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ソラミミ  作者: k_i
第3章
15/46

3-5.入間の別荘地にて

入間(いるま)の館には、隙がないということだった。だが、それは(こおり)の思うにはであって、全く隙がないということは、ない」

 館を前に、草里が述べる。

 館の敷地までは、簡単に入れた。庭にいたという入間のペットの獣はすでに倒されている。

「ただ、おそらく、わたしらを歓迎する準備は万端、といったところだろう。罠とか罠とか。

 だが、絶対に入間を倒し、ここをわたしたち用に確保しない限りさらに危険にさらされる、ということで、何としても入間を倒す。入間はできれば、生け捕りにしよう。もし不可能そうな場合は、致し方ないが、死んでもらうことになってもいい。行くぞ」

 草里、ここへ来てなんだがちょっと自暴自棄になっていないかな。眠そうだし、テンションが変だよ。 

 草里は、ピエロ斬りで窓をがっ、がっ、と叩いている。

「ぶ厚い硝子だな。ピエロ斬りではなるほど斬れない」

 わたしは、壁をとんとん、と叩いてみる。とうぜん、壁の方はもっと固そうだ。

「草里さん。わたしと蟻江(ありえ)で、館の周りを回り、開いている窓がないか調べてきます」

 香鳥(かとり)さんがそう提案するが、

「いや、確実に開いていないだろう。そんなことは、万全のはずだ。それに時間もかかる」

「そ、そうですか。じゃあ、どうしましょう」

「無理矢理押し入る方向で」

 

 草里は、わたしの方を見ている。香鳥さん、そして蟻江さんもわたしの方を見る。三人が見ているのは、わたしの後ろにいる小象だ。

「そいつの力を借りて何とかしよう。入間にとってもこれは、予想できなかった異分子のはずだよ」

 草里は出番だよ、というふうに小象をぽんぽんする。

「ほらソラミミ。あんたがやらなきゃ誰がやる」

 草里がわたしの手を強引にとって、小象に引っ付ける。ちょ、何をどうしろって。

「空丘さん!」「お願いっ」

 蟻江さんも香鳥さんも、草里のノリに従った。

「わ、わあったよ、もう、……強引な方向で行けばいいのね、なら」

 わたしは館の大きな窓の一つを指して、

「行きましょう!」

 小象をポン、っと叩く。ままよ!

 ぱぽー!

「おおっ」「うっ」「動いた!」

 草里たちが三人姉妹のように順々に発した。

 小象はずんっ、と前進してみせる。

 がしゃーん

 いった。要は普通に、窓硝子が割れた。

 小象も大きくなったもの。普通に考えたら、この小象の大きさから言えばちょっとやそっとぶ厚い窓硝子なんて、一蹴りで割れそうだ。

 上階の窓ががらりと開き、またあの甲高い声で呼ばわる者。

「お、おのれ何をしたっ、こ、この野蛮な小娘っ。窓硝子を割るなんて、そんなやり方なくってよ?」

 怒りのあまり、イントネーションが変になってる入間(いるま) (かおる)が、叫ぶ。

「だ、黙りなさい! 入間薫っ」

 わたしも、ここまで来たら負けてられない。やる以上やるとこまで、やるのみだ!

「なな、なんですって! あなた、後輩の分際でこのわたくしを呼び捨てにしてっ。きい! 許しませんわよ! 言い直しなさいっ、入間先輩、と!」

「ううう、うるさいっ黙れ黙れ黙れっ、このう、タコ入間っ。あんたのやり方は、卑怯なんだよっ」

 もう、恥も外聞もかなぐり捨ててやる。

「タ…………」

「はっ、はあ?! 何、時が止まってるんだよっ、おいコラッ、タコ! タコ入間っ!!」

「タ、タ、…………タコですって? い、意味不明なんですけどっ。わたくし、生まれてこの方、タコなんて呼ばれたことは、ありませんことよ? 説明していただくわ、何が、どこがタコなのっあんたこそタコでしょう?」

 真っ赤な顔した入間が、半ば窓からのけぞるようにわたしを睨みつけている。負けるものですか。負けるものですか。わたしも、憎悪の炎で自らを照らす。

「わたしはっ、タコじゃ、ないっ! いいかっ、おまえがタコだっ、タコ入間っ!」

「き、きいいっ」

「おい……」「草里さん」「うん……」

 入間がきいい、きいいと言ってるときわたしの傍らで、草里たちの囁く声。あ、あれ。そっか草里たちまだここにいたのか。わたしったら完全に我を忘れて……ちょっと、恥ずかしく……。瞬間。

 草里たちが、ひゅん、っと舞い上がる。踏ん張る香鳥さんを踏み台に、草里、蟻江さんが飛んだ。

 えっ。

 空中で、蟻江さんが草里をもう一段高く飛ばす。この跳躍で、草里は容易く上階に達した。

 上階では、窓を開け放った入間が、

「タコッ」

 と言い放った瞬間だった。

 がっ。

 入間の頭を、草里ががっしり掴んだ。入間は、窓からずり落ちそうになる。草里は一方の手で窓枠を掴んでおり、入間を引っ張って部屋のなかへドスン、と落ちた。

「草里さん!」

「だ、大丈夫……?」

 下からそれを見ていた香鳥さん、草里を飛ばして下りてきた蟻江さんが叫ぶ。

 上階の窓から、バシュン、というピエロ斬りを振るう音がする。

 き、斬ったの。草里……。

 いや。窓から再び顔を出したのは、入間だ。

 高く結い上げていた入間の髪がばっさり斬られてざんばらになっててひどい。

 苦悶の表情の入間、後ろから入間をしっかり掴まえた、草里が顔を出した。まあ、生身の一対一になって、草里が入間に負けるはずはなかったわけだ。

「うう! おのれ!」

「よし。勝負は着いた」

 あっさり。

「ま、待ちなさいよ! あなたたち、せっかく館のなかに、数々のワナ……ワ、ワクワクするようなアトラクションとか、毒の……美味しいディナーとか、たくさん用意してあげていたのに! あんまりじゃない。今からでも遅くないわ。ちゃんと一階から入って、順々に、わたしの部屋まで進んできなさい!」

「よーし。今から入間先輩を、そっちに落とす。先輩を先頭にして、ラスボスの草里のとこまで順々に進んでくるってことで、FA?」

「草里さーん!」「オッケーですぅ!」

 FA! とか言って、蟻江さんと香鳥さんは悪ノリにノッテいる。もう、根っからの草里信奉者だな。きいい、きいいと叫ぶ入間。

「ソラミミは? ノリが悪いよ」

「FAの意味が、わかんない……それにちょっとさっきの自分の発言内容を、内省してるところです」

 

 

 入間に一つ一つ、一つ残らず、えげつない数々の罠を解除させていった。

 それで随分手間取ってしまった。

 入間はその後晴れて、わたしたちの人質になった。

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