世界との向き合い方(1)
校舎を出ると、外で衛藤が待っていた。
声をかけるか迷ったが、通り過ぎるのも違和感がある。
「あずきん、待ち伏せ?」
俯いていた衛藤の顔が上がる。
「あっ、そうです、待ち伏せですっ」
「そっか、頑張れよ。じゃあな」
手をあげて前を通り過ぎると、必死に手首を掴まれる。
「いやいやいや、どうして帰るんですか。どう見ても『先輩を待っている後輩の佇まい』じゃないですかっ!」
「どう見ても痴漢を捕まえた女子高生になってる」
「美空さんを捕まえているんです」
「それは見れば分かる」
帰ろうとする俺を握力だけで引き留めている。
その光景は下校する生徒全員に見られていた。衛藤は気にする素振りもなく、絶対に逃がさないという気迫を感じる。外来種でも捕まえているのか。俺は純大分県民なのに。
「で、なんで俺は捕まっているの?」
「デートをしませんか?」
「あら可愛いお誘い、だっる」
「最後にものすごい本音が聞こえてきたのは聞こえなかったフリをしてあげます」
「でも、どうして急に?」
「え、どうしてって、私が美空さんとお出かけしたいだけですよ?」
いつものあざとい仕草はなく、表情は本気で疑問に思っているようだった。
普段と違う所作に言葉を詰まらせていると、衛藤は続けてくる。
「いいじゃないですか。美空さんもおそらく暇でしょうし」
「おそらくってなんだ、おそらくって。暇に決まってるだろうが」
「確定事項だったんだ……。でも良かったです、行きましょー」
「元気だなー」
俺が笑って了承すると、衛藤は嬉しそうに微笑む。
「あれ、今日は自転車じゃないんですね?」
「朝は雨だったからな。雨の日は基本的に歩き」
「そうなんですね。じゃあ今日は隣で並んでいけますねっ」
実際に俺の隣に並びながら、衛藤は誇らしげな笑みを浮かべていた。
昨日の想像が杞憂だったと思い示すように、映し出された彼女の微笑みは明るかった。
「そういえば、昼休みはどこにいたの?」
「お昼は連絡棟の一階で食べていましたよ」
「なんでまた?」
「私、完全にクラスで浮いているので」
自虐として笑みが添えられる。
「とうとうクラスで一人になっちゃいました。もうこのまま便所飯コースですね」
「惜しいな、男女のトイレが別じゃなかったら一緒に便所飯してやったのに」
「二人ならトイレで食べなくてもいいじゃないですかぁ」
「だから俺も衛藤のことを思って、同じタイミングでトイレに行ってやるよ」
「え、なんかキモい……」
てくてくと俺を置いて先に行くが、少ししてから拗ねたように戻ってくる。
「嘘です。キモくないです」
思ってもいない口調で発言が取り消される。
「わざわざ否定することか? いつもはそれくらい淡々と言ってくるのに」
「もう美空さんしか友達いないので、嫌われたら終わりなんですよぉ。なのでもっと私を大事にしてください!」
「自分で言うかね……。言われるとすげえ嫌」
「ええ、なんでですかぁ」
何気ない流れの中で、先輩と後輩という気楽な距離感が心地よいと感じられた。




