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ソラミミ  作者: k_i
第4章
20/46

4-5.草里と想馬

 夢を抜けるのも、静かなままだった。抜けると少し、ほこりっぽい。

 どうやら、館の中? 草里たちは……。

 しかし、どういうことだろう。

 見れば、館はまるで時間が一日二日どころでない、年単位で経過したように廃虚めいている。

 薄汚く、ぼろく痛んで……天上のあちこちが蜘蛛の巣で覆われている。

「こ、これは一体どういうこと? こんなことって……想馬さん、時間は?」

「いや……出発してからは、一時間程度しか経過していない」

 想馬さんはきっぱりと言った。

「えっ。じゃあ?」

 走っていくと、階段を見つけ、息を切らして駆け上がる。

 どうやらさっき出た場所は地下倉庫のような場所だったらしい。階を上がると見慣れたとこに出て、そこに女生徒たちがいた。

 

「はぁ、はぁ、草里?」

 皆がこちらを見ている。

 数が、減った……? 一日分、経過しているわけだが。

 何人かは、投降してしまった? それとも……。

 女生徒らは些か、一様にうなだれている様子だが、疲れているだけ、とも見える。そのなかに、草里もいる。

 草里がつかつかと、わたしのところへ来る。

 

「昨夜、学連側の襲撃があった。夜陰に紛れて」

 まあ、予想はできたことだ。

「そこで何人か死んだ。(こおり)も死んだ」

 ちょおっ……待ってよう。

「入口を守っていたんだが、真っ先に銃撃で死んだ」

 草里は淡々と話している。

 わたしは一気に顔が青ざめるのを感じる。

「ちょ、ちょっと待って、草里……うっ」

 涙が、流れそうになった。わたしは、息を整える。草里は少しだけ間を置いて、続ける。

 

「それから、人質も有効手段でなくなってしまった」

 有効手段でなくなった、って……入間(いるま)も、死んだ?

「相手が約束を破って攻め入ったのでわたしが殺した、ってことになってる。が、刺客が殺していったんだ。学連の連中には、どうでもよかったんだろ、入間のパパを除いてな。人質が乱戦で死んでしまったとなれば、向こうも気兼ねなく攻められるし。ま、パパさんはもう絶対にわたしを許さないと怒り絶頂のようだが」

 草里は冷静だ。いつも、そうだ。

「それからは三度襲撃があったが、防いだよ。こっちも相手の攻め方がわかってきたし、全員戦い慣れてきた」

 

 女生徒らは澱みきってはいるものの、誰も意を決した戦士の目をしている。

「だがもうほんと、限界は来ていたところだ。三日防ぐと言ったが、今日いっぱいが限度だったな。死者も増えたかもしれないし。で、」

 草里は、わたしの後ろに来ていた想馬さんのことを見る。

「ソラミミ。この人が、組織の?」

 

 ふと、草里の瞳がきつくなる。

 振り返ると、想馬さんは草里のことを睨みつける眼差しで見ている。

「草里楓。あなたは、人を失いすぎだわ。あなた一人がくればよかった……確かにうちの人たちはあなたを買っているけれども」

 想馬さんは、小さな声で、しかし責めるような強い語調で言い放つ。

「学園や学連まで敵に回す必要はなかったことを知るべきよ。わたしたちのところへ来たら、もっと慎重に行動することを学ぶべきね」

 

 えっ。えーっと……草里を睨みつける想馬さんと、草里とを交互に見る。草里も、今までにないような敵愾心剥き出しの表情で、想馬さんと向かい合っている。

 周りの女生徒らには、何が起こっているのかはよくわかっていないらしい。想馬さんは草里だけ言い聞かせるよう言ったのだろう。女生徒らは、別のことで騒がしくなり始めていた。一人が、草里のもとへ駆けてくる。

「草里さん! 学連のやつらの方でまた、動きがあります! 来ますよ!」

 外で見張っていた一人が、駆け込んでくる。

「少し、急ぐわ」

 想馬さんは、視線を草里から外し、するりと背中を向けた。

「皆、すぐについてきて。今からわたしたちの組織に案内する。草里楓も。早く」

 想馬さんはそう言うと、また地下へと下りていく。

 草里は意外にも、素直にすぐその後に続いた。

 一人二人とそれに続き、わたしも地下へ。

 地下には、わたしの小象がそのままいて、眠たげに座り込んでいる。

「えーっと、想馬さんわたしの小象を利用はしないよね。まあこんな全員乗っけていくなんて無理だけど……」

 それより、小象も連れて行けるのかな?

「大丈夫。組織へは、わたしが責任を持って案内する。そういう任務を言い渡されて、わたしは来たのだから」

 想馬さんは、草里の方を見ていないが、任務だから仕方なく来てやったと、言いたげに思えるのは考えすぎかな。草里は草里で目を閉じ腕組みしたまま、無言でいる。空気が悪いな。わたしはそういうのを緩和するのが役目とも思っていないけど、想馬さんに、

「ね、まさか、わたしと同じような能力? ここへ来るときはできなかったの?」

 聞いてみる。わたしと同じような力なのなら、興味もある。

「行った場所じゃないと、無理だからね」

「つまり、テレポートのようなものなのか」

 草里がぽつっと言う。

「まあ、細かく言えばもっと色々な制約があるけどね。実際にはそんな便利なものではない。行き先が、受け入れる意志を持っていないと成功しないし」

「不便ね」

 草里はさらりと言う。

 想馬さんは気に留めるでもなく、床に何かの粉のようなものを撒いて、魔法陣らしいいかにもな模様を描き始めている。確かに、それっぽい。

 階段の上で、声。

「学連のやつら、入ってきます!」

 香鳥さんの声だ。

「仕方ない……蹴散らしてからにするか?」

 草里が、模様の外に出ようとする。

「ちょっと待って。もう少し、動かないで。今失敗すると、もう一度かけ直さないといけない」

「ちっ。面倒いなあ」

 草里が苛々と言う。

「……すっごくデリケートな作業なんだけど」

 想馬さんの機嫌もまた悪い。

 階段の上から、香鳥さんと蟻江さんが来る。最後まで相手を見張っていた。

「草里さん? 敵が……」

「ま、待ってストップ。今、大事なとこらしいの」

 出ようとする草里、草里のもとへ駆け寄る香鳥さんらを制止して、わたしは説明しようとする。

「だけど、もうそこまで」

「そ、想馬さん。まだ……かな?」

 想馬さんは頬が汗を伝い、集中しているのがわかる。

「いいよいいよ、やり直し! もう一戦交えて、しばらくあいつらが出てこれないよーにしてからっ」

 草里がピエロ斬りを抜く。と、

「草里さん、待って。来ないで!」

「わたしたちが学連を止めます。その間に他の子らと行ってください」

 香鳥さん、蟻江さんが言う。

「そ、そんなっ」

 わたしが止めようとする先にも、蟻江さんはピエロ斬りを持って階段を駆け上がっていった。もうすぐそこまで、学連の相手が来ているのだ。

 香鳥さんは、草里に最後に目で別れを告げた。草里は、頷く。

 わたしには、何と言っていいかわからない。

「し、死にはしないで」

 そんなふうにしか、言葉は出なかった。

「別に……そんなつもりはないけど」

 香鳥さんもピエロ斬りを手に、階段を上がっていった。

 しばらくして、魔法陣が光りだす。敵が下りてくることもなかったが、二人は戻ってこなかった。

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