過去と未来、国王の覚悟
!この小説を読むにあたっての諸注意!
・この小説は幻獣や精霊等が出て来ます。
・基本的にR18シーンはありませんが、ハグやキスだけはあります。
・精霊や幻獣の見た目などに関しては資料などを参考に、私の解釈で設定しています。
・私の妄想大全開の内容になっていますので、苦手な方は回れ右でお願いします。
以上の事が大丈夫であれば、どうぞお楽しみ下さい。
次の日の朝、朝食を食べ終えたフウァールは森の中を見て回った。一人では危ないという事でシルフも一緒だ。
『さて、魔物の目的とは何だったのか…』
シルフは唸る。
「王国を滅ぼすのが目的だから、それに関する何かなんだろうけど…」
フウァールはそこまで言ってふと気になった。
「そう言えば、魔王って出て来てるの?」
『魔王?いや、聞いた事がないな』
「つまり、母上達が戦った魔王はまだ生まれる前だという事だ。歴史の伝聞を考えると、そろそろ魔王達が出て来てもいい頃だ」
『魔王が…生まれる…?』
「魔王というのは本来、ゲイル王が即位なさった時に切り離された心だと言われている。儀式は何処で行われたの?」
『城の裏にある大門の前だが…』
「大門?」
『ああ。そこで儀式を行い、確かに即位する前の人間の汚れた心を切り離したはずだ』
「その心がどうなったかは…」
『さあな。大門に行ってみるか?』
「うん」
2人は城の裏手を進む。するとそこには大きな扉があった。
『この扉は決して開けてはいけないと言われている。一度開けてしまえば、大きな厄災が降り掛かると言われているからな』
「厄災…そんな扉の前で行われた儀式…そうか…!」
フウァールは言う。
「多分、この扉の向こうにいるのが魔王なんだ!魔物が狙ってるのはこの大門だ!この大門を開いて魔王を出そうとしているのだとしたら…!」
『なるほど。魔王ともなれば、その力は計り知れない。王国も滅ぼしかねないと言う事か』
シルフは納得する。
「僕の時代にこんな大きな門はない。つまり、この大門が開いてしまった事で魔王が蘇ってしまったって事だ」
『しかし、そうだとしてどうして昨夜にやらない?』
「…今日って月は?」
『三日月だ。…そうか。新月を…!』
「新月まであとどのくらいある?」
『そうだな。あと2日と言った所か』
「よし!ゲイル王に言おう!」
フウァールは急いで城に向かった。
「そうか…あの大門の向こうに魔王が…」
ゲイル王は言う。
「はい」
ゲイル王は少し考える。
「…君があの大門を知らなかったという事は、未来にあの大門が存在していないという事だ。そして母君が魔王と戦ったという事は、魔物はその大門を開いてしまったという事」
フウァールは黙ってゲイル王を見つめる。
「…フウァール。君は未来から来た。この王国の行く末も知っているのだろう。そして私はその未来の片鱗を知ってしまった。…魔王の退治は未来の王に、君の母君に任せるとしよう」
「ゲイル…!」
スーラジ王妃はゲイル王を見る。
「スーラジ…それが歴史だ。それが運命だ」
ゲイル王はスーラジ王妃の手を握って言う。スーラジ王妃は黙って頷く。
「問題はどうやってフウァールを戻してやるかという事だ」
ゲイル王が言うと、『王の間』の扉が開いた。
「父上!母上!」
入って来たのは小さな女の子だった。
「マハタリ。もう具合はいいのかい?」
ゲイル王は微笑んで言う。
「はい!」
マハタリ王女は笑顔で言った。噂通り、太陽の様な子だ。
「あ、初めまして!マハタリと言います!」
マハタリ王女はフウァールを見ると挨拶をする。可愛らしい女の子だ。スーラジ王妃とよく似た容姿。目はゲイル王の目だ。
「フウァールと言います。マハタリ王女」
フウァールは頭を下げる。
「フウァールは何処から来たの?マハタリと遊んでくれる人?」
「こらこら。あまり困らせてはいけないよ」
ゲイル王は困り顔で言う。
「僕ははるか遠くの国から来たんですよ。もし遊び相手が欲しいのなら、お相手させて頂きますよ?」
「本当!やったぁ!」
マハタリは嬉しそうに笑う。
「ごめんなさいね…」
