4-5.草里と想馬
夢を抜けるのも、静かなままだった。抜けると少し、ほこりっぽい。
どうやら、館の中? 草里たちは……。
しかし、どういうことだろう。
見れば、館はまるで時間が一日二日どころでない、年単位で経過したように廃虚めいている。
薄汚く、ぼろく痛んで……天上のあちこちが蜘蛛の巣で覆われている。
「こ、これは一体どういうこと? こんなことって……想馬さん、時間は?」
「いや……出発してからは、一時間程度しか経過していない」
想馬さんはきっぱりと言った。
「えっ。じゃあ?」
走っていくと、階段を見つけ、息を切らして駆け上がる。
どうやらさっき出た場所は地下倉庫のような場所だったらしい。階を上がると見慣れたとこに出て、そこに女生徒たちがいた。
「はぁ、はぁ、草里?」
皆がこちらを見ている。
数が、減った……? 一日分、経過しているわけだが。
何人かは、投降してしまった? それとも……。
女生徒らは些か、一様にうなだれている様子だが、疲れているだけ、とも見える。そのなかに、草里もいる。
草里がつかつかと、わたしのところへ来る。
「昨夜、学連側の襲撃があった。夜陰に紛れて」
まあ、予想はできたことだ。
「そこで何人か死んだ。郡も死んだ」
ちょおっ……待ってよう。
「入口を守っていたんだが、真っ先に銃撃で死んだ」
草里は淡々と話している。
わたしは一気に顔が青ざめるのを感じる。
「ちょ、ちょっと待って、草里……うっ」
涙が、流れそうになった。わたしは、息を整える。草里は少しだけ間を置いて、続ける。
「それから、人質も有効手段でなくなってしまった」
有効手段でなくなった、って……入間も、死んだ?
「相手が約束を破って攻め入ったのでわたしが殺した、ってことになってる。が、刺客が殺していったんだ。学連の連中には、どうでもよかったんだろ、入間のパパを除いてな。人質が乱戦で死んでしまったとなれば、向こうも気兼ねなく攻められるし。ま、パパさんはもう絶対にわたしを許さないと怒り絶頂のようだが」
草里は冷静だ。いつも、そうだ。
「それからは三度襲撃があったが、防いだよ。こっちも相手の攻め方がわかってきたし、全員戦い慣れてきた」
女生徒らは澱みきってはいるものの、誰も意を決した戦士の目をしている。
「だがもうほんと、限界は来ていたところだ。三日防ぐと言ったが、今日いっぱいが限度だったな。死者も増えたかもしれないし。で、」
草里は、わたしの後ろに来ていた想馬さんのことを見る。
「ソラミミ。この人が、組織の?」
ふと、草里の瞳がきつくなる。
振り返ると、想馬さんは草里のことを睨みつける眼差しで見ている。
「草里楓。あなたは、人を失いすぎだわ。あなた一人がくればよかった……確かにうちの人たちはあなたを買っているけれども」
想馬さんは、小さな声で、しかし責めるような強い語調で言い放つ。
「学園や学連まで敵に回す必要はなかったことを知るべきよ。わたしたちのところへ来たら、もっと慎重に行動することを学ぶべきね」
えっ。えーっと……草里を睨みつける想馬さんと、草里とを交互に見る。草里も、今までにないような敵愾心剥き出しの表情で、想馬さんと向かい合っている。
周りの女生徒らには、何が起こっているのかはよくわかっていないらしい。想馬さんは草里だけ言い聞かせるよう言ったのだろう。女生徒らは、別のことで騒がしくなり始めていた。一人が、草里のもとへ駆けてくる。
「草里さん! 学連のやつらの方でまた、動きがあります! 来ますよ!」
外で見張っていた一人が、駆け込んでくる。
「少し、急ぐわ」
想馬さんは、視線を草里から外し、するりと背中を向けた。
「皆、すぐについてきて。今からわたしたちの組織に案内する。草里楓も。早く」
想馬さんはそう言うと、また地下へと下りていく。
草里は意外にも、素直にすぐその後に続いた。
一人二人とそれに続き、わたしも地下へ。
地下には、わたしの小象がそのままいて、眠たげに座り込んでいる。
「えーっと、想馬さんわたしの小象を利用はしないよね。まあこんな全員乗っけていくなんて無理だけど……」
それより、小象も連れて行けるのかな?
「大丈夫。組織へは、わたしが責任を持って案内する。そういう任務を言い渡されて、わたしは来たのだから」
想馬さんは、草里の方を見ていないが、任務だから仕方なく来てやったと、言いたげに思えるのは考えすぎかな。草里は草里で目を閉じ腕組みしたまま、無言でいる。空気が悪いな。わたしはそういうのを緩和するのが役目とも思っていないけど、想馬さんに、
「ね、まさか、わたしと同じような能力? ここへ来るときはできなかったの?」
聞いてみる。わたしと同じような力なのなら、興味もある。
「行った場所じゃないと、無理だからね」
「つまり、テレポートのようなものなのか」
草里がぽつっと言う。
「まあ、細かく言えばもっと色々な制約があるけどね。実際にはそんな便利なものではない。行き先が、受け入れる意志を持っていないと成功しないし」
「不便ね」
草里はさらりと言う。
想馬さんは気に留めるでもなく、床に何かの粉のようなものを撒いて、魔法陣らしいいかにもな模様を描き始めている。確かに、それっぽい。
階段の上で、声。
「学連のやつら、入ってきます!」
香鳥さんの声だ。
「仕方ない……蹴散らしてからにするか?」
草里が、模様の外に出ようとする。
「ちょっと待って。もう少し、動かないで。今失敗すると、もう一度かけ直さないといけない」
「ちっ。面倒いなあ」
草里が苛々と言う。
「……すっごくデリケートな作業なんだけど」
想馬さんの機嫌もまた悪い。
階段の上から、香鳥さんと蟻江さんが来る。最後まで相手を見張っていた。
「草里さん? 敵が……」
「ま、待ってストップ。今、大事なとこらしいの」
出ようとする草里、草里のもとへ駆け寄る香鳥さんらを制止して、わたしは説明しようとする。
「だけど、もうそこまで」
「そ、想馬さん。まだ……かな?」
想馬さんは頬が汗を伝い、集中しているのがわかる。
「いいよいいよ、やり直し! もう一戦交えて、しばらくあいつらが出てこれないよーにしてからっ」
草里がピエロ斬りを抜く。と、
「草里さん、待って。来ないで!」
「わたしたちが学連を止めます。その間に他の子らと行ってください」
香鳥さん、蟻江さんが言う。
「そ、そんなっ」
わたしが止めようとする先にも、蟻江さんはピエロ斬りを持って階段を駆け上がっていった。もうすぐそこまで、学連の相手が来ているのだ。
香鳥さんは、草里に最後に目で別れを告げた。草里は、頷く。
わたしには、何と言っていいかわからない。
「し、死にはしないで」
そんなふうにしか、言葉は出なかった。
「別に……そんなつもりはないけど」
香鳥さんもピエロ斬りを手に、階段を上がっていった。
しばらくして、魔法陣が光りだす。敵が下りてくることもなかったが、二人は戻ってこなかった。




