4-4.想馬灯
「はぁ、はぁ……」
あんなに息切れしていたのに今まで息、してなかったのかな。そう思えるほど、苦しく、いっぱい息を吸い込んだ。
すぐ辺りを見回すと、千切れ雲が流れている。峠に近い。小象は、草原に着地する。
誰だったんだろう。わたし以外に、あのパレードが見える人……いたんだ。草里は存在すらも否定した、パレード。
小象は、のそのそ歩き。もう、峠のお菓子屋さんが見えている。
「よっと! ちょっと、先に行くね。すぐ追いついて」
小象にぽんとタッチして、走る。小象がぱぽと吠える。安心感のある声。大丈夫だな。さっきの子も、近くにいるはずだ。
一応の警戒はしつつ、お菓子屋さんのドアを開ける。
「こんにちはー……はっ。あ……え、ええっ」
奥で倒れている人影は間違いなく、お菓子屋さんのおっさんだ。
「ちょっと」
予想外のことにきょきょろ見回し、一度後退りするが、ドアのすぐ向こうに小象がもう来てくれている。
そう遠くはないおっさんのとこへさっと身をかがめ移動し、
「うえっ」
吐きそうになる。死んでいる。顔の曲がり方が、変だ……明らかに変だ。うええっ。
誰かの気配を感じ、わたしはありもしないピエロ斬りを地面に探した。
「何してる」
「ううっ……あなたが?」
さきの夢の空に見た少女、だと思う。少しだけ違うように見えるけど、遠隔操作と言っていたし。夢の中では形も少し違って見える。
「この人はすでに亡くなっていた」
「そ、そう」
だいぶ前に、死んでいたのか。学連の刺客の仕業、か。
「案内して。急ごう。草里 楓……のことは、聞いている」
「わ、わかった」
この人、どこかの地下組織のメンバーなのね、きっと……それよりも、さっき助けてくれたときに思ったよりも、優しげじゃないな。わたしは少し、戸惑ってしまう。
お菓子屋のおっさんは、そのままにするしかなかった。小さく、手だけ合わせておく。
「そうだ、時間は」
外に出て、小象の向きを変えながら尋ねる。
「あ、それと、お名前は……? わたしは、空丘耳穂」
「想馬 灯」
「想馬、さん、ね……どうぞ小象にお乗りくださいな」
時間は、館を発って一日近く経過してしまっていた。こればかりは、仕方がない。草里たちは、今頃どうなっているだろう?
帰りの夢は、静かだった。
「想馬さんは、その、どこかの地下組織から派遣されて?」
「そうね。迎えに。先、あの場所に着いていたんだけど、あなたがピンチそうかなって察知してこの夢に寄った」
「お菓子屋のおっさん、あ……おじさん、は?」
「おそらく学連に事が知れて、殺されたんだろうね。わたしは一度も話したことはない。交渉関係は役目じゃないから。一足遅かったか……まあ、時間の問題だった」
「うん……」
「けど、すでに地下の連中には連絡はちゃんと来てて、どの組織が草里を迎えるか、で幾らか揉めてたらしいね」
「へえ」
何だか、感心した。
「草里ってやっぱり、すごいんだ……」
「草里楓は確かに、地下で最近けっこう話題になっていたけれど」
想馬さんは少し不機嫌そうに思えた。こういう感じの人、なのかな。
「ねえ、想馬さん……」
「何?」
「ありがとう。さっき」
「ああ」
「お礼、言い忘れてたから。助けてくれて、どうもありがとう」
想馬さんと一緒だからだろうか。夢は今とても穏やかで、何かが起こりそうなんて気配は微塵もない。
「そうだ。ねえもしかして、前にもここ……わたしの夢の空で、わたしに語りかけてきたことって、ある?」
えっ? と想馬さんはそれが何のことかはわからないようだった。
「あなたにコンタクトを取るのは、今回が初めてだけど」
違うのか。あの空耳……。
想馬さんに聞きたいことは色々あった。あの、パレードのこととか……でも込み入った話は、ゆっくり時間のあるときにしよう。




