ピーターさん、この子たちにニンジンあげてもいいですか?」
「どうぞ!こいつらもわかってて待ってらぁ」
定期便の御者のピーターさんと馬も顔なじみだ。
私がニンジンを差し出すと、待ちかねたように鼻先を突きだしてきてくわえ、もぐもぐと食べ始めた。
「ふふふ、今日はよろしくね」
馬のほおのあたりを軽く撫でてから、私は馬車に乗り込んだ。
ガタゴトと馬車に揺られ、のんびり景色を眺めながら2時間。
そろそろお尻が痛くなった頃、街に到着した。
まずは私の作品を置いてもらっている手芸店へ。
この店は様々な素材と、それを使ったアクセサリーや小物が店先に並べられている。ハンドメイドをしない人でも楽しめるお店だ。
「こんにちはアーリアさん。作品持ってきました」
店主のアーリアさんが振り向くと、耳元の耳飾りが小さく揺れた。アーリアさん自身もアクセサリーなどを作っていて、よく身につけている。
「イリスさんいらっしゃい。前に置いていってくれた髪飾りと耳飾り、いくつか売れたからちょうど良かったわ!」
売上をもらって、新しい作品を渡していく。
自由に好きなものを作っているが、それが誰かの目にとまって買ってもらえるのはとても嬉しい。
品物を渡したあとは店内を見て回って、綺麗な絵付けがされたビーズを買ってから、私は次の店へ向かった。
ここが本命の毛糸店。
壁の棚には、下から天井近くまで、様々な毛糸が並べられている。
これを見ただけでもテンションが上がるのは、編み物をする人ならきっと同じだと思う。
春夏向けの、綿の糸が並べてある棚へ。
スイカのような深い緑の糸はすぐに見つかった。
ただ、同じ太さで黒の糸はない。
緑と同じ太さの濃い紺色と、少し違う黒の糸を見比べながら悩んだ結果、紺色のほうを選んだ。
買う糸を籠に入れて、他の糸も見て回る。
私は色々な色が混ざり合った段染めの糸が特に好きなので、そんな糸を見つけると必ず足が止まってしまう。
街にはそんなに頻繁には来ないし、せっかくだから他にも糸を買っておこうかしら。
誘惑にあっさりと降伏し、青から水色のグラデーションが綺麗な糸も何玉か購入することにした。
毛糸店で会計を済ませる頃には、すっかりお昼になっていた。
噴水がある広場には、いくつかの屋台がいつも出ている。
お昼はだいたいこの屋台を利用することが多い。
野菜と肉とチーズを薄い皮で巻いたものを買って、隣の屋台から果実水も購入して近くのベンチに座った。
街で働く人たちがお昼ご飯に利用するので、屋台はどこも混んでいて広場全体に人が多かった。
たまにはこういう賑やかな空気も悪くはない。
本当にたまには、だけど。
さて、食べ終えたら手芸店巡りの後半戦だ。
帰りの馬車の出発時間は15時。
ボタンの専門店ができたとアーリアさんに聞いたから、ぜひ行ってみなくちゃ。
手芸店を見ていたら、時間なんてあっという間に過ぎてしまうんだから、と早足で商店街へまた向かって行った。




