裁きの場
文章の誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
気を付けているのですが、どうも見落としが多いようで。
とても助かっております。
本日は、久しぶりのカメリア視点です。
どうぞお楽しみください。
自分にとても都合が良い夢を見た翌日、私の身体は軽かった。とはいえ、まだ倦怠感は全然残っているし、そもそも食事もほぼ取れていなかったので、力は出ないけど。
まあでも、とりあえず、熱は下がったようだ。
朝食は、いつもとお同じカビがはえたパンと、味のない具なしスープ。
小さな窓から空をぼーっと眺めていると、牢番がカチャリと鍵を開け、
「カメリア様、まずは、こちらをお飲みください。全部飲みましたら、ここから出て、私に付いてきてください。」
と言ってきた。
差し出された飲み物を、口に含む。
「うぐっ」
何これ、まずい。
しかも、どんどん、喉が熱くなっていく。
飲み終わった私を見届けた牢番は、私を牢から出し
牢の外へと追いたてる。
牢番が入り口で、そこにいた私兵と2、3言会話を話すと
今度は、私兵に「付いてこい。」と言われ、それに私は、黙って付いていく。
途中で見た窓の景色は、雪だった。
どおりで寒いわけだ。
無罪が証明され保釈されたのか、
はたまた、尋問に連れていかれるのか...。
結婚式の宴で使われた広間とはまた別の広間の扉が開けられ、中へ入るよう促される。
広間の一番奥には、夫でもあり領主であるエドワードが座っており、文官らしき人がその横側に、そして、ぐるっと広間を囲うように私兵が並んでいた。
「被告人、カメリア・ジェファー、真ん中の席へ!」
どうやら、解放されるわけでもなく、尋問されるでもなく、私の裁判が開かれるらしい。
白雪姫の話に、裁判の下りあったかしら?
あれは、子供向けの話だから、割愛したのかしらね。
などと考えていると、
「被告人、カメリア・ジェファー。義理の娘クリスティーナ・ジェファーを誘拐の上、殺害した罪を裁く為、これから“裁きの場”を開廷する!」
と文官の一人が手に持った紙を広げながら、宣言した。
「証人 マリー・ホープキン!前へ!」
「はい。」
「まず、あなたとカメリア・ジェファーとの関係を述べなさい。」
「私は、カメリア様の部屋付きの侍女で、お輿入れの時から、身の回りのお世話にしてきました。」
「普段の被告人の様子を教えなさい。」
「はい。
カメリア様は、普段はみんなに優しく笑顔を振りまいておりましたが、部屋に一歩入ると、傲慢でわがままになり、自分の思い通りにならないとヒステリックを起こし、物に当たるわ、時に私を叩いたりするわ、手に付けられない方でした。それはそれは、毎日怖ろしくて...。でも奥様ですので、口答えできず...。」
とぷるぷる震え、目に涙を浮かべたマリーが証言する。
ん?
誰よ、それ?
「そんなの私じゃないわよ!」と叫ぼうとしたら、声が出なかった。
なぜ...?
ひょっとして、牢から出る時に飲んだ、アレのせい?
そんな私のセリフなど無視するかのように、裁判は進んでいった。
こんな事になるんだったら、さっさとモリスに言って、別の侍女に変えてもらうんだった...。後悔先に立たず。とは良く言ったものだ。
「それでは、あなたが見たことを」
「はい。あの日...。あの日っていうのは、カメリア様が牢に入れられた日なんですけど。
何か入っている籠を持ってたカメリア様にお屋敷の廊下で会って。どこに行かれるのかお尋ねしたところ、小鳥の餌をやりに外へ行かれるとおっしゃって。
お供もつけずに変だなぁと思って、カメリア様の後をついて行ったんです。外って言ってたんで、お庭かと思ったんですけど、敷地を出て森へどんどん入っていたんで、増々おかしいと思って、気づかれない様に、さらに付いていったんです。
ついて行った先には小屋があって、小屋から誰かが出てきたと思ったら、行方知れずだったクリスお嬢様で。もうビックリしたのなんのって!これは何かあるなと思って、窓から中の様子を除いていたら、カメリア様がご持参された籠の中から、リンゴを取り出し、それを食べたクリスお嬢様がいきなり苦しみ出したんです!
それを見ていたカメリア様が