6-1.初任務(バイト)
学園生活に戻り、三日程が経つ。
そろそろ、今日辺り放課後、バイト――組織の方に、行ってみようか。
そう思いながら、登校すると、あれ?
組織に残った子の一人、戻ってきたのかな。
「どうしたの? あなたも一度、戻ってきた? あちらでは今、どう?」
「死んだ。残りの子らは」
残りの子ら、三人が。
「え……」
言葉を失う。あんまりすぎだ。まだ、三日しか経っていない。
じゃあ、もうこの子らは早速組織の仕事に出たということか。
「全然あんなの話にならないわ」
その子の言うには、ソラミミが帰った次の日、一度訓練も兼ね実践に出てみることになった。そこでいきなり三人とも死んだのだと。
「そんな、……なんだ」
けど、それ以上、具体的にどういうのだったかは聞かずにおいた。この子はどこか茫然自失としていたし。でも一つだけ、
「あ、草里は……?」
聞くと、
「草里さんも、出ていたよ。やっぱり草里さんは、違う。草里さんは普通に、戦っていた」
と。
「そっか……」
「わたしは思った。草里さんは、もう雲の上の人ね。いや、もともとそうなんだけど」その子は、哀しいような諦めのような笑いを浮かべた。「わたしたちとは、違いすぎる……わたしにできることなんて、ない」
そう……わたしの、返答になりきらない声。まあ、組長は実際そう言っていた。前衛はそうなっても仕方がない覚悟がいると。でも、わたしは守られるんだし……というふうにどこか安易に考えている自分がいる。やっぱり、組織には行ってみよう。そうしないってことは、考えられないことなのだ。
*
「おうバイト、来たか」
……もう少し、よく来てくれたなくらいの言い方でも、いいんじゃない?
ともあれ、再び訪れた組織にわたしはそんな軽い感じで迎えられた。
目の前にいるのは、長身の若い男。樽辺と名乗った。わたしがバイトとして一緒に行く探索班のリーダーとのことだ。
「一件軽い任務が入ってるんだ。どうだ一度、出てみないか」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さき、学園であのような話を聞いたばかりだ。とは言え、出てみないことには、どうしようもないのだが……。
「やめとくか?」
「や、待ってください。いき、行きます!」
「よし。付いて来いバイト」
今まで組織内部にいるときには案内されたことのない場所まで連れてこられた。ここに来るまでに通ってきた細く長い通路は、最初に来たあのとき、小男が立ち入り禁止といったところか。その先に、ここがあったのか。何だか、ぞくっとする。パレード潰しをしたときに、峠を頂まで登っていった。あのときの感覚に、似ている。この先へ行けば、死が当たり前のように待っているという場所。
六、七……人数を数えると、八人いる。背丈からすると皆大人の男のようだ。草里は、いないな。わたしたちの立っている横には、斜めに傾いた壁が延々連なり、そこに大きなマンホールの蓋のような扉が一定間隔で、これも延々連なっている。ここにいる八人程度なら、一度に入れそうな大きさ。ずらーっと遠くの遠くにまで、その果ての方は暗がりになって見えない。青が、より暗い青になって、風景が青の中に沈んで見えるようだ。水のなかにいるような錯覚に陥る。
「新入り。ええっとおまえは、前衛だったか」
「こ、後衛です!」
死んじゃう。そこんとこ間違えられたら、わたしなんかすぐ死んじゃう……大丈夫なのだろうか本当に。
「あの……わたし、空丘っていうんですけど」
「ああ大丈夫だよ。ボスから聞いてる。安心しな、絶対に後衛は死なせはしない。ここに来てるメンバーは歴戦ばっかだし、死ぬような任務じゃねえから」
「はい」
「えーと。じゃあ今回は、ここから入るぜ」
八人が待機していたすぐ横の壁の、大きな蓋。それを、二人ががりで支えガコっと開く。
そこに一人二人と入っていく。
恐る恐る、入ってみると、一気に吸い込まれるような感覚、遠くに見えていたゆらゆら揺れる青い一点が、視界のなかへと一気にぐわっと迫ってくる。青が広がる。そこはまるで、水のなか……途端、一匹の巨大な悪魔のような魚のような何ともつけ難いおぞましい顔が大口を開けて迫り来る。
うわっいきなり死ぬ!
だが、透明の膜があるように、その牙が達することはなかった。不思議な感覚で、自分の視覚やその他の感覚がどこかバラバラになっているような覚束ない感じ。見れば、悪魔のような奇怪な姿の魚の周りで、三人、四人の影がすっ、すっと行き来して、戦っているように見える。すると悪魔の魚は、今度は急に一点に吸い込まれるように小さくなって消えてしまった。
倒したの……? これで、任務は、終わり?
「いやあ、びっくりしたか? 到着したところにちょうど、いたみたいなんだ。予想外だったよ」
なっ。何ていう……
「一人、食われちまったようだ。最初に来てたやつが」
そんなあ。死ぬような任務じゃないって……歴戦ばかりって言ったよね。歴戦の人がそんなあっさりなんていくら何でも。この組織、ちょっといい加減すぎない? 帰りたい、と思って後ろを振り向く。動作が、重い。重たい水のなかみたいに、纏いつく。パレード潰しのときにあった感じに近いのか……ここは一体、どういう場所なのか。
「うっ」
見ると、来たときと同じでかいマンホールの穴は、遥か頭上の方にある。何十メートル、ってとこ? やっぱり、水のなかみたいだ。わたしたちがいるのは薄暗い水底で、上の方のが明度が高い。それにしてもあんなところから落ちてきたの? でも、飛び上がろうとしても、ちょこんとしか跳ねれない。まんま水っていうわけでもない。泳ぐみたいには、上の方には行けないのだ。
「何してる。バイト。ひよこみたいにぴょこぴょこと」
「あ、あそこっ」
「ああ来たとこ? あそこからはもう帰れないぜ。このまま進むから付いてきな」
ええっ。そんなあ。また、あんなのが出たら……
「今日の任務は、探索なんだ。さっきみたいな敵と戦うわけじゃない」
「探索ぅ?」
「ああ。依頼主が、この辺に物をなくしたらしいからな」
「こんなところに? な、何を探せばいいのですか?」
「記憶だ。依頼主がどうしてもなくしたくなかった記憶だ」




