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ソラミミ  作者: k_i
第7章
34/46

7-4.厳しい戦い(1)

 見つけた。

 

 わたしには、わかった。何の変哲もないようだけど、そこだけ、あきらかに異様な、変な言い方だけど〝気配として感じるにおい〟とでもいうべきものを、発していた。

 大人の等身大の、海草に似た木々が五本、並んでいる。周囲にも、疎らにこの木々はある。だけど、ここだけ、違っていた。二本目と三本目の間に、影があった。ただでさえ暗い暗い嫌になる程暗いこの場所で、もうこれ以上見たくないような、だけど目を逸らせないような、暗さを湛えた影だ。拳大程のものだった。ここから、引き出さないといけないのか……。

 

 わたしははたと、憂鬱で憂鬱で仕方がなくなる。

 しゃがみこんでその暗い暗さを見つめた。

 周囲ではやはり、スキンヘッドや大男たちが集まって腕組みしたり、少し足をじりじりしたり、している。

 

 皆も、わかっている。わたしが見つけたことを。さっきから。

 けどこれは、それがわかったっておいそれと、引き抜くことはできない影なんだよな。それはわかってくれてる、ってことはわたしもわかる。何だか、プロになったな、わたし。こんなに、わかるなんて。

 

「よし」

 わたしは短く声にして立ち上がった。心を決めるぞ。

 何人かが、寄ってきた。

 

「おうよく決めた。じゃあやってくれ」

 蛭賀に続いて、草里も近くに来てくれた。

「引き出した瞬間に、勝負が始まる。向こう側でも気づいてるみたいだし。あなたは試合開始と言う審判みたいなもの」

 妙に落ち着いている。でも落ち着きならわたしも負けていない。今、不安はない。

「でも試合が始まったら、審判も関係なくぶっ飛ばす連中でしょう」

「殺させはしない」

 意外と穏やかな声でスキンヘッドが言う。

 

 他の皆も集まってきて、配置に着いた、といった感じだ。こっちは総勢十六名、か。終わったらときには、もしかしたら何人かは……いや、だめだ。そんなこと考えてちゃ。

 ……何だか力が抜けてきてしまった。ああ、駄目。駄目だ。

「あの……一旦ここでまた、休憩ってなりません?」

 ふいーっとため息を漏らしながらわたしはそう言い放っていた。こんなことよく言ってしまったものだ。さすがに後悔しかけた。が、

「いいぞ。わかった。皆、休憩とれ。十分以内だ」

 

 またおにぎりを取り出す猛者もいた。

 草里は、少し向こうに腰かけてジュースか何かを今度は足のパーツからシュッと取り出し飲んでいる。

「ごめんなさい」

 隣にいてくれるリーダーの蛭賀に謝る。

「おれたちはおまえがいなきゃ、戦えん。こればかりはおまえ頼りだ」

 影から、ギョロつく目玉が一つ出て辺りを見回している。が、あちらから出てくることはない。それもわかっていた。

 

「……ふう。あれは、何だと思いますか?」

「今日の敵は、どうやら魔人だ」

「魔人……ですか」

「おまえは草里と、パレード潰しに行ったことがあるんだろう。ピエロより大きいやつだ。小さいのもいるが」

 うう。よく……わかんないっ! けど、そこはもういい、わたしはそこは信じるだけだ。皆を。

 

「わかりました。改めて、心の準備はできました。

 あと、この段階になってで申し訳ないのですが、わたしは、戦闘になってからは終了まで完全待機でいいのですか?」

「それもパレードのときと同じだ。魔人を切り開いていくから、そのなかから鍵を見つけてくれ。それで魔人の空間から抜け出す。

 今回のその影だと、五、六体といったところだろう。そう面倒なことではない」

 

