ブリーザ、呪われる
!この小説を読むにあたっての諸注意!
・この小説は幻獣や精霊等が出て来ます。
・基本的にR18シーンはありませんが、ハグやキスだけはあります。
・精霊や幻獣の見た目などに関しては資料などを参考に、私の解釈で設定しています。
・私の妄想大全開の内容になっていますので、苦手な方は回れ右でお願いします。
以上の事が大丈夫であれば、どうぞお楽しみ下さい。
ヴェントはこの日、書庫で本を読んでいた。読んでいるのは王国の歴史。村では知り得なかった王国の誕生と滅亡が書かれている。
気が遠くなる程昔、森は沢さんの精霊で溢れかえっていた。精霊たちは自分たちの領土を求め争い始めた。森は荒れ果て山火事も起り、動物たちも居着く事が出来ない混沌の世界となっていた。
その姿を嘆いた太陽神フレイは、森の精霊たちの王を選ぶ事にした。精霊たちはそれぞれの仲間の中で最も王に相応しい者を太陽神フレイに推薦した。太陽神フレイは悩んだ結果、2人の精霊を選び出した。風の精霊シルフと森の精霊エルフだ。
エルフは頭がよく、魔法に長け、永遠に近い寿命を持ち、太陽神フレイの元で暮らす精霊で、神に最も近い者だ。シルフは森の中を駆け巡り、森の隅々まで知り尽くしている。エルフ程ではないが頭もよく、そして心優しかった。
太陽神フレイは悩んだ結果、2人を試す事にした。森の中にある永久の泉。その泉を見つけ、太陽神フレイに捧げよと言うものだった。
エルフは自らの種族に伝わる術で泉の在処を掴もうとした。
一方シルフは森の中で暮らす精霊たちや動物たちに泉の在処や、それに関係するかも知れない古い伝承などを聞き出した。精霊たちは他の種族への協力に消極的だったが、心優しいシルフの態度に、次第に心を開いていった。そしてついにシルフは森の中にある永久の泉を見つけた。シルフは泉の前で太陽神フレイに祈りを捧げる。
太陽神フレイはシルフを森の王として認めた。そして森の奥に城を建てて精霊たちが推薦した候補たちを王と共にこの城に住まわせる事とした。
太陽神フレイは王にゲイルと言う名前を授けた。ゲイルは各種族の精霊たちが暮らす集落を与えた。精霊たちは与えられた集落で少しずつ豊かになって行った。こうして森は一人の男と何人もの精霊たちで平穏を手に入れた。
そしてゲイルに森の麓にある小さな村に行き、人間たちと共に王国を築き、太陽神フレイへの信仰を広める事にした。
太陽神フレイの力の源が精霊たちや人々の信仰心だからだ。
人間たちは最初は驚きゲイルを恐れたが、太陽神フレイの話しを聞きゲイルが起こす風の術を見てゲイルを信じる様になった。
人間たちは精霊たちから太陽神フレイの話しを聞き、太陽神への信仰を深めて行った。人間たちは村の近くに祭壇を作り、毎日日没と共に太陽神フレイに祈りを捧げ、その年初の作物を刈り入れれば、祭壇に作物を捧げ日々の恵みに感謝するのが日常となった。こうして太陽神フレイの加護のもと、王国は誕生した。王国は繁栄し、村は巨大な街となった。いつしか王国は地上で最も美しいと言われるまでになった。
ある日ゲイルが森の中で散歩していると、行き倒れている乙女を見つけた。一緒にいた精霊は、その乙女に神聖な力を感じると言った。そこでゲイルは乙女を城に連れ帰って介抱した。
乙女は精霊たちの助けで一命を取り留めた。話しを聞くと、乙女はスーラジと言う名で、太陽神フレイの子供だと言う。スーラジは子どもの様に無邪気で悪戯好きで、精霊たちもゲイルも振り回される毎日だった。しかしゲイルはスーラジの純粋無垢な様子に次第に惹かれて行き、王妃となった。
太陽神フレイは2人の結婚を祝福した。街の人間たちはゲイルと太陽神フレイの娘スーラジンの結婚を喜び、三日三晩宴を催したと言う。そうして2人の間に産まれたのがマタハリと言う王女とアッシャムスと言う名の王子だった。
マタハリはスーラジとゲイルに似て美しい容姿をしていた。
一方アッシャムスはゲイルに似て頭がよく、しかしどちらにも似ず醜い姿をしていた。アッシャムスは軽蔑され、ゲイルの子どもではないのではないかという噂まで流れる始末だった。自信をなくしたアッシャムスは自室に籠る様になった。母であるスーラジが説得しても部屋を出ようとしない。
その一方でマタハリは生まれつき身体が弱く、なかなか枕から頭が上がらない。ゲイルとスーラジは悩み、言い争う様になった。
その内に精霊たちと人間たちはゲイルの味方をする者とスーラジの味方をする者に分かれた。精霊同士での争いや人間同士の喧嘩も起きる様になり、太陽神フレイへの信仰心が薄れて行く様になって行き、王国は少しずつ衰退して行った。そして国の衰えに応乎する様にマタハリの体調も悪くなり、亡くなってしまった。
ゲイルも長女の死去に心を病み、嘆き悲しみながら亡くなって行った。王国の手はアッシャムスに委ねられた。
しかしアッシャムスは長い間に募らせた闇の心によって呼び寄せられた悪魔に取り憑かれてしまっていた。精霊たちは何とかしてアッシャムスから悪魔を追い払おうとしたが、王を失い統率をなくした精霊たちが一致団結する訳もなく、城に暮らしていた精霊たちは日に日に少なくなって行った。自分の力のなさを嘆いたスーラジは城を出て行ってしまった。
王国はいつの間にか滅んでいた。
どれほど経ったのだろう。城は闇に落ちたアッシャムスのみが留まり、周囲は木々に囲まれ一時の繁栄の面影は何もなくなっていた。外は太陽の光明を失い、闇に飲まれていた。麓の街も侵略を受けてしまい、流行病により人数も減って来た。
あるとき、一人の美しい精霊が城にやって来た。『貴方を助けに来ました』と言って、闇に落とされたアッシャムスの元に来た。その精霊はシルフィードと名乗り、ある女性の依頼で助けに来たと言う。女性は自ら持っている全ての力をシルフィードのネックレスに込めて託した。そのネックレスはアッシャムスの前で輝き、部屋中を光で包む。アッシャムスを巣食っていた魔の者はアッシャムスを離れ、消えていった。
しかし代償は大きかった。長年魔の者に蝕まれたアッシャムスの身体は限界に達していた。今にも掻き消えそうな声でシルフィードにアッシャムスを助ける様に言ったのは誰なのかを聞いた。シルフィードは名は分からないと答えた。ただ女性だったと。それしか分からないと答えた。
アッシャムスはフッと微笑んで目を閉じた。空には太陽が現れ、地上には光が降り注いだ。
「ブリーザ?大丈夫か?」
『王の間』の真ん中に用意されたベッドを覗き込んでヴェントは聞く。布団の中から顔を出しているブリーザの顔色は悪い。血の気が引き、閉じられた目は開かない。少しだけ開いた口からは黒い霧が吹き出している。
「…ブリーザ…」
側に置かれた椅子に座り頭を優しく撫でると、微かに震えているのを感じる。
「苦しいよな…必ず助けてやるからな…」
どうやって…?助ける方法も分からないのに…微かにブリーザの頬が緩んだ気がした。ブリーザの苦しみが伝わって来る。苦しいのに笑顔を見せてくれる。
中々助けられない自分に腹が立つ。早く助けてあげたいのに…
苦しさが増して来たのか、眉根を寄せている。瞼の上に手を置き、呪文を念じる。呼吸が安定して来た。寝息が少し穏やかになった。
目を覚ませば苦しくなる。少しでも苦しみを和らげるために、目を覚まさない様にしている。
早く目を覚まして欲しい。もう一度名前を呼んで欲しい。『愛してる』と、顔を真っ赤にさせながら言って欲しい。
「ブリーザ…」
そっと瞼にキスをする。手を握ってブリーザの寝顔を見つめる。
少し幼さの残る可愛らしい顔立ち。でも普段のブリーザは本当に美しい。白い透き通った肌が眩しいくらいで、ヴェントはほんのりと暖かいその肌に触れるのが好きだ。
今のブリーザは氷の様に冷たい。両手で手を握って暖めてやろうとするが、芯まで冷え切ったブリーザの手が暖まる事はない。
扉の開く音がして振り返ると玉座の裏からエルフが表れた。
『どお?』
「…変わらない。悪くもなってないが、良くもなっていない」
『そう…』
エルフはブリーザを覗き込む。
『魔物の仕業なのは分かるんだけど…』
「どうやったら呪いが解けるのかが謎だな」
『もうすぐ日食が起きる…早く何とかしないとブリーザが辛いだけだわ』
『ノームに書庫を調べてもらってる。何か分かるかも知れないし。
あとペガサスとユニコーン、キマイラに魔界の動きについて調べてもらってる。他の皆は城の警護と周辺の見回りだけどね』
エルフの肩に乗っていたコロポックルは言う。
「そうか…」
そんな話しをしていると、一瞬ブリーザから出ていた魔物の気配が揺らいだ気がした。
「ブリーザ?」
ヴェントは声を掛ける。少しだが、ブリーザの生気を感じる。
