第2話 謁見しに行こう!
ヴェルグレドは前を歩く、青に近い黒髪と吸い込まれるような翡翠の瞳孔を持ち、角が生えた魔族の女性――ルクシアに内心恐る恐る話しかけた。
「この先どうするつもりなんだい?あまりに無策が過ぎると思うんだが」
ルクシアは部屋のドアを蹴飛ばしながら答えた。
「さぁ? まあとりあえずここから離れるのが先決じゃないかしら?」
「そ、そうかい」
ヴェルグレドは扉が吹っ飛んだ音にビクッとなりながらあたりを見渡した。
監獄の外は石造りの通路で、すぐそこに上へと上がる階段があった。
「おい! 囚人が逃げ出してるぞ!」
後ろから兵士の声がする。
「え」
ヴェルグレドが振り返ると、兵士は逃げ出していった。
「チッ、助けを呼ばれるわね。急ぐわよ」
そう言ってルクシアが階段を駆け上がっていく。ヴェルグレドは慌ててそれに続いた。
どうやらヴェルグレドたちが捕らえられていた場所は城だったらしく、階段を上った先の広い廊下には、ふかふかの絨毯に、広い窓、豪華なシャンデリアがあった。
そして、案の定、兵士たちに待ち構えられてた。ヴェルグレドたちの先には、槍やら剣やらを持った重装備の兵士たちがずらりと並んでいた。後ろの階段からもドタドタと音が聞こえる。八方塞がりである。
「はぁ、ヴェルはどうするの?」
ルクシアがこちらを見て聞いてくる。
ヴェルグレドは両手を挙げ主張する。
「私は降伏を提案する!」
「却下」
「魔族だ! 魔術師を呼べ!」
兵士が包囲をより強化する。
「あなた死霊術師でしょ。何か出しなさいよ」
「無から有を生み出すことはできない」
「はぁ、分かってたわよ。仕方ない。暴力的かつ迅速な問題解決を目指しましょう」
そう言ってルクシアが一歩前に出ると、相手方の魔術師たちが出てくる。
『魔力よ、彼の者の源を絶ち、邪悪なるものを根絶せんとす』
ヴェルグレドには聞いたこともない詠唱だった。だが、その魔法がルクシアになんらかの影響を及ぼそうとしていることはなんとなく分かった。
だが、ルクシアは平然としている。
「なぜだ!? なぜ効かない!」
なるほど、ルクシアほどの強さを持つ魔族がなぜ捕らえられていたのか疑問だったが、魔族特効の魔法を生み出していたのか。そして、今はアンデッドである彼女に、その魔法は効かない。
ヴェルグレドが一人で考察している間に、ルクシアは兵士たちを吹き飛ばしていく。鈍い音が何度もあたりに響き、そのたびに叫び声が響き渡った。ヴェルグレド隅っこの方で頭を抱えながらそれを聞いていた。
気づいたらその場で立っているのはルクシアとヴェルグレドのみになっていた。
ヴェルグレドはもう驚きを通り越して呆れていた。
「……殺してはいないだろうね」
「まあ、一応は生きてるわ」
「そうかい」
「ほら、さっさと逃げるわよ」
ルクシアがヴェルグレドの首筋を掴んで窓を割り飛び出した。
ヴェルグレドは、そろそろ服を着たいなぁと思っていた。
≸
ヴェルグレドとルクシアは町の路地裏で身を潜めていた。ヴェルグレドは、その辺で見つけた古着を身に着けていた。
「魔族ってみんな君みたいに強いのかい?」
「いいえ? 私は強さに割り振る比重を少し大きくしただけよ。でももっと強い人もいる」
魔族怖いなぁ。ヴェルグレドは内心そんなことを思いつつルクシアに聞いた。
「で、これから君はどうするんだい?」
「……? 基本的にあなたについていくつもりだけど」
「……? なぜだい?」
「え、私はあなたの魔法の効力が切れたら死んじゃうじゃない」
「確かに!」
ルクシアが呆れたようにヴェルグレドを見る。
「いや、だが私の死霊術は通常の魔法とは少し違ってだな……」
「あーはいはい、いいから。私がどこ行くか決めてもいい?」
「うーむ。まあ別に構わない」
少し迷ったが別にやりたいこともない。このあたりでは問答無用で捕まってしまうし、ルクシアについていった方が安全だろう。
「じゃあ、魔族領に向かいましょう。魔王様に謁見するのよ」
「まままままま魔王だって⁉ 人類の敵じゃないか! とんでもない」
ルクシアが再び呆れたようにヴェルグレドをみて、ため息を吐いた。
「あなた今更何言ってるの? 死霊術師のくせに」
「いやだからと言って――」
「魔王様ならきっとあなたを歓迎してくれるわよ」
ヴェルグレドがそれでも、それでもと渋ってると、ルクシアが痺れを切らして言った。
「もう! ヴェルは人間の領域じゃまともに生きていけないでしょう!」
「……確かに」
「ほら、行くわよ」
ルクシアはヴェルグレドを引っ張って歩き始めた。




