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火の発見は煙から

 食堂は多くの人で賑わっていた。

 本来なら中にあるテーブルで場所取りをしてから注文へ行くが、中へは入らずに外にある自販機に向かった。食堂の営業は昼休みに限定されているけど、食堂の外には常時運転している惣菜の自動販売機が設置されている。


「じゃあ俺はコロッケパン」


 何度も来ているので買う品はもう決まっている。


「え、もう決めたの。ええー、どうしよ」


 買い物を済ませると蒼が悩み出した。初めての利用だから助言をした方が良さそうだな。


「俺のオススメ聞きたい?」

「いらない。変なの勧めてきそうだし」

「俺のオススメはハムカツサンド。やっぱりハムカツサンドだよな、美味しいよな、ハムカツサンド。ほんとオススメ。絵馬ちゃんのイチオシっ」

「どうしてイチオシを買ってないの。私もコロッケパンにしよ……わっ」


 投入口に小銭を近づけるが、小銭は蒼の手からするりと落ちて転がっていく。

 今時、ドジっ子キャラは流行らないのに。

 無情な金銭は少し離れたところで女子生徒のスリッパに当たって止まった。

 蒼の代わりに近寄っていくと、スカートに気を遣いながら膝を曲げて小銭を拾い上げる。


「どうぞ」


 そして優しい声音で渡してくれる。とりあえずポケットに入れておこうかと思ったけど、蒼は「ありがとねー」と小銭を俺から強引に回収する。俺への信用がなさすぎる。別に取らねえよ。


「あはは、ごめんねぇ。助かったよー」

「いえ、全然大丈夫です。ちょっとした軽い運動になりましたから」


 小銭を拾った女子生徒は軽い言葉も添えている。

 低い声帯での柔らかいフォローに視線を向けると思わず「おっ」と声が出てしまった。


「変態の子だ」

「えっ」


 前を歩いていた新入生代表がそこにいた。ハンカチを拾ってくれた男子生徒にお礼もしない無情な子。


「……」


 その一年生は驚いたように目を丸くしていた。

 何か変なこと言ったっけな。と考えたが思い当たる節しかなかった。一年生を凝視していた上に『変態の子だ』と言ってくる男子なんて気持ち悪いに決まっている。よだれは……よし、今のところは大丈夫だな。


「えっと、ごめん。なにもないから気にしなくていいよ」

「……」

「あー、どうかした?」


 こっちから撤退の機会を与えたのに、後輩は固まっていた。口をぽかんと開けて俺を真っ直ぐに凝視している。その行動は体育館の時と同じで、少しの違和感として残る。


「い、いえ。その、……あの」


 目立たしいほどの動揺は時間の経過と共になくなっていく。

 自信に満ち溢れていそうな容姿とは裏腹にたどたどしい。

 やがて後輩は顔を地面に向けて小さく、「ごめんなさい。何もないです」と白旗を上げた。

 深々と頭を下げて、早々と足先を俺の反対方向に変える。


「なんだあれ」


 残された俺はそう漏らすしかなかった。

 狼狽えたと思えば、落ち着きを取り戻して走り去る。気が動転したようにも見えたが、最後の表情は何かに納得しているようにも見えた。


「逃げ出すほどのセクハラでもした?」


 パンを買い終えた蒼が怪訝な顔で聞いてくる。


「無意識にしちゃったのかも」

「うわぁ、ひくなぁ。でも、あの子……」

「知ってるの?」


 心当たりがあると、小さく頷く。


「うん。昨日、陸上部の仮入部にいた子だと思う。綺麗な子だから思い出したよ」

「ふーん、陸上部。てか、めちゃくちゃ顔が良いな」


 すれ違い際には、つい振り返ってしまうほどの端正な容姿をしている。それこそ蒼の言葉を借りるなら、上の上と言われても納得はできる。


「でもあの子、ちょっと変わってた」


 視線を向けると蒼は続ける。


「昨日は男子嫌いって感じがしたなぁ」

「男子嫌い?」

「男子に声をかけられても無視っていうか、話しかけてきた男子に視線も向けてなくて。でも、女子に声をかけられたときは愛想よく返していたんだよね」

「ふーん、だから男子嫌いか」

「うん。やっぱり、あれだけ可愛いと何か理由があるんだろうね」


 思えば、ついさっきも同じ状況を目にしている。

 落とし物を拾ってくれた男子生徒には見向きもしない状況。露骨すぎる気もするが、男子嫌いと考えれば行動に辻褄が合う。


「美人は美人で大変なんだな」


 あれだけ容姿が端麗だと、向けられる男子の視線も多いはずだ。となると意識してしまうのは同性である女子の視線。それを避けるための行動かもしれない。


「それにしても可愛い子だったね?」

「だなー」

「あれ、もしかして興味ない?」


 俺の呟きが無気力だったことに眉を寄せてくる。


「美空って可愛い子には興味持つのに、あの子は気にならないんだね?」

「何でもかんでも美人なら興味を持つわけじゃないんだよ」

「違うんだ?」

「本当に可愛い子や綺麗な子は見ているだけで充分なんだよ、バーカアホ」

「誤解どころか、さらにキモさとウザさが増した答えで返ってきたんだけど……。あ、でもそうかっ。美空って脚フェチだもんね!」

「そうそう。美人相手なら、蹴られたり、踏まれたり、他にもあんなことやこんなこともされたいですねぇ。えへへ、なんちゃってぇ」


 蒼は形のいい唇を静かにしならせて和気藹々と美しい微笑を浮かべる。


「どこまですると根を上げるのか気になるねっ。色々試してみたいかも!」

「あはははー、……え?」


 なんか怖いこと言われている……。

 ドジっ子より清楚系サイコパスなら流行りそうだな。


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