 あれっ。それって……わたしは草里を見る。

 パレード潰しのときに、草里がやっていたこと。あれは本来、わたしの役目なのか。あのときは役割分担とかそういうのもなかったしな。そう言えば誰々はわたしを守れとか、草里は指示を出してたっけ。守られ役か。お守りやった人は皆死んじゃったけど。

 わたしなんて、いつもただついていくだけで……小象と一緒にいるだけで。

 ようし。

「はいっ! 行きます」

「ちょい待ち。おにぎり食い終わってないやつが一人いる」

 草里、結局食べてたのか。

 

 

 引き抜いた。

 予想された通り、一瞬だった。わたしの目の前に次々と、見たこともない魔人だとかのおかしな顔が、順々に七つ、映し出された。一つ一つ少しずつ異なる呪文みたいな化粧を施していた。ヘドロみたいな髪の毛に、何かの病気みたいな黄緑色の肌。ぷくっとふくれっ面。

 最後の二体が、わたしを掴もうとしてきた。

 わたしの横にはもう誰か二人控えていて、掴もうと伸ばしてきた魔人の腕を斬っていく。腕は、一体が何本も持っていて、それを次々と斬っていく。一人、腕に掴まれた。けどわたしの横にはまた誰か来ていて、握りつぶされていくその一人はそのままにされ、わたしに迫る腕をまた次々に斬り始める。

 魔人の大きさが段々明確になってきて、わたしたちの倍くらいはある。二体の向こうで三体が、数人とやり合っている。

 今、引き出した影が辺りをとっぷり暗くしつつあり、そこで戦っているのは誰なのか、わたしの隣にいるのすら誰なのか、わからない。誰も、全く均一な動きで、同じように魔人の伸びる何本もの腕を斬り続けることだけ集中している。誰にも全く隙がないようで、乱れるどころか息をしているのかどうか息の音すらも聞こえない、無音の世界で繰り広げられるこの光景。誰かがまた腕に掴まれる。向こうでも誰かが掴まれた。三人目。見えていないところでもおそらく、同じ光景が繰り広げられている。斬られた魔人の腕が、黄緑の海蛇のように辺りをゆらゆら舞っている。辺りは、完全な黒になった。

 

 魔人は黄緑として、わたしたちは白として、見えている。ふと、蛇に混じって、大きな黄緑色も舞ってくるのが見えた。魔人の死体だ。すでに、二体……三体、倒されている。

 わたしはこの場を動かずに、視線だけを集中してその黄緑を眺めた。動くと、剣の切っ先か魔人の腕の軌道に当たってしまう。黄緑色のなかには、何も見えない。また一体、流れてくる。わたしの前にいた内の一体はいなくなっている。あと目の前の一体と、その少し向こうの一体と、後ろか、どこかにいる一体。

 

 うっ――わたしの右隣の一人が掴まれた。

 人がいなくなったそちらにはもう、誰も来ない。左隣に残った人がそのまま目の前の一体とやり合いを続ける。どんどん斬り取られていく腕。一矢の乱れもない。だけど掴まれれば一瞬だ。

 掴まれた白は、その後黒のなかに吸い込まれてもうそのまま見えなくなる。黒に溶けこんで、終わりだ。大きな黄緑は、五つ流れている。向こうに見えていた黄緑もそのなかに入っている。あと目の前の一体とどこかの一体で終わりだ。

 鍵はどこだ。援護は来ないのだろうか。皆、どこへ行ってしまっている。わたしの隣にいるのは、草里なの。草里、死なないで。急に、千切れだす黄緑の線の数が増えた。誰かが援護に来た。目の前の大きな黄緑が流れた。わたしはふいにそのなかを覗く。

 ――動くな。すぐ、後ろで声がする。

 後ろで誰かが戦っている。すぐ後ろにもいたんだ。まだ後ろの方から黄緑の線が散っては舞ってくる。そのペースは速い。残った皆が斬っているなら勝負はつくだろう。に、また誰かが掴まれた、と思う。

 どうして。

 もう、少しなのに。

 

 早く……お願い…… ……

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