6-5.バイトの日々
もしかしたらもう学園には行かないかもしれない。やめるかもしれない。という思い。
そう思いつつも、学園へと、向かう。
「空丘さん」
「あ、想馬さん」
後ろから来た想馬さんが、わたしを追い越し、
「バイト、行ったんだってね。聞いたよ」
とだけ言うと、颯爽と先へ行ってしまった。
「あっ。想馬、さん、……」
想馬さんには、向こうでは会わなかったな。最初にわたしを助けてくれたあのときには、仲良くなれるかなって思ったんだけど、あれ以来全然愛想がないな。草里とはあんな雰囲気だったし。
学園をやめたら、もう学園の皆とは会えないのか。組織に残っているのは、草里、想馬さん、わたし、だけなんだ。草里はどんどん遠くなっているような気がするし……
うーん。やっぱりそれを思うと、もう少しだけ、バイトで続けるのでもいいかもしれない。けど、いずれは……
放課後になると、またわたしはバイトをしに組織を訪れる。
この週、連続して二日、次の日は休んで、それから次の日と、三回。初めてのときと同じように、依頼された物を探す仕事をした。行き先はいつも少しずつ違うけど、どんより暗いというのは同じ、夢のなか。やっぱり、水の底みたいと感じるところばかりだった。
ときどき恐いものが襲ってくるけど、先輩らが手早く追い返してくれる。女生徒らは死んでしまったというので、もっと恐い印象を持っていたけど、先輩らが強いためか、安心できる。女生徒らのこと、守ってやれなかったのかな……この先輩らはぶっきらぼうな人もいるけど、基本的に優しい。この人らと一緒に行って、死んだのだろうか。あまりそういうことを考えたくはなかったが。
この三回とも、奇乃とコンビを組んで、奇乃が灯かりで照らし、わたしが探す。やり方は同じだった。どろどろした闇に潜るのは、恐くはあったけど、それも慣れだ。
そして、闇のなかにはいつも、ピエロの死体が折り重なっていた。
そういうものなのか、奇乃に聞いたのだけど、奇乃が闇のなかに潜るときにはそうではないらしい。闇のなかは、依頼主ではなくよりその潜る人の固有性に左右される、のだと。それは経験上わかっていることであり、どういう理由だか仕組みだかはわからないのだそうだ。
とにかくわたしは、懸命に潜り、ピエロを交わし、三度とも宝石を拾い上げることに成功した。
わたしってこんなにできる子だったんだ。なんてね。
茶化してしまうけど、わたしは初めて、わたしのやっていることに誇りというものを感じている、と思った。
学園に登校する。
バイトが終わって帰宅すると、すぐにベッドに倒れこむ。シャワーと夕食は毎度、組織で済ませてくる。寝て起きるともう、朝だ。
授業はほぼ、昼寝で過ごすようになってしまっている。まあ、もういいや。と思っているからだけど。わたしにはわたしのやることが見つかったんだ。学園とはいつかそのうちに、おさらばなのだから。
明日は休みなので、今日は組織で泊まっていくのもいいな。
と思っている、もう放課前のHR。
「皆、聞いてくれ。こないだ、天使のことを話したと思うが」
と、先生が切り出す。
「天使?」「何それ」「そんなの話しましたっけー」「先生、わたし知りませんっ」
生徒らが口々に言って、先生は困り顔だ。
天使……か。聞いたような聞いてないような。
「あのなあ。大事な話だからよぉく聞いてくれよう」
先生はコホン、とそれっぽく咳を入れて、
「天使の群れが近づいている」
さっと静かになる。
「天使は大変獰猛な存在だ。見かけたらすぐ退避するように」
先生はそう言い終わり、しばらくしーんとなっていたが、
「あっはっは」「ばっかじゃん」
笑いが巻き起こった。
「お、おいおまえら。いい加減にしないか!」
先生が半ば怒り顔で、いいかよおく聞け、と叫ぶ。
「もし下手に手を出せば……」
皆は再び沈黙し、クラス全体がごくっとつばを飲む雰囲気に包まれた。
そのとき、聞こえた。まただ。「ソラミミ。ソラミミ……」――わたしを呼ぶ声。
「は、はいっ」
全員が、わたしを見る。
わたしは一人、思わず立ち上がっていた。さきの声はもう、聴こえない。皆には……聴こえていない?
「お、おう……」
言葉をなくした先生が、呆然とした表情で、わたしを見ている。
それを合図に、またクラス中が一斉に吹き出した。
チャイムが鳴る。
HRは、終わった。
あれは、そうだ。わかった。天使の声だ。天使がわたしを、呼んでいる……。




