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ソラミミ  作者: k_i
第6章
30/46

6-5.バイトの日々

 もしかしたらもう学園には行かないかもしれない。やめるかもしれない。という思い。

 そう思いつつも、学園へと、向かう。

 

「空丘さん」

「あ、想馬さん」

 後ろから来た想馬さんが、わたしを追い越し、

「バイト、行ったんだってね。聞いたよ」

 とだけ言うと、颯爽と先へ行ってしまった。

「あっ。想馬、さん、……」

 

 想馬さんには、向こうでは会わなかったな。最初にわたしを助けてくれたあのときには、仲良くなれるかなって思ったんだけど、あれ以来全然愛想がないな。草里とはあんな雰囲気だったし。

 学園をやめたら、もう学園の皆とは会えないのか。組織に残っているのは、草里、想馬さん、わたし、だけなんだ。草里はどんどん遠くなっているような気がするし……

 うーん。やっぱりそれを思うと、もう少しだけ、バイトで続けるのでもいいかもしれない。けど、いずれは……

 

 

 放課後になると、またわたしはバイトをしに組織を訪れる。

 この週、連続して二日、次の日は休んで、それから次の日と、三回。初めてのときと同じように、依頼された物を探す仕事をした。行き先はいつも少しずつ違うけど、どんより暗いというのは同じ、夢のなか。やっぱり、水の底みたいと感じるところばかりだった。

 

 ときどき恐いものが襲ってくるけど、先輩らが手早く追い返してくれる。女生徒らは死んでしまったというので、もっと恐い印象を持っていたけど、先輩らが強いためか、安心できる。女生徒らのこと、守ってやれなかったのかな……この先輩らはぶっきらぼうな人もいるけど、基本的に優しい。この人らと一緒に行って、死んだのだろうか。あまりそういうことを考えたくはなかったが。

 

 この三回とも、奇乃とコンビを組んで、奇乃が灯かりで照らし、わたしが探す。やり方は同じだった。どろどろした闇に潜るのは、恐くはあったけど、それも慣れだ。

 

 そして、闇のなかにはいつも、ピエロの死体が折り重なっていた。

 そういうものなのか、奇乃に聞いたのだけど、奇乃が闇のなかに潜るときにはそうではないらしい。闇のなかは、依頼主ではなくよりその潜る人の固有性に左右される、のだと。それは経験上わかっていることであり、どういう理由だか仕組みだかはわからないのだそうだ。

 とにかくわたしは、懸命に潜り、ピエロを交わし、三度とも宝石を拾い上げることに成功した。

 わたしってこんなにできる子だったんだ。なんてね。

 茶化してしまうけど、わたしは初めて、わたしのやっていることに誇りというものを感じている、と思った。

 

 

 学園に登校する。

 バイトが終わって帰宅すると、すぐにベッドに倒れこむ。シャワーと夕食は毎度、組織で済ませてくる。寝て起きるともう、朝だ。

 

 授業はほぼ、昼寝で過ごすようになってしまっている。まあ、もういいや。と思っているからだけど。わたしにはわたしのやることが見つかったんだ。学園とはいつかそのうちに、おさらばなのだから。

 

 明日は休みなので、今日は組織で泊まっていくのもいいな。

 と思っている、もう放課前のHR。

 

「皆、聞いてくれ。こないだ、天使のことを話したと思うが」

 と、先生が切り出す。

「天使?」「何それ」「そんなの話しましたっけー」「先生、わたし知りませんっ」

 生徒らが口々に言って、先生は困り顔だ。

 天使……か。聞いたような聞いてないような。

 

「あのなあ。大事な話だからよぉく聞いてくれよう」

 先生はコホン、とそれっぽく咳を入れて、

 

「天使の群れが近づいている」

 

 さっと静かになる。

 

「天使は大変獰猛な存在だ。見かけたらすぐ退避するように」

 先生はそう言い終わり、しばらくしーんとなっていたが、

 

「あっはっは」「ばっかじゃん」

 笑いが巻き起こった。

 

「お、おいおまえら。いい加減にしないか!」

 先生が半ば怒り顔で、いいかよおく聞け、と叫ぶ。

「もし下手に手を出せば……」

 

 皆は再び沈黙し、クラス全体がごくっとつばを飲む雰囲気に包まれた。

 そのとき、聞こえた。まただ。「ソラミミ。ソラミミ……」――わたしを呼ぶ声。

 

「は、はいっ」

 

 全員が、わたしを見る。

 わたしは一人、思わず立ち上がっていた。さきの声はもう、聴こえない。皆には……聴こえていない?

 

「お、おう……」

 言葉をなくした先生が、呆然とした表情で、わたしを見ている。

 それを合図に、またクラス中が一斉に吹き出した。

 

 チャイムが鳴る。

 HRは、終わった。

 

 

 あれは、そうだ。わかった。天使の声だ。天使がわたしを、呼んでいる……。

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