5-2.わたしたちこれから どうするの2
組長室の方へ逆戻りすると、扉の前に出ているのは、草里のようだ。草里を前に、生徒ら。
随分長く話していたな。草里……無事だったんだろうか。
「草里? ごめんなさいちょっとトイレ」
「ソラミミ。皆も聞いてくれ。組織と話はついた。悪くない条件で、全員組織に雇ってくれるってことになった」
……よかった。ひとまずは、居られる場所が確保された、ってことか。
「それから、組織はすでに学連とも話をつけた。だから、戻りたいなら、学園に戻るのも自由だ」
えっ。
生徒らもそれを聞いて少し、ざわつく。
「けど、草里、わたしたちは学園の先生だって切ったりひどい目に合わせたし、学連相手にあれだけ……それに、入間さんのことも」
わたしはもじもじしながら、色々聞きたいことを整理するが、まとまらない。
「そういうことひっくるめて全部、もう話が済んでるんだ。雲の間に学園の先生も一部入れ替わっている。赤居も。三馬鹿の代わりもすでに。それから、入間の父親はもう学連にはいない」
いない、って……?
でもそこ以上は言葉に出して聞けなかった。
もしかしてここ、すごい権力を持った組織だったりする、の……?
「本当に、何のペナルティなしにもと通りに戻れるってことですか?」
一人が聞く。
「そうだよ。但し草里楓は除いて、っていうのは条件だけどな。他の生徒は皆、草里に加担させられていた。そういうことだ」
ここまで付いてきた生徒らだが、これを聞いて少し安堵している様子の者らもいた。
わたしも……少しそうだ。
けど一方で学園に戻るなんて、そんなことってあるのだろうか。という思いもある。
「だから、……ん。どうした、ソラミミ? なんか落ち着かないな」
「ごっごめん。トイレ」
「あ、わたしも」「安心したら何か」さき付いてきた二人もそう言った。
「行ったのじゃないの? あっちにあるあれ、そうじゃないのか」
わたしが行ったのと反対方向の通路の遠くに、ピンクっぽい灯かりが。行ってみると、そうだった。けど変な灯かり……青っぽい空間のなかなのでわかりやすいのはいいんだけど。
「あの、ねえ……あの、どうするの?」
事を終え手を洗いながら、一緒に来た二人に、聞いてみる。
「そうね……」
「わたしは、学園に戻ろうと思う」
「本当?」
「草里さんの持つ考えは、もっともだって今も思う。けど、わたしたちが犠牲者を出してまでした今回のことそれだけでも、すでに意味はあった、と思うの」
このたった数日に起こった色んなことを思い出す。
「わたしには、草里さんのような才能はないってわかっているし。ほとんど、……死んでいった皆のように戦いもできなかったけど、意味のあることに参加して、それに草里さんを組織まで送り届けることができた、って思うようにしようと思って。上手く、説明できてないかもしれないけど」
わたしも、これからここでやっていけるって自信はないな。
「……そう」
「空丘さんは、草里さんの片腕として是非彼女を傍で助けてあげて」
「そ、そんな、片腕……だなんて」
「そうよ。あなたと草里さんとの仲は、皆知ってるんだから」
え……どういう意味だろう? 入間の部屋でのことを思い浮かべてつい赤面してしまう。郡さん、もしかしてわたしのいない間に言ったんじゃないよね?
