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ソラミミ  作者: k_i
第3章
12/46

3-2.わたしたちこれから どうするの?

 峠のお菓子屋さん。学園を去った草里(そうり)は、そこがアジトであるかのように、従えた生徒らと屯った。

 だけどこんな一時しのぎじゃどうにもならない。草里に打つ手はあるのか。

 学園だって、赤居(あかい)にあんな仕打ちをしておいて、生徒を勝手に連れ出して、何か手を打ってくるだろう。

 生徒たちも、付いてはきたけどどうしたものか覚束ないといった表情の者もいる。だが草里に共鳴した多くは斬り専の手練れの子らで、これまで学園に持っていた不満や、自分の腕を試したくてウズウズしていたことを言い合っている。草里はそれを聞きながら、とりあえず落ち着こうよと、自分は餡蜜を注文して食べているところ。そんな草里に、今まで近づきがたかったけど、草里さんのことを慕っていたんです。とか、一緒に来れて嬉しい、だの伝えている生徒もいる。ふぅん……草里ってそんな慕われてたんだ。わたしはしばらくその収まりが着くまで、と隅っこで棒アイスをかじっていた。

 

 わたしたち手わざ系の子らと違い、戦系の子は学園に入る十二の年からの三年間で相当厳しい指導を受け、離脱者も多いのだと。中には、使い物にならなくなる、という子もいると聞いた。そういう子らは皆、山の下へ戻される。卒業しても、食いっぱぐれたり、使い捨てのように働かされることがほとんどなのだと。まぁ、わたしにしたって将来の保障がないことには変わりないんだけど……。学園に不満を抱いている子は多いわけだ。

 ともあれ今は、気が気でならない。学園には恐い先生もいる。体育の噴田(ふきだ)とか。まあ、草里なら簡単に追い返せそうだけど。

 と、そのときガラリとお菓子屋の戸が開く。

 身構える生徒たち。

 

 入ってきたのは、同じ学園の女生徒ら数人だ。どういうこと? まだ学校は終わっていないし、と言っても今頃あっちは大騒ぎなのかもしれないが。

「草里。あなた……」

 (こおり)さんだ。どうやら隣のクラスや別クラスの生徒たちらしい。

「追っ手の役でも仕った? 郡」

 草里は餡蜜を食べながら、余裕の表情だけど、クラスの生徒らは追っ手という言葉を聞いてか、戸口側の生徒らに睨みを効かせ身構えている。

「いや……ここに来たのは、同じくあなたに共感する者たちだ。ホームルームでの話が今、学園中に広まっている。わたしたちは学園を抜けてきた」

 そう言って、五人、六人、と生徒らが入ってくる。緊張が解ける。

「なんだ。それは手間が省けたね。もうひと演説しに行こうと思っていたのに。でもちょうどよかった。わたし本当はああいうの得意じゃないから」

「何を言っている。すぐ、学園から本当の追っ手が来るぞ」

「追っ手って。体育の教官を二、三人斬れば終わりでしょう? 抜けてくるときについでにやっておいてくれればラクだったのに」

「当然、学連にも通告が行っている。やつらの足は、速い」

「学連か」

 わたしには、わからなかった。そういう知識がてんで、ない。昼寝のせいだけではないのだろうけど。とにかく草里の表情も幾分険しくなったので、あまり悠長にはしていられないといったところだろう。生徒たちも、ざわつき始める。

 

「あの……草里、さん?」

 そんな中、一人のおっとりした女生徒が、郡と来たグループの方から歩み出る。

「わたし……一学年上から来たのは、わたしだけ、みたいですね。はじめまして。入間(いるま) (かおる)と申します」

 全然、緊張感がなかった。このおっとりした感じと、一学年上というので、一瞬瑠備姉妹のことを思い出した。草里は、で? といった表情。草里は草里でさっきの緊張はどこへやらなのだが。

「その……わたし、シヲリとは幼い頃からの親友だったの。わたし、ね……草里さんのことを全然知らなかったのだけど、シヲリが共鳴したくらいの人だから、……だからわたしも草里さんのことを知りたい、って、思って、ね……」

 シヲリさんは死んだ。思い出したくない無様な死に様で。幼馴染だってというこの人。そのことへの恨みはないのだろうか。草里を知りたい、か。

 でも今はそれどころではないはず。

 郡さんは、二、三人で戸口を見張っているから、早くとりあえずの行き先を決めてくれ、と言い出て行った。

 草里は餡蜜をすでに食べ終わっている。

「草里、さん……だから、どうかしら? よろしければ、わたしの別荘にいらっしゃらない? 少しだけ遠いけど、そこならたくさんお友達が来ても大丈夫な広さだし……たくさんいれば、楽しいかな、なんて……」

