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ソラミミ  作者: k_i
第7章
37/46

7-7.さよならソラミミ

 わたしは、組織へ無事戻ったその後で、寒さと震えが止まらなかった。

 

「戦闘で、多ければ四、五人死ぬこともある。毎回じゃないが。それから、戦闘後、上手く戻ってこれなかったやつらが、ああやって二、三人、死ぬこともな」

「あの……人たちを、上手く帰してあげられなかったのは、わたしの、力量不足……なのですね」

 

 蛭賀はこくり、と頷いた。偽っても仕方はないのだ。

 

「これが、戦闘だ」

「う、う、う、うええ」

 涙が止まらなく、吹き出してくる。

 

「おいっ蛭賀ぁ!」

「うっ、ええ」

 茄場が、いきなりどうっと立ち上がり、蛭賀に掴みかかっている。何。もう、やめて……こわい。

 

「おう、なんだ茄場」

「こいつ、ソラミミは、新人だ。労わってやりたい、おれは。ソラミミは、大事だ」

「じゃあ、好きなだけ労わってやれよ。おまえの大事なソラミミを」

「おれたちにとって、大事、だ」

「おうそれは確かに、そうだ。だが甘やかすんじゃねぇぞ」

 茄場は蛭賀の胸倉を掴んだまま。蛭賀は茄場を睨み据えている。

 

「おれは、ソラミミが…………好きだ」

 えっ。

 茄場の頬がぽっと朱くなる。

 それを聞いた蛭賀の頬も、ぽっとなった。え。ええー……。

 

「何をしているのだか」

 草里が割って入ってくる。

「馬鹿なおっさんたちが取っ組みあって。ソラミミは、」

 うわ。草里がわたしに抱きつく。大男二人がもっと、ぽうっとなっている。

「わたしのもの。わたしの大事な、ソラミミ」

「あの……草里」

 

 総之上さんも、さきの戦闘で……もしかして亡くなってしまった? と聞いてみる。草里は、黙り込んだまま。

 

「総之上は、死んだ。残念だが」

 茄場がきっぱり答えた。

「うっ。……草里。ごめんなさい……」

「いや総之上さん生きてるし」

「えっそうなの」

「な、なんだ。てっきり、ソラミミが総之上をっ……」茄場があたふたして言う。「好きなのかと……っ。ラ、ライバルを浮上させたくなかっただけだ、おれは」

「そうだったのか。し、知らなかった。草里は、総之上を……。てっきり、俺かと」蛭賀が思いつめる。

 

「馬鹿。おっさん二人。言っただろう、わたしは」

「う?!」

 

 草里が、わたしの口を塞いでいる……草里の、唇。そ、そんな。そ、草里。……

 

「ソラミミが好きなんだ。ソラミミはわたしが、好きなんだし」

 

 大男二人は、頭を冷やすために、ついでに鼻血を止めるべく、ミーティングルームから退出していった。草里と二人になる。草里はわたしに今度は後ろから抱きかかったままだ。なんか、でも自然に思えたのでそれはそのままにしてわたしは言った。

 

「ありがとう……草里」

「だからフラグ立てとくって言ったでしょう」

「う、うん……けどこんな結末だなんて、ちょっと予想外だった」

「結末。何を、おれたちのたたかいはこれからだ、ろ?」

「ううん。ありがとう、ごめんなさい。でも無理、わたしはもう、戦えない、から……」

 

 もう、涙は出てこない。

 草里もわかったようにわたしからすっと離れ、肩をぽん、と叩いてくれる。

「おっさんたちには、わたしから説明しとくよ。今日はゆっくり、お休み」

 

 

 こんな優しげな草里の声って今まで聞いたことなかった気がする。

 

 ここへ来て、自身の使命感と同調するここの人たちと打ち解けて……さきの、茄場や蛭賀さんらと会話してる草里ってすごくそう見えたから……それで少し、丸くなったのかな。

 戦闘に出ていたときの草里は、今までよりもっと尖っていたように見えたけど。けど、あのカタコト草里は面白かったな。……っても、必死だったんだ。あのとき、もっと早く鍵を探せていたら、小象を呼べていたら、あそこで死んだ人たちだって……救えたかも……しれなかった……。

 

 

 わたしを見送ってくれた草里は、ひとつ話を聞かせてくれた。

 草里と残った、四人の女生徒らのこと……

 

 戦闘班の人たちは、実戦に出たいと言ったあの子たちを、彼女らが戦意を失うなか必死に守って戦い、一人ずつ離さないよう抱えて空間から抜け出した。だけど、その後……一人の子がかかえてきた先輩を斬り殺し、他の二人の子を斬ってしまった。その子はすでに、だめになってしまっていた。

 茄場は左腕を突き刺されながらもその子を一度殴り、気を失わせた。その子はさきの戦いの三人のように、そこからもう立ち戻ることはできず、組織へ連れ戻されたけど、二度と復帰はできなかった。

 一人は、戦闘中からずっと意識を失ったままだったが二日後に目覚め、学園に戻った。

 

 

 草里は、言おうかどうか迷ってたのだけど。と言った。組織に入ったばかりの新人は、実戦に出て、そうやってして初戦後に元の状態で残れるかどうか自体、フィフティーフィフティーだって。あの子らも、それは覚悟で戦ったはずだった。それはもう、仕方のないこと、だろう。

 そこまでの覚悟をさせたのは、草里の秘めたる魔力なのか魅力なのか、それともあの子ら自信に本当に草里のような意志があったのか……わからない。

 

 

 それから、小象のところに寄った。小象は、組織にとって今後役に立つ存在と見なされていたとしても、やっぱりわたしの小象だ。小象は、連れ帰ろうと思った。

 

 だけど、小象はそこにいなかった。

 

 世話をしていた人によると、わたしたちが戦闘に行っている時間帯のうちに、忽然といなくなっていたらしい。辺りを探したけど、何の手がかりもなかったと。

 

 あの魔人の死の夢から、まだ小象だけは戻って来れていない、なんてことがないだろうか。

 それはない。とわかっていた。

 けど、小象はいない。もう、ここには……。

 

 また夢のなかに、わたしの夢のなかに探しに行こうか。小象は、きっとそこにいるのだから。

 少しだけ、億劫だ。今は、夢の空を一人で飛ぶことは少しこわい気がする。

 でももう少ししたら、小象を迎えに行く。必ず。

 

 

「草里。ありがとう、ごめんなさい」

「さっきも、聞いた」

 はーと、草里はため息する。顔は全然、困っていない。いつもの草里。

「会えなくなるわけじゃ、ないから」

 草里は腕組み。小さな草里。背中に差した不釣合いな大きなピエロ斬りがよく似合う草里。

「ふふ……フラグを立てるのが上手な草里」

「ああ? 馬鹿」

 ピエロ斬りの鞘で、わたしの腰をどんっと叩く。

 

「さよなら。草里」

「……うん」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ソラミミ。ソラミミ……

 わたしを呼ぶのは誰。草里……じゃない。

 もうあの学園での日々は戻ってこない。

 

 草里は「また、聴こえていたの?」と言っていた。空耳が聴こえたことなんて、なかったけど。「また」って。わたしにはもしかしたら、草里が言うように、ずっと前からわたしを呼ぶ声が聴こえていたのかもしれない。

 空耳じゃなく。

 誰が、わたしを?

 小象。おまえなの? ずっとわたしを呼んでいたのは。

 それとも、パレードなの?

 

 わたしはその声を辿り、そして見つけたのは、一匹の天使だった。

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