おとぎ話のような村 〈リラ視点〉
私は王都で生まれ育った。
学院卒業後はそのまま王都の一商会に就職し、毎日忙しく働いていた。
充実していると思っていた。
だけどある日突然倒れて、体が動かなくなった。
お医者様が言うには、心と体のバランスが崩れたのが一番の原因だという。
忙しさにかまけて、食事を抜いたり軽く済ませたり、睡眠時間が短い日も多かった。
ゆっくり休養をと言われて、仕事は辞めざるをえなかった。
商会の寮に入っていたからそこも出て、実家には帰ったものの、何もせずに一日を過ごすのは苦痛でしかなかった。
そんなとき、母の姉であるメリンダ伯母さんから、モンシレーヌへ来てはどうかと手紙が来た。
誰も知り合いがいない田舎なら、のんびりできるかもしれない…少しの期待を胸に、数日かけて馬車を乗り継いで、モンシレーヌへと向かった。
初めて訪れたモンシレーヌは、村人みんなが顔見知りでお互いのことをよく知ってるような、小さな村だった。
村に来てしばらくは家にこもっていたが、そのうち週に何日かは散歩に出るようになった。
村の人と顔を合わせることもあるが、「メリンダさんの姪っ子のリラちゃん」以上のことを聞いてくるでもなく、おせっかいしてくることもなく、そのことに私はとてもホッとした。
村からしばらく歩くと湖があり、その道はお気に入りの散歩コースになった。
その近くに住んでいるのがイリスさんだった。
イリスさんは、少し不思議な人だった。
村の人達は、穏やかながらも毎日忙しそうにしているが、イリスさんはのんびりと過ごしているように見えた。
最初はあいさつを交わすだけだったが、バウと遊ばせてもらってから時々お茶に招かれて、たわいのない話をするようになった。
イリスさんにも娘がいて、街で働いているのだという。
親子ほどの年の差だけど、なんだか気が合って、イリスさんの庭で過ごす時間は心地いい。
おうちも庭もいつもきれいに整っているが、イリスさんはあまりせかせかした感じがしないのが不思議で、尋ねてみたことがある。
そうしたら、「働き者のブラウニーがいるおかげよ」とイリスさんは軽く笑った。
ブラウニーとは、名前は聞いたことはあるけど、この村には本当にいるらしい。
他にも、湖には滅多に見れないがウンディーネもいるとか、たまに妖精がいたずらしていくとか、ごく当たり前のように聞かされた。
この村はおとぎ話のようだと思う。
王都では人間ばかりが生きているように見えるけれど、この村では普通に、「隣人」と呼ばれる彼らと共生しているらしい。
いつか王都に帰るつもりではあるけれど、それまでに「隣人」に会えたらいいなぁと、ひとつ願い事ができた。