 主旨が少しずれているが、またとない申し出だった。

 草里はこれをありがたく受けさせていただく、と言った。

「三日程は滞在させてもらえる?」

 草里は問う。

「ええ、全然、みっかでもみつきでも、かまいませんことよ。長期休暇のときのため、お料理の食材や果物だってそれはたくさん用意して……」

「わかった。ありがとう。三日しのげれば十分だ。その間に、あてを探す。さあ皆、急いで準備して。行き先は、入間先輩の別荘地。楽しい旅行になりそうだよ」

 

 生徒らはにわかに忙しなく、食べ残しのパフェを平らげたり、おやつを買い込んでだりして、外へ出て行く。わたしはようやくここで、腕組みしてそれを待つ草里に話しかけた。

「草里」

「ソラミミ。ありがとう、来てくれて」

 えっ。真面目な顔で言われるので、面食らってしまった。

「その、あてって、あるの? 本当に」

「思ったより早く学園に知れた。画廊のやつらかな……あとで少し痛い目見せんと。ともあれ、本当はもっと点数を稼いでおきたかったのだが」

「な、何。点数? なんのこと?」

「パレード潰しのだよ。まだ、成功させてなかったろう」

「あ……」

 象。そうだ。小象は……

「もともと、学園は抜けるつもりだったんだ。パレード潰しの点数を稼いで、少しでも待遇のいい地下組織に接触するつもりだった。まあ、詳しくはあっちで話そう」

 ち、地下組織? って、それどころじゃないっ。

「あ、あ、草里。わたしっ、あとで追いつくから!」

「なんで」

「象!」

「なんなの。なんで、餡蜜食べて待っている間に、連れてこなかった。なにしてたの、あなた、今来たのでしょ」

「え……わたしずっと、その隅っこにいたけど」

「じゃなんで、話かけなかった! わたしはソラミミを待ってたのに」

 ちょっ。気づいてなかったの。気を遣って、話しかけなかったのに。

 外がざわめく。

 郡さんが入ってくる。

 

「草里……体育の三馬鹿だ。来たぞ。噴田(ふきだ)もいる」

「郡。あなた、生徒たちを連れて先に入間の別荘に向かってくれない?」

「……は? どういうこと」

「忘れ物だ」

 と言って草里はわたしを見る。ひどいよ。

「ちょっと逆の方向に戻る。だからついでに三馬鹿は斬っていくからさ!」

 行こう、ソラミミ。と、草里はピエロ斬りを手にひょいと駆け出す。呆れ顔の郡さんと、わたしもそれに続く。

 外では、三馬鹿と呼ばれた巨漢の体育教師三名が、女生徒らの行く手を阻んでいる。学園中で、一部存在する男性教師だ。希少価値があるが、女子に需要のあるような見栄えのやつは一人もいなかった。三馬鹿はその筆頭だ。

「きさまら~許さん。許さんぞお!」

「学園を舐めた真似をしやがって」

「草里! コムスメがっ。おれの赤居センセイに、よくもあんな破廉恥なコトをっ」

 怯む女生徒らを押しのけ、草里が笑いながら前に歩み出る。

「あはは。噴田、大好きな赤居センセのハダカ、見れてよかったじゃない」

「ば、ばかやろう。おれはひと足遅くて、ハダカは見れなかったんだっ。話を聞いただけで!」

「その赤居にいつだか、噴田は鼻息が荒くてキモイって言われてたぞ。さあ来い!」

 フンヌー! と突進してくる三馬鹿をあしらうようにするりとかわした瞬間に、三馬鹿はバラバラの肉片になって一つの血の池の中に沈んでしまった。

 お、おお。女生徒らから歓声があがる。

 さんざん毛嫌いしてきた体育教師らだったので、ここは草里の株が上がれど誰も彼らに同情の念をいだくものはなかった。戦系の子らは体育の度、セクハラまがいにしごかれたと言い合っていたものだ。

 一瞬の勝負を目の当たりに興奮し、草里さん! 草里さん! コールが起こり、はしゃぐ女生徒ら。

「わたしは少し、用事ができた。今から郡と入間先輩に従い、先に目的地へ向かってくれ。わたしもすぐ、後を追う」

 さきの草里さんコールのノリで、ブーイングが起こる。

「わたしも一緒に行きます!」

「なんで、空丘さんとなんですかー!」

 それを無視して、わたしの何よそれ感も無視して、草里はわたしの手をとって走り出す。きゃあー! という声が聴こえるけど、わたしも、無視だ。草里の手……あたたかい、大剣を振り回してさきの教師三人をあっさり斬った手。それでいて、どこかつめたい、手。

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