だけど……どうしような。本当に。
さっきの子たち含め三人が、すぐに荷物をまとめた、って持って来た荷物なんて何もないな、気持ちをまとめたってことだけど。
例の小さな男がまた来て、地上まで送り届けてくれるという。
「おまえは、帰らないの?」
そうわたしに言う小男。
「え、あ、はい」
「ふぅん」
ちょ、ちょっと何よ……帰れってかよ。感じ悪。と思いつつ、
「わたしは、見送りです」
微笑しておく。暗がりなので、ひくついてても悟られはしまい。
三人を、見送る。
「草里さんによろしく」
草里は来ていない。というか見送りに来ているのはわたしだけ。だからさっきああ言われたのか。
小男は、小さな丸い部屋で、想馬さんがしたのと同じようにまじないじみたことを始めた。この部屋にはあらかじめ、魔法陣の模様が刻まれて、薄く発行している。小男が準備を終えると、光が強まり、三人は姿を消した。無事、戻ったのかな。そしてまた前と同じように学園に通うのだろうか。
三人が行って、小男と二人になる。
小男は何も言わず、元来た道を戻っていく。わたしはそれに続く。
「おまえ、なんでついてくんの?」
……ちょっとイラッと来つつも、わたしは微笑よ。
「あの……道、わかんないんですけど」
来たばかりなのに、あたりまえじゃん!
「おまえ、腹減ってないの?」
「あ、そう言えば」
「残るやつらは、食堂に飯用意してあるからってアナウンスしたんだけどな。ちゃんと場所も教えたし」
「わたし、聞いてないんですけど」
「ふぅん」
ふぅんじゃないっ、こいつ、絶対わたしをカモにしてる。
ああ、じゃあ今頃草里たち、残る人皆で食事してるんだ……なんか悲しい。
「食堂、ここ」
小男が指差す。
「あ、ありがとうございます!」
なんだ、一応案内してくれたんだ。急ぎ足で部屋に入ろうとするとフン、と後ろで声が聴こえる。何よあいつ。ああいう嫌なのがいるんだよな。まったく。
ようやく、明るいっぽい部屋に来た。思ったより全然小奇麗な食堂だ。トイレなんか真っ暗だったのに。この組織へ来て初めての明るい部屋に、心が照らされるように安心する。
皆の顔が見える。残ったのは、草里入れて五人、か。で、わたしで六人。
「ソラミミ。トイレ長かったな」
「え……ええ。あ、それから、聞いた? 三人……」
「ああ」
「草里によろしく、って」
「ん……ありがとう」
草里が食べているのは、うどんか。皆もうどんかラーメンか。何か、安っぽい学食くさいなあ。
「食券あっちで」
草里が箸で指す。
「あ、うん」
ええっと。ラーメン、うどんとも三種類ずつくらいある。あ、ハヤシライスあるや!
「ごちそうさま」「草里さん、お先に」「空丘さんも、おやすみなさい」
わたしが食べ始める頃にはもう一人二人と食べ終えて、食堂を出て行く。
おやすみなさいだって皆、もうここに馴染んだみたいな感じ。そんなものかな。
「皆、どこへ?」
草里はうどん二杯目だ。小さい体なのによくぞそのように。
「一人一人、部屋が割り当てられてるよ。まだ仮部屋って言ってたけど。おっハヤシだ。あったの?」
「へえ。あっ、ハヤシね。うん隅っこにあったよ」
「ハヤシかあ……あったんなら一番、食べたかったな。でもうどん二杯食ったし……ソラミミ半分もらっていい?」
「だめ! は、半分もまだ食べれるの?」
その後は黙々、食べた。それからまた少し、他愛のない話を二人でしてた。
久々に、草里と二人で普通に会話した気がする。でも、もうこれはあの学園での日々ではなく……
「じゃあ、今日はわたしも休むよ。明日、ここに残るんなら、組長がソラミミたちにも会ってくれるって」
「ああ、そうだよなあ。会わなきゃなんないのか。ねえ……」
「うん?」
「組長って、どんなだった?」
「ええ、別に、普通の……でかくて、髭の」
げえ……普通じゃない絶対。最初の強そうで強面なイメージがまたぐんぐんわいてくる。
食器を片付けて、通路を歩く。
「わたしの部屋は番号からするとこの階段上だな」
「わたしは、この階をつきあたりみたい」
幾つかの部屋が、等間隔で並んでいる。扉から明かりや音はもれてこないけど、他の皆もこの辺なのかな。
草里は、じゃね、おやすみ。と行ってさっと階段を上がっていく。
「あ、おやすみ」
おやすみ! と姿の見えなくなった草里の声が響く。




