第3話 焼き兎ときどきアンデッド
夜闇に乗じて街から脱出したヴェルグレドとルクシアは、郊外の荒れ野で一息ついていた。ルクシアが枯れ枝を集めてきて、ヴェルグレドが魔法でそれに火をつける。
二人はパチパチと燃える焚火を眺め座り込んでいた。
「ぐぅ」
ヴェルグレドの腹が鳴る。ヴェルグレドはアンデッドになったルクシアのことが心底羨ましかったが、食事をとれないというのはそれはそれでつらいなと考えた。
いや?死んでからすぐ蘇生したし食べることくらいできるのか?
とりとめのない思考がヴェルグレドの脳内を巡る。
「なにか捕まえてきましょうか?」
ルクシアが気を利かせてくれる。
「じゃあ、頼もうかな」
ヴェルグレドはそれに甘えることにした。
≸
しばらくして、ルクシアが兎を一羽掴んで戻ってきた。ルクシアがそれを捌き、小分けにして枝に刺して炙ってくれる。
「……君はさっき、『強さに割り振る比重を大きくした』みたいなことを言っていたが、それはどういうことだい?」
ヴェルグレドはずっと引っかかっていたことを聞いてみた。
「え……、一つ聞くわ。あなた、魔族と人族の違いって何かわかってるの?」
ヴェルグレドが首を横に振ると、ルクシアは驚愕の表情を浮かべた。
「あなた、そんなことも知らずにどうやって生きてきたの⁉ 普通は教会とかで習うわよ⁉」
「我が家は無神論なんだ」
「はあぁぁぁあ!?」
まあ、無神論というより、教会に行かせてもらえなかっただけだが。
「じゃあ魔法の由来も知らずに使ってたってこと?!」
「えーっと確か、トールマーレアとかじゃなかったかな?」
「それは大地神よ!!」
ルクシアが兎の皮でバシバシと地面をたたいている。
「魔法は律衡神ファレンシアに由来すると言われてるわ。ていうかあなた無神論者なんじゃなかったの?」
「いや? そんなことを言った覚えはない」
「……はぁ、もう何でもいいわよ。で、魔族と人族の違いについてだったかしら?」
「別にそこまで興味があるわけではないが」
「はぁぁぁ…。魔族は、人族と違って魔力をエネルギー源にできるの! だから成長の過程でその魔力の配分を調整してある程度能力に幅を持たせられるの!」
「へー」
「…………っもう!」
どうやら兎の肉が焼けあがったようだ。ヴェルグレドは、肉がさしてある棒を手に取り、口に運んだ。
「あっふ」
思ったより熱くて、はふはふしながら咀嚼する。塩が欲しいな。
焼き兎肉を食べている途中、ルクシアがいきなり立ち上がった。
「ヴェル、周り、囲まれてるわよ」
「ふぇ? なにに?」
ヴェルグレドは口をもごもごさせながら立ち上がる。周りをよく見ると、赤い光が幾重にも重なってヴェルグレドたちを囲んでいるのが分かった。
ルクシアが火のついた薪を投げる。すると、ゾンビやスケルトンによるアンデッドの大群が照らされた。
「チッ。光に引き寄せられた? それにしては数が多すぎる。ここは古戦場かなにかなのかしら」
「ああ、道理で死が色濃いと思ったよ」
「それを早く言いなさいよ!」
ルクシアに頭を叩かれる。飲み込む途中だった兎肉でむせてしまった。
「この数だと、一点突破を狙ってこじ開けるしかないわね」
ルクシアが険しい表情でヴェルグレドの方を見る。
「ヴェル、走る準備はいい?」
「その必要はないよ」
ヴェルグレドは自信満々に兎肉のついた棒を振り回した。
「私を誰だと思っているんだい? 私は死霊術師だよ」
「え? ヴェルに自然発生のアンデッドを対処することなんてできるの?」
「できるとも。彼らは私と同じく死の寵愛を受けし者たちだからね」
そういってヴェルグレドはアンデッドたちと向き合い、その手に負のエネルギーを集めた。ヴェルグレドが操る負のエネルギーは直接は見えない。だが、その大きさはどんどん膨れ上がってゆき、ついにはアンデッドの大群ごと周囲を包み込むまで至った。それに伴い、周囲の草木が萎れて、空気が冷える。
誰の目にも見えないはずのそれが、ヴェルグレドには見えた。大地を覆い尽くすような黒いもやが、アンデッドたちを優しく包み込む。
「なにこれ………なんだか、すごく安心感がある。まるで、回復魔法のような」
ルクシアが驚いたようにヴェルグレドを見た。
「これ、ヴェルがやってるの? こんなの、聞いたことない」
ヴェルグレドは、それを無視し、ルクシアを除いたすべてのアンデッドと、ヴェルグレドが集めた負のエネルギーを馴染ませ、同化させることに注力した。
やはり、意思なき者たちはすぐ大きな死に溶けてしまう。ヴェルグレドは、すべてのアンデッドのエネルギーの吸収に成功した。骨や、死体などのアンデッドだった者たちは動く力を失いその場に転がる。
ヴェルグレドは、ついでに集めた負のエネルギーを全てルクシアにぶち込んでおいた。やり場のない負のエネルギーを放置したらまた同じことが起きるだけだ。
「えっ? なんだか、私急に強くなった気がするんだけど」
ルクシアが混乱しているのを尻目に、ヴェルグレドは食事を再開した。




