7-5.厳しい戦い(2)
黒のなかに、黄緑が七つ、ゆらゆらと舞っていた。こうしてそれを眺めていると、静かで、きれいだ。
細かい線の黄緑もちらちらとして見える。周りを見ると、白くぼうっと立つものが十、くらい。…………寒い…………早くしてくれ…………いつまでこんな馬鹿げた舞を鑑賞させられるんだ…………無能、早く鍵を探せ…………五人も死んでるんだぞ…………と、恨みがましい情念そのままなのような残留思念のような、声が、している。
えっ。五人も……そりゃ、ひどいや。と思うのは、わたしの意識か。
いや、鍵を探せって、探せよ、わたし。それ、わたしのやることだよ。と、いうわたしの意識も、さきの残留思念のように辺りに漂い出す。
しゃがみ込んでいるような感じ。立とうと思うけど、立つということがよくわからない。周りの白たちは、ただぼうっと立って言葉もなす術もなく沈み込んでいるような感じだ。
……ええー。もしかして、これってわたし死んでる? わたしさっきの戦いで、死んだ方に入ってるのか。
さっき、残り一体までになってそのあと、掴まれて持ってかれたの、わたしか。わたし、焦ってしまった。その焦りが失敗を生んだのか。魔人は倒したけど、鍵を探すわたしが死んでしまって、残った皆はもとの空間に戻れずに呆然となっている、の図か。
いやだ……そんなの。
わたしが死んだってのもいやだ。ええ。ええー……もう一回。いや、だめなのか。なんか、寒くて、段々、何かが萎んでいく感じ。黄緑も段々ぼやけて、周りの白も皆立っているのかしゃがみ込んでいるのかわかんない。段々、全てが萎んでいく。皆を戻れなくして、皆もこうして死んでいくことにさせてしまったのか。
ああ、でもいっそその方がいいかも。どうせ死ぬなら一人より。わたし死んだ方になんかなりたくなかった。何人かは死ぬってわかってたけど、わたしは元々守られる予定だったし、わたしはまだ生きれるって思ってた。いやだよ。死ぬなんて。こんなところでもう何も思えもしなくなってしまう。萎んでいく……寒い。
「寒いんだよ! 早くしろぉ!」
「いっ痛。草里……?」
…………おい無茶をするな…………そいつまだ新人なんだからさ、しゃあねえよ…………まじ寒いけど…………本当に、何とかしろ。五人も死んでるんだ。冗談じゃないぞ、俺は! …………黙れ…………
また、残留思念の声が幾つか響く。違うのか、これは、やはり、残っている人たちの、この空間での、声?
わたしはやっぱり残っている方にいて、他の人からは白い影として見えているの? でも、さっきの草里の声は。それに確かに、引っぱたかれた感触。草里? わたし、残ってるよね? 鍵、探すね? ……返事はない。
…………返事はないじゃねえもうまじ皆、うんざりしてんだ。…………草里の声! え、じゃあわたしのこれも、今までのも全部声として聞こえていたの?
…………本当早くしろ五人だぞ、五人死んでるんだ。…………こいつやっぱど素人だ…………死んだのは関係ねいだろ…………また何人かが言い合う。あ、これも声になって漏れるんだ…………
白い影たちは、ほとんどぼうっとして動かないままなのに。動けない? 声は出るけど、わたしもどうしたらいいのか、動かし方がわかんない…………まじで!?…………本当勘弁しろよ、五人死んでんだぞ…………寒い…………寒い、何とかしろ…………
「ぱしっ!」
「いっ。叩くのやっぱ草里? あ、声、出る。どうしたらこうしてちゃんと喋れるの? コツ、教えて」
「無理。いいから早くしろ寒い。あれ使え」
……何だ? このカタコトの草里。あ、また声が思念に戻ってしまう…………
あれ、って何? いっ、痛い。草里? …………もういい加減にしろ。俺はこいつを、斬る…………えっ…………馬鹿な真似はよせ。…………もうちょっとだ…………いや、もう無理だろ…………俺も今回は無理だと思う。どうせ皆死ぬ…………もうちょっと、あれって、あれ……そ、そうか、これ、か…………ぱぽー。…………何か言ったか。…………ホラキタ。キタ…………キタコレ…………わかってたんだよ…………寒…………おい、斬る。斬るぞ…………馬鹿。さっき聞こえただろ。もうちょいだろ…………何が。おれには聞こえていない…………え、わ、わたしにも聞こえた。…………ぱぽー。ぱぽー…………これ、あいつが言ってんの? …………あいつって、草里? …………いや、草里がぱぽーは言わないだろ。バイトがだろ…………え、これ、わたしが言ってるの? …………違う。真実を認識しろ…………嘘だろ。じゃあ、望みねえじゃん。こいつが呼んだから、キタんじゃねえの? …………違ったみたいだわ。…………オワタ………………寒い………………斬る…………………さむ い………………草 里………………ソラ ミ ミ…………ぱぽー!
ぱぽー! そうして黒のなかから、そこだけ通常の空間と同じ明度と彩度のある象が現れた。
巨大な象。
わたしたちを見下ろしている。足一本で、この辺に固まってる小さな白たちを全部まとめてどんって潰してしまえそうなくらい。
ふっ。ふっ。と鼻を鳴らし、黄緑を吸い込んでいく。だめよ! そんなもの吸い込んじゃ。わたしの小象!
はっとする。これは、そうだ、無論、わたしの小象だ。こんなに、大きくなって……。
最後の黄緑を吸い込むとき、鼻をもごもごして、するとその大きな大きな鼻の先には光る小さな小さな鍵が。
もちろん、あれが探していた、鍵だ。見つかったよかった……ねえこれって、わたしが探したことになるのかな? 周りの白から草里を探して聞いてみようとするけど、黒が薄れて、白も薄れて消えていく。象だけが残る。
ぱぽー。




