王子の剣
!この小説を読むにあたっての諸注意!
・この小説は幻獣や精霊等が出て来ます。
・基本的にR18シーンはありませんが、ハグやキスだけはあります。
・精霊や幻獣の見た目などに関しては資料などを参考に、私の解釈で設定しています。
・私の妄想大全開の内容になっていますので、苦手な方は回れ右でお願いします。
以上の事が大丈夫であれば、どうぞお楽しみ下さい。
一つの旋風が城の中を駆け巡る。
『こらぁ!城の中で風の力をむやみに使わない!』
洗濯物を飛ばされたエルフは怒って言う。旋風は弾ける様に消え、1人の男の子が姿を現す。
「あははは!」
男の子は楽しそうに廊下を駆け回る。
『フウァール!あまり走ると転ぶぞ!』
ケット・シーも気がきではない様だ。
フウァールはシルフであり、一国の王子だ。まあ本人にその自覚はなく、毎日の様に城にいる精霊たちを困らせる様な悪戯をしている。
「えーい!」
フウァールは一つの風を出して廊下の突き当たりにあるドアを開けようとした。しかし後ろから一つの風が飛んで来てフウァールの風を弾き消した。
「こら、フウァール。風を使ってドアを開けない!」
振り返ると、そこにはブリーザがいた。
「母上!」
フウァールは目を輝かせる。
「まったく。ちゃんとドアは手で開けなさい」
「はーい!」
元気に返事をしたフウァールは廊下を走り、ドアを押し開けた。
「ブリーザもすっかり風の力を使いこなしておるのぉ」
ケット・シーは目を細めて言う。太陽神フレイのご加護を受ける儀式が執り行われてから、ブリーザはシルフィードの力を授かった。最初は扱いに難儀していた力も、今では自在に扱える様になった。
「まあね。いつまでも自分の力さえ扱えない様じゃあ、女王として失格でしょ?」
ブリーザは微笑んで廊下を進む。先に到着していたフウァールがドアを押さえている。
「あら、ありがとう」
母に褒められてフウァールは嬉しそうだ。部屋の中には多くの精霊たちが集っていた。
『ブリーザ女王。おはようございます』
ヴァルトが笑顔で挨拶をする。
「おはよう」
ブリーザは玉座に座る。その側にヴェントとフウァールが控えている。ブリーザは周囲を見回し、微笑んだ。
「皆さん、おはようございます。今日も一日健やかに過ごしましょう」
『『『『はい!』』』』
精霊たちは返事をする。
城の一日は女王であるブリーザの挨拶から始まる。挨拶が終われば、それぞれの仕事に追われる様に部屋を出て行く。部屋に残るのは護衛のガルダとケット・シーだけだ。ヴェントも書庫に向かい、調べものをしている。
つまるところ、遊び盛りのフウァールの相手をしてくれる者がいない訳なのだ。当然、フウァールにとっては暇で仕方がない。すると城を飛び出し、村に行って子供たちと遊んでいるしかないのだ。
「おお!フウァール!」
村の子供たちがフウァールを見つけて声を掛けて来る。
「おはよう!」
先に遊び始めていた子供たちの輪の中に入って行く。1年前、ブリーザの手によって太陽神フレイのご加護を受ける儀式が行われた後、村は子だからに恵まれる者が多く、賑やかになっていた。田畑には撓わに作物が実り豊かになって行く。工芸品も外の町や村に高値で売れる様になった。村は活気に満ちている。フウァールにとってはこの光に包まれたきらびやかな村が当たり前であり、両親や精霊たち、村長であるヴィッスンから聞くような村がにわかには信じ難いのだ。村には一時期、太陽神フレイへの信仰が薄れシルフィードの子供である女王ブリーザを差別し軽蔑していた時代があると言うが…
「お前たち!祭壇に行く時間だぞ!」
ヴィッスンが子供たちに声を掛ける。
「はーい!」
「おお!フウァールもいたか!一緒に行くか?」
「うん!」
フウァールはヴィッスンの元まで走った。ヴィッスンは微笑んでしわくちゃの手で頭を撫でてくれる。