スーラジ王妃は申し訳なさそうに言う。
「いえ」
フウァールは笑って、マハタリ王女に手を引かれて『王の間』を出た。
フウァールはマハタリ王女を膝に乗せて本を読んでいた。精霊の話しが描かれた童話だ。
「…精霊達は己の力を王に捧げ、太陽神フレイの名の元にこの王国を守っているんですよ」
「フウァールは何か力が使えるの?」
「はい。僕は風の力を持っています。あと多少なら錬金術も」
「れんきんじゅつ?」
「そうですね…例えば…」
そう言ってフウァールはマハタリ女王の両手を取ると、呪文を唱えた。マハタリ王女の手首に金色のブレスレットが現れた。
「わぁ!凄い!」
「これはマハタリ王女へのプレゼントです。このブレスレットは約束の証しであると同時に、マハタリ王女を守るエンブレムでもあります。いつか女王に大切な友人が出来た時に片方をプレゼントして下さい。そうしたらその人と一生の友でいられますから」
「本当!」
「はい」
マハタリは嬉しそうにブレスレットを見つめる。この片方のブレスレットが誰に行くかは分かっている。未来にフウァールも見るだろう。
「フウァールはいつまでいるの?」
「そうですね…まだ分かりません。僕の帰る方法は少し難しいんですよ。ですから準備ができ次第、ですね」
「ふーん。…なんか、喉渇いたなぁ」
「では、食堂に行きますか?」
「うん!」
2人は手をつないで部屋を出た。
夕食は食堂で食べる。
「…色々調べたが、君が帰る方法は2つある。まずはジャック・オ・ランタンの霧だ。
しかしこれの難点は何処に出るかが分からないという事だ。何処かの絶海の孤島に繋がる可能性だってある」
ゲイル王は口を拭いて言う。
「もう一つの方法というのは…」
アッシャムス王子は首を傾げる。
「うむ。もう一つはあの大門を潜る事だ」
「あの大門を!?」
アッシャムス王子は目を丸くする。
「ああ。あの大門は全ての時代の大門に通じていると言われている。潜ったものが一点の曇りもなくただ一筋に願えば、望み通りの時代の大門にたどり着けるそうだ」
「しかし、僕の時代に大門がありません」
フウァールは言う。
「例え大門がなくとも、存在する場所にそれは現れる。もしかしたら潜れば復活するかも知れない」
「でも、あの大門は…」
スーラジ王妃は言葉を濁す。
「決して開いてはならない。その通りだ。しかし、大門は開いてしまう。残念な事にな。しかもそこから出て来る魔王に私は勝てない。そして我々はそれを受け入れなくてはいけない。
…アッシャムス。分かるね?」
「…はい…」
アッシャムス王子は頷く。
「皆死んじゃうの…?」
マハタリ王女は聞く。
「それは分からないな。何しろ未来の事だ。極力知らない方が良い。知ってどうなるものでもないからな」
ゲイル王はマハタリ王女に言い聞かせる様に言う。
「やだよ…皆死んじゃうなんて…!」
マハタリ王女は泣き出してしまった。
「マハタリ…」
スーラジ王妃がマハタリ王女を抱き締めて宥める。
「…過去があるから未来がある。未来を救うために過去の犠牲がある。僕たちはフウァールの国を守るために必要な事はしないといけない。例えそれが、この王国の滅亡を招く結果になるとしても…」
アッシャムス王子は静かな声で言う。フウァールはいたたまらない気持ちになる。
「…フウァール。君が思い悩む必要はないよ。これは必然なんだ。この過去があるから君の未来がある。
…そうだろう?」
アッシャムス王子は微笑んで言う。
「…そうですね」
出来ればこの王国を救いたい。魔王の復活を阻止して、大門を永遠に閉じたい。しかしそうしたら自分は元の時代に戻れるかどうか分からない。そして何よりも歴史を変えるという事は、何があってもやってはいけないタブーなのだ。それはフウァールもよく分かっている。しかもその運命に向き合おうとしている人達がいる。その人達を前に、歴史を変えたいなどとは口が裂けても言えない。
「フウァール、アッシャムス。私は王として、太陽神フレイが私に授けた使命を全うするつもりだ。お前達にはその姿を見せておきたい。いつか一国を背負うものになる存在に…王の覚悟と言うものをな」