『…キマイラたちが何か見つけたのかしら』
「そうかも知れないな」
ブリーザにかけている術を少しだけ緩める。すると部屋の外が騒がしい。
『どうしたのかしら…』
エルフは扉の方に向かったが、辿り着く前に勢いよく扉が開いた。
『エルフ!ちょっとお願い!』
飛び込んで来たのはウンディーネだった。
『どうしたの?』
『キマイラが大怪我してるの!』
「キマイラが…」
すると後ろからイフリートに抱えられてキマイラが入って来た。
「キマイラ!」
ヴェントは立ち上がった。
まさにボロボロと言っていいだろう。
血も滲み、瀕死の状態だ。
『とにかく傷口を洗うわよ!このままじゃあ病気になっちゃう!』
サラマンダーは急いで水とタオルを持って来る。
『キマイラでさえこれか…相当の力を身につけている様だな、魔物たちも』
ガルダは腕を組んで唸っている。
『魔王にはたどり着けなかった…でも、ブリーザに掛かっている呪に関わっているらしい魔物と戦ったの』
ペガサスは言う。
『とんでもない力だった…俺たちだけでは敵う相手ではない…
でも、奴が持っていた宝石の様な物はかっ攫って来た』
そう言ってユニコーンが取り出したのは小さな黒い宝石だった。
『…タンザナイトか…然程大きくはないが、相当な魔力を秘めている。ブリーザから感じる呪いの魔力と同じものだ。彼女を苦しめている呪の一部と思って間違いないだろう。
…ユニコーン。大手柄だ』
ノームは宝石を手にして観察しながら言う。
『いや…これを魔物から奪ったのはキマイラだ。奴の懐に飛び込んで奪ったんだ』
『それでこの大怪我か…代償は大きいが、それだけの価値はあったな』
トロールはキマイラの手当を手伝いながら言った。
すると、宝石は突然ノームの手の中で輝き、ブリーザのベッドの上に浮かんだ。そしてブリーザを包む様な光を発し始めた。
『…ブリーザに掛かっている呪いが少しではあるが弱くなっておる。この石が呪いに何らかの影響を与えているのは間違いなさそうじゃのお』
ケット・シーがブリーザの寝ているベッドに乗って言う。
『とは言え、まだまだ苦しみから解放されている訳ではない。この宝石が何なのか、調べる必要があるな』
ゴブリンは宝石を怪訝そうに見つめている。
『…確かこんな様なものが載っている本があったな。調べてみよう』
ノームは急いで部屋を出て行った。
キマイラはブリーザのベッドの脇で身動き出来ずに眠っている。
「キマイラ…?」
ヴェントが声を掛けると、薄らと目を開けた。
「何か欲しいものはあるか?」
『…水、を…』
力のない小さな声でキマイラは言う。
「水だな?ちょっと待ってろ」
ヴェントは近くのキャビネットの水差しから浅い器に水を入れてキマイラの元に戻る。
「飲めるか?」
『…すまない…』
キマイラは少しだけ頭を動かして舌を出して水を飲む。しかしそれさえままならないのか、すぐに首を床に倒してしまう。
「これじゃあ無理だな」
ヴェントは深めのスプーンを持って来て水をすくうと、キマイラの口元に持って行く。
「ほら」
キマイラは黙って口を開ける。少しずつゆっくりと飲ませて行く。
『…悪いな』
皿の中の水を飲み干した所でキマイラは言う。
「良いさ。今はゆっくり休まないとな」
『しかし、ブリーザが…』
『心配ないわ』
そう言って来たのはエルフだ。
『貴方には沢山の仲間がいるのよ?仲間たちが動いてるんだから大丈夫よ。キマイラは次の闘いに備えて怪我を治さないとね』
エルフはそう言って床に座る。キマイラに巻いている布を解くと、生々しい傷が沢山現われた。
『こんなんじゃあ戦うどころか、動く事さえ出来ないでしょ?貴方は大事な戦力なんだから、早く直ってくれないと困るわよ』
『…そうだな』
キマイラはため息を吐く。エルフの薬で少し楽になったのか、表情が穏やかになる。
『でも、貴方にここまで深手を負わせるなんてよっぽど強かったのね』
エルフは傷を布で巻きながら言う。
『カマイタチの様なものだった。一瞬で切り刻まれたからな』
『なるべく早く治る様にするけど、あまり動かない様にしてね。せっかく閉じ始めた傷が開いちゃうから』
『…分かった』
仕方がないだろう。一刻も早く動ける様にならないといけない。今は休んでなければいけない。
『色々調べてみた。あの石には様々な苦しみが閉じ込められているらしい』