祭壇は城の方と村の方にそれぞれ一つづつある。村の祭壇は湖の真ん中に立っている。石の橋を渡り祭壇に上がり供物を捧げるのはヴィッスンの仕事。両手で供物を持ってるヴィッスンを脇で支えるのはペガサスの国の女王フィルママン女王とユニコーンの国の王エスパス王の仕事。酒を祭壇に捧げ、太陽神フレイに祈りを捧げる。毎日朝と日の入りの時刻にこうして祭壇で祈りを捧げるのが日課なのだ。
子供達も後ろの方で手を合わせているが、この祈りを捧げるという行為の重要性を分かっていないため、友達同士で突き合って遊んでいたりする。そしてそれが終わったら祭壇の近くで遊ぶのも恒例となっている。ここ数日は暑い日が続いていたため、森の中で湖で遊ぶと言うのが最近の楽しみになっている。湖の水はヒンヤリと冷たく、とても心地が良い。一緒に遊んでいるのはウィンを始めとした村の悪戯っ子たち。よくフウァールも混ざって悪戯して回っている友達だ。正確にはフウァールにとっては叔父なのだが、ウィン自身にその自覚はない。
「うわ!」
ウィンが足を取られて尻餅をついた。
「大丈夫か?」
フウァールは駆け寄る。
「おう!…ん?何だ?」
ウィンは何かを水の中から持ち上げた。黒く錆びた剣の様な物だ。
「剣?何でこんな所に…」
フウァールは眉根を寄せる。
「ボロボロじゃん…」
ウィンはすっかり刃こぼれした刃を見て眉根を寄せる。水の中にあったせいか、苔も付いていて剣としてはもはや機能していない。他の子どもたちもボロボロの剣に興味津々だ。
「…あんまり振り回すなよ?怪我するぞ?」
フウァールは心配そうに剣を見る。何やらイヤな予感がする。何の変哲もない、ただの剣なのに…
「大丈夫だって!どうせボロボロだろ?」
ウィンは目を輝かせて剣を振り回している。ヴェントの弟として村を守る強い戦士になりたいと常日頃言っているウィンにとってこの剣はまさに格好の武器なのだろう。しかし、フウァールにとっては胸騒ぎしかしない。
「なあ!それ使って勇者ごっこしようぜ!」
子どもたちは大はしゃぎだ。
「よし!僕勇者な!」
ウィンは剣を構えた。すると突然悪寒が走った。
「…!ウィン!その剣を捨てろ!」
ウィンの背中に言うがウィンは離そうとしない。気持ちの悪いオーラが見えた。フウァールはウィンから剣を奪おうとしたが、見えない何かに弾き飛ばされた。
「うわ!」
フウァールは地面に叩き付けられた。
「フウァール!」
子どもたちが駆け寄る。
『…ようやく手に入れた…』
振り返ったウィンの声は聞き慣れた声ではなかった。開かれた目は金色に光っている。
「ウィン…?」
『風の児よ。友人は頂いて行くぞ…』
気持ち悪い笑顔で言うウィンの背後に黒い影がちらつく。
「…!魔物か!」
『ふふふ…さすがだな…我らはこの世を滅ぼす!太陽神の手下なんぞに虐げられるなんてごめんだ!』
ウィンは掲げた剣を見つめる。
『…これでこの国を滅ぼせるぞ…太陽神の治める世界など…滅ぼしてやる…』
「魔王は母上の作った世界で国を作り、母上と共に国を支えているはずだ。なのにどうして…」
『魔王…!あんなヤツ!ただの裏切り者じゃないか!』
魔物は憎々しげに言う。
「裏切り者…?」
『所詮女は女だな!前魔王様ならこんな事にはならなかった!その身が滅びようとも太陽神の元に膝を付くなど恥さらしな事はしなかったはずだ!』
剣を振り回して叫ぶ。
『滅ぼしてやる!王国も!魔王も!そして私が魔王になる!』
魔物に憑かれたウィンはそう言って森の奥に走って行く。
「待て!」
『フウァール王子!』
シルフィードたちが出て来る。
「シルフィード!」
『お一人では危険です!ブリーザ女王に…』
「呼んでる間にウィンが殺されちゃうよ!シルフィードたちは母上たちに言って来て!皆は村長に報告して!」
フウァールはそう言ってウィンの後を追った。
『ブリーザ女王!』
イディルが『王の間』に走り込んだ。
「どうしたの?」
本を呼んでいたブリーザは顔を上げる。
『森の中に魔物がいて、村の子どもに取り憑いた様です!フウァール王子が後を追っているとシルフィードが…』
『フウァールが…』
ケット・シーは頭をあげて言う。
「ヴェントに言って森の中を調べて。フウァールと取り憑かれた子を守る事が最優先よ。私は村に行くわ」