「…はい」
アッシャムス王子は答える。フウァールも黙って頷いた。用意された寝室に戻り、フウァールは月を見上げた。あの月が隠れる時、魔王は復活する。そしてこの王国は…ゲイル王も、スーラジ王妃も、アッシャムス王子も、マハタリ王女も…麓の村も…
「…父上、母上。覚悟って難しいですね」
月に向って言うと、溜め息を吐いてベッドに向った。
次の日、フウァールはアッシャムス王子と共に村に向った。村を見て回り警護するのはアッシャムス王子の役目だそうだ。城から村までの道は草が生えていない。
村はフウァールの時代よりも大きく、村というよりは町と言った方がいいのではないかと思う程賑わっていた。多くの人が行き交い、子供達は道の真ん中で遊んでいる。露店も建ち並び、見た事もない様な美しい彫刻や食べ物が売られている。反物屋では美しいストールも売られていた。マハタリ王女が喜びそうだ。どうやら買い物は物々交換の様だ。
「坊や、見ない顔だね?」
店主の女性は聞いて来る。
「僕は遠い国から来て、しばらくゲイル王にお世話になっているんです」
「それでだったのかい。…これが欲しいのかい?」
「はい。でも何かあったかな…」
この時代のもので持っているとしたら…フウァールはポケットを探る。
「…あ、これ…」
出て来たのは森で拾った赤い石だ。
「どれ、見せてごらん」
女性はそれを受け取り、しばらく見定める。
「…これ、何処で手に入れたんだい?」
「森の中でたまたま拾ったんです。森で迷子になってしまって、その時に」
「…嘘ではなさそうだね。運がいいよ。これはルビーの欠片さね」
「こ、これが!?」
フウァールはビックリした。ノームが創った母の剣に沢さん散りばめられているが、ここまで小さいとあまり嬉しいとさえ感じない程だ。
「こんなのよく拾ったもんだよ」
「じゃあ、それとこの髪留めを交感してくれませんか?」
「いいのかい?このルビー、結構いいもんだよ?」
「はい。このストールと交換なら嬉しいです」
「そうかい?なら良いよ、持ってお行き」
「ありがとうございます!」
フウァールは頭を下げた。兄弟がいないため、どうしてもマハタリ王女が妹の様に可愛く思えてならない。マハタリ王女の喜ぶ顔を思い浮かべてクスッと笑った。
「いいの!?本当に良いの!?」
マハタリ王女は目を輝かせて言う。
「ええ。マハタリ王女は身体が弱いんですよね?これを肩から掛けていれば暖かいですから」
フウァールは微笑んで言う。
「ありがとう!」
案の定、マハタリ王女はとても喜んでくれた様だ。早速肩にかけて城の精霊達に自慢している。
「どうやって買って来たんだい?」
ゲイル王は聞いて来る。
「森の中でたまたま拾った石がルビーだったんです」
フウァールは苦笑いする。
「この時代のものは持って帰る訳にもいかないですし、せっかくでしたから」
「そうか。ありがとう」
ゲイル王は微笑んで頭を撫でてくれた。あと数年も生きられない命なのだから、短い生涯の中で少しでも多くの喜びを知ってくれるなら…これだけ喜んでくれるならフウァールも嬉しい限りだ。
ゲイル王はマハタリ王女の姿を見つめるフウァールの様子から何かを悟ったのか、黙って城の中を飛び回るマハタリ王女を見つめる。
「…あの子は幸せなのだろうか」
フウァールはゲイル王を見上げる。
「あんな弱い身体で生まれて、自由に遊ぶ事も出来ない身体で、枕から頭が上がらない日も多い人生で…アッシャムスも生まれてすぐに謎の病であんな顔になって、周囲にはあの子を蔑む者も少なくはない…あの子達は幸せなのだろうか…」
「…きっと幸せですよ。ゲイル王とスーラジ王妃に愛されて育った彼女も、アッシャムス王子も。きっと幸せです。…僕もそうですから」
ゲイル王はフウァールを見る。
「どんな身体で生まれようと、父上と母上に愛されていると分かっていれば、それで幸せなんです」
フウァールの言葉にゲイル王は微笑む。
「そうか」
ゲイル王は短く答えてマハタリ王女に視線を戻した。