ノームは王の間に大量の本を持ち込んで言う。
「苦しみ…」
ヴェントは言う。
『人も精霊も魔物も、生きていれば必ず何らかの苦しみを経験するもの…裏切られ、痛めつけられ、別れ…数え切れない程の苦しみに直面する。それを糧として生きているのが魔物たちなのだが、その起源は王国時代にさかのぼる』
『王国時代って…この城にいたゲイル王と太陽神フレイの娘、スーラジ女王の時って事?』
バンシーは聞く。
『…その昔、ゲイル王が即位する時に切り離された闇の心があった。それが魔王の起源となっているそうだ。
即位の儀式の時に切り離されたんだな。ブリーザの時と同じだ。普通ならその闇の心は自然に消えるはずだったのだが、魔王は森の中で彷徨い苦しむ人間の気や魂を食って生きながらえていた。
そしてアッシャムスはその魔王に取り憑かれてしまった。その時にこの世に蔓延る闇の心を引き寄せてしまった。その闇はシルフィードによって追い払われた。
しかし魔物は長年アッシャムスに取り憑き蓄えた闇の心がある。完全には滅びなかった。だから魔物たちはまだ生き残ってるのだ。少しずつ力を蓄えているという噂だ』
『その魔王が魔物を使ってブリーザに呪いを掛けたという事か』
オーガは言う。
『そう言う事だろうな。そして、このタンザナイトは他にある4つの宝石の中心でもある。
生きとし生けるもの全ての者の血を蓄えたルビー。
水に関係する災害で苦しんだ者を閉じ込めたサファイア。
大地を揺らし地上にいる者を苦しめるアラゴナイト。
そして全ての者の涙を蓄えたパールだ。
今のブリーザはその苦しみの全てをその身に受けているということになる』
『その全てを集めれば、ブリーザの呪いは解けるの?』
ウンディーネは聞く。
『いや…呪いは術者を消さない限りは解けない。
しかし今見ても分かる通り、宝石が魔物たちの側にさえなければ苦しみをやわらげられる様だ。術者を滅ぼすのも重要だが、宝石を持たれているとブリーザを人質に取られている様なものだからな』
「…つまり、今の最重要課題は、宝石を奪う事だな」
ヴェントはブリーザの手を握ったまま言う。
『そう言う事になるな。問題はどの魔物が持っているのかが分からないという事だ。奴らは個性というものがないからな。見分けがつかないぞ』
ユニコーンは言う。
『片っ端から戦ってたら保たないな。キマイラでさえこの怪我だ。私でも互角で戦えるかどうかだろうし、魔王ともなれば考えたくもないな』
ガルダは唸る。
『まずは魔物たちの居る場所を捜さないといけないな』
ジャック・オ・ランタンが言う。
『魔物たちはこの『悪魔の森』にいると言う噂があるけどな』
側の椅子に座っているデュラハンは言う。
『問題は、どうやってこのだだっ広い森の中を探すかだ。やみくもに探しても、ブリーザの体力が失われて行くだけだ』
ドワーフは心配そうにブリーザを見上げる。
『命を食い荒らされない様にエルフの呪文で何とかしているものの、このままでは枕から頭があがらない状態になってしまうからな…』
ホビットも言う。
『ペガサス、ユニコーン。魔物たちが居た場所に案内してくれ。何か手がかりが見つかるかも知れない』
ガルダは言う。
『分かった』
ユニコーンは答え、立ち上がった。
『私も行こう。地上の事は私が一番良く知っている。ノームは調べものをしないといけないしな』
ホビットは言う。
『…頼む』
ノームは頷いた。
『…珍しいわね。ホビットが自ら動くなんて』
ウンディーネは目を丸くしている。
『戦いは望まない。しかし、我らが女王を苦しめる者は決して許さない。私の美学の範囲内で、出来うる限りの事をする』
ホビットはフッと笑って言う。
『…我らが女王、ブリーザ様の為に動く事は、この城で暮らす我々の努めだ』
イフリートは言う。
『決まったのぉ。ユニコーンとペガサスはガルダとホビットと共に魔物たちを調べる。ノームとエルフは書庫で宝石についてもう少し調べる。残った者たちで城の周辺の見回りと警護、ブリーザの護衛じゃ。ヴェントもブリーザの側にいた方が良いのぉ。エルフが調べ物をしている間、呪文を掛けておかなければならん』
ケット・シーは言う。
「…そうだな」
ヴェントは静かに答えた。
何か長くなったのでここまでです。
ページ数はそうでもないんですがね…




