4-1.学連の追手
女生徒ら全員が無事、館内に退避した。
時刻はもう夜半過ぎ。皆、疲れ切っている。
郡さんは草里にお疲れ様と軽く労い、館内戦を演じた者らが最も疲労も大きいだろうし、自分らは外で少し休めたのでまず草里たちから少し睡眠をとっては、と申し出た。
すでに、篭城戦は始まっている。いつ、次の敵が来るかもしれないのだ。とれるうちに睡眠をとっておかないと。勿論、交代で見張りを置いて。
「ありがとう。けど、わたしとソラミミは、時間を盗まれたおかげで昼間はすっ飛ばしている。まだ全然眠くはないよ。な」
確かに。あの夢を通ってごく短時間でここに着いた。あと、郡さんはさっきの館内戦――というのは存在しなくて意外とあっさり片がついたほぼ館外戦なんだけど――の内容についてはあまり、知らないしわたしも教えていない。
「うん……」
「ソラミミは、疲れてはいないの?」
郡さんは気遣ってくれる。
「大丈夫。パレード潰しで、いくらかは慣れてるし。それより、まだ戦い慣れしてなくて怪我しちゃった子たちを、先に」
「ああ。なら、そうしよう。館内にある備品でもう手当てはしている」
「見張りに立とうか」
「あ、ならわたしも」
「いや、それはいい。わたしと、他にまだいけそうなの二人くらいで立っておく」
そう言って郡さんは去っていった。
部屋に、わたしと草里の二人が残される。
絢爛豪華、というのだろうか。様々な装飾と模様で彩られた広い部屋。趣味がいいとは言い難い。入間の自室だろうか。小説や写真集の詰まった書架。水槽には熱帯魚が泳ぐ。蓄音機。机周りにはプライベートなものも見られ、落ち着かない。
「草里。部屋を替えない? ちょっ」
草里は花柄のベッドにどっさと寝転んだ。
「あ、もしかして、疲れが出た? 眠い? 大丈夫……」
「やあ、まったく大丈夫だが」
遠慮がないな。さっきまでの敵がこれまで使っていたかもしれないベッドというのに。
「下に、大きな食堂があったろう。一学年の生徒全部入れられそうな。皆が休み終えて揃ったら、そこに集めて会議を行おう」
そんな悠長でいいのかな。今すぐにも、行動を開始しないでいいのって思うけど。
わたしはそっと部屋を出ると、郡さんらのとこへ向かう。
「皆それなりに覚悟はできてるよ」
郡さんは言った。
「少なくとも、防備を固めてある。休めるうちに休むのがいい」
三時間程度の睡眠を交代でとり、朝になるともう、館は学連の追っ手に取り囲まれていた。
代表らしき人物が、拡声器で呼ばわる。
「館に立て篭もる、雲の間に学園の女生徒諸君。聞きなさい。
草里楓は、罪人である。我々学連の今回の任務は、この罪人を捕えその罪を暴き正しく裁くこと。
いいか! よく聞くのだ。罪人は草里 楓のみである。他の者には一切の罪はなし。速やかに、投降しなさい。館に留まれば、罪人・草里楓を匿った罪に問われる可能性がある。草里楓は我々が責任を以て捕える。余計なことはせずともよい。他の者はできる限り速やかに、投降のみしなさい!」
罪人は、草里楓だけ。
草里はやはり一つの苦々しい表情も見せずに、動揺もない。動揺するのは、周囲の女生徒らだ。
草里についてきた。結果、昨夜までに六人が死んだ。それは事実だった。無論この世界に住まうわたしたちにとって死との距離は近い。それでも、わたしたちが死の覚悟をもって、実際に犠牲を伴って行ったこの行為。
草里楓には、この包囲網を突破してひとり生き延びるだけの力はあるだろう。
皆、草里を信じ、慕い、ついてきた。草里にしっかりした計画がなかったのなら、皆は失望し、無駄死にになった級友らの無念を代わって恨むだろうか。草里は彼女らを連れてくる必要はあったのだろうか。自分が生き延びるための手駒、あるいは地下組織に売り込むための兵の数増しでしかないと、草里が思っているってことはあるだろうか。
パレード潰しをもっと早くに成功させていれば、地下組織の方から接触があったのかもしれなかったろうか。
「雲の間に学園の女生徒諸君!」
また、学連の呼びかけが再開される。
「猶予は与える! 正午までに館から出てきた者は、無実としよう」
「やれやれ、仕方ないな」
郡さんが草里に代わって、喝を入れるように指示を回す。
「あれを出そう。蟻江、香鳥」
「はい!」「これですねっ」
郡さんは、引っ張り出されてきた入間 薫を引きずって、窓を開けた。ギュウギュウに縛られ真っ赤な顔できいきい言ってる。今こうして見ると少し不憫かも……。
「見ろ。こっちには人質がいる!」
入間の姿を見ると、学連側はにわかにざわつき、協議を始めたようだった。
程なく、拡声器でさきとは別の男が呼ばわる。
「オ、オイ! 今すぐ愛しの我が娘を放せっ。許さんぞっ。きーっ!」
それを聞いて入間がパパーっと叫ぶ。入間の父、か。
「やはり学連ときっちり、つながりがあったわけだ」
郡さんが目を細め、入間を見据える。
「きいっ。放しなさい!」
郡さんは無視して、
「けど当然、いつまで時間を稼げるかは、わからない。草里」
どうする? と問う目で、草里を見る。
「草里さん」「草里さん……」
香鳥さん、蟻江さんもひっしと草里を見る。他の皆も、草里を見る。彼女らの目からは、草里にすがる思いが感じてとれる。彼女らはまだ、草里を信じているのだ。草里……わたしも、草里を。だけど。
草里は、皆の見守るなか、無言のまま、入間の元自室へと引き下がっていった。
自由にしろ。という意味か。打つ手はないの。
さすがの草里も、さっきの学連の演説や今の状況が、堪えているのかしら。草里が、こんなつらい状況なんて今まであったかな。このままでは皆、心が離れてしまう?
「好きにするさ」
と、郡さん。
「ま、今少し時間はある。最後の食事もできるだろう」
草里が姿を消すと幾らかその場の呪縛が解けたように、めいめいがふらふら、動き出す。窓の外を心配そうに見つめる子。椅子に座ってため息つく子、ただしゃがみこむ子。一方で本当に、食事、何にしましょう。最後の食事だし、そうね……とか言ってる子も、いる。
放っておけ、と、草里の後を追おうとするわたしに郡さんは言いかけたが、
「いや。今の草里を慰められるのは、ソラミミしかいないかな」
とわたしの背を押してくれた。
それから、「いーな」「羨ましいわ。ま、ここは素直に譲るけど」と、他の女生徒らの声が聞こえた。