ブリーザは立ち上がった。
「キマイラ、ガルダ、ノーム、コロポックル。村に行くわよ。ペガサスとユニコーン、ホビット、はヴェントと一緒に森に行って。ヘルハウンドとデュラハン、ジャック・オ・ランタンは城の周辺を警護。他の子たちは城に残ってシルフィードたちから情報を収集して」
『『『『『はい!』』』』』
ブリーザは『王の間』を出て廊下の突き当たりにあるエントランスに向かった。
『ブリーザ女王。準備が整ったぞ』
キマイラは身体を臥せて言う。
「ありがとう」
ブリーザはキマイラにまたがる。
『行くぞ!』
ガルダの声でキマイラは天井の窓から外に飛び出した。
村では既に集会場に村人たちが集まっていた。
「ブリーザ!」
ゲリンゼルがブリーザたちに駆け寄る。
「誰が取り憑かれたの?」
「どうやらウィンが連れて行かれた様じゃ。」
ヴィッスンが言う。
『ウィンが…』
コロポックルは静かに言う。
「あのね!湖に剣が沈んでたの!」
「ボロボロの剣だったんだよ!」
「そしたら急に魔物が来てウィンに取り憑いたんだ!」
「『やっと手に入れた』って!『これでこの国を滅ぼせる』って言ってたよ!」
「フウァールがウィンの後を追ってっちゃった!」
「…湖に沈んでた剣、か…」
ブリーザは言う。
「昔、村の祭壇に剣が奉納されていたそうだ。立派な剣で、王子の剣だったそうだが…」
ヴィッスンは言う。
『それが沈んでたって事?』
コロポックルが言う。
『そうかも知れない。しかし、その剣を手に入れて国を滅ぼすというのは、一体どう言う事なのだろうか…』
ノームは腕を組んで言う。
「…剣は湖の中にあったのね?」
ブリーザは子供たちに言う。
「うん!」
「あそこは祭壇のある湖。つまり、その剣は祭壇に奉納されてたという事。剣がボロボロだったという事は、長い間湖の底に沈んでいたんでしょうね。つまり神話の時代に祭壇が地面に沈み、剣は放り出されてしまった。しかもそこに水が流れ込んで来たものだから、剣は湖の底に沈んでしまった…」
『なるほどな。だとしたら奉納されていた剣の持ち主の王子というのは…』
キマイラは首を傾げる。
『…アッシャムス王だな。アッシャムス王の墓はない。魔王に取り憑かれ命を食い荒らされたアッシャムス王はその遺体さえ残す事なくこの世を去ってしまったからな』
ガルダは唸った。
「家臣たちもいなかったからお墓を作る人もいなかったものね」
ブリーザは言う。
『調べてみる必要があるな。森の中はヴェントたちが調べている。我々は村の書庫で調べてみるとしよう』
「そうね。村長、よろしいですか?」
ブリーザは聞く。
「もちろんじゃ。来なさい」
ヴィッスンはそう言って村の集会場に向かった。
ヴェントはペガサスに乗って森の上を飛ぶ。
「うーん…」
ヴェントは森の中を覗き込む。
『見つからないな…』
ホビットは言う。
『そんなに遠くには行っていないと思うんだけどな』
ユニコーンも辺りを見回して言う。
『森の中にいる気配がしないわ…何処に行ったのかしら…』
ペガサスは心配そうに言う。
『この状況ならフウァールの気配が分かっても良いはずだけどな…』
「森にいるはずなのに気配がない…どう言う事なんだ…」
ヴェントは眉根を寄せる。
『…あそこに霧は何だ?』
ユニコーンは森の奥を見る。
『…おかしいな。今はジャック・オ・ランタンはいないはずだ。なのにあの濃霧は…』
ホビットは眉根を寄せる。
『…あれの中に入ってしまうと異次元だ。もしかしたらあの中にフウァールが…』
「あの中に入って、自力で戻って来れるのか?」
『無理でしょうね。あの濃霧を創り出した奴が出してやるか滅びない限りは、永遠に彷徨う事になるわ』
ペガサスは言う。
「つまり、中に入ったら是が非でもこれを作った奴を捕まえないといけない訳か…」
『そういうことになるな。とにかく、一度城に戻ろう。これはジャック・オ・ランタンの濃霧だ。奴なら何か対策がとれるかもしれない』
ユニコーンはヴェントを見て言う。
「…そうだな。ブリーザと相談しよう」




