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ソラミミ  作者: k_i
第6章
29/46

6-4.わたしはこれから

 依頼主の記憶というそれは、宝石そのものだった。どこにもない色、それだけが持つ輝き。

 

「これを、依頼主に渡すのですか?」

「いいや。このままでは渡してもどうにもならない。ここからは、この宝石を溶かし、元の記憶の形状に戻し、それをまた独自の方法で依頼主の記憶として依頼主に返すのだ。ここから先のその仕事は、それぞれ別の分野の専門家の仕事なのだよ」

「ふぅん……」

 ここから先の仕事、というのは人では不可能な部分も多く、人外の業者に渡ることがことが多いという。

 組織に帰還したそのときには、そこまで聞いたくらいで、仮部屋に入るとすぐに眠った。甚だしい疲労感と、任務を達成した安堵感とに襲われて。

 

 

 家に帰ってもう一度、事実を噛みしめる。

 わたしは、才能を見い出された十一のとき以来、実際にこの手に形ある物を掴みそれを持ち帰ることに成功した。しかも今度はそれがアイスみたく溶けてしまわず、しっかり形を保ったまま、次の工程の専門家に渡される。

 

 わたしはわたしの役目を、無事に終えた。その、達成感。嬉しさ。

 

 はぁっと息を吸い込み、深く自分のなかに落ち着ける。

 たまらなくなり、部屋の窓を開けた。

 

 夜。がある。

 あのときの暗闇……思い出す。あのおどろおどろした、おぞましい暗闇。これからもまた、あの暗闇に向き合って、あのどろどろした泥のような闇のなかから、折り重なる死体のなかから、宝石を見つけていく。それがわたしの仕事か。

 

 今、目の前の闇はとても澄んでいて、見上げれば明るい夜空に星が灯っている。

 あんなきれいな夜空を飛んで、星を掴み取るみたいなら、いいのに。そんな風に楽しくできることなら。

 けど、実際には……。

 

 黒い雲が、峠の方から流れてくる。

 

 心はもう、決まっている。

 

 学園にいたら、わたしはこれから先もう一度宝石を掴まえられたかしら。二度と、できなかったかもしれない。そうしたらわたしは結局学園を出たって一人さびしく雲を下り地上に戻るしかなかったかもしれない。そんなのじゃ親に合わせる顔だってないしきっと、一人さびしく生きていくしかなかった、いや、生きていく糧さえなかったかもしれない。それを、わたしは、確かにこの手で掴んだんだ。わたしのこれからはもう、決まった。

 

 どんだけわたしの空が、黒い雲でいっぱいだって、その真っ黒のなかを掻き分けて、わたしはわたしだけの宝石を、見つけてやるんだ。

 

 黒い雲がいくつか過ぎ去り、そのあとに、小さなまっ白いのが、黒雲のあとを追うように流れてくる。

 あれは……何だろう。どこかで、見たことがある。

 あれは、わたしの夢の空。わたしの夢の空を横切っていった、何だろう。

 また、行ってしまった。

 

 それからは、夢のない眠りに入った。

 だけど「ソラミミ。ソラミミ……」とわたしを呼ぶ声だけが聴こえる。優しげでだけど何かに怯えているような儚げな声。今のわたしにはどうすることもできなかった。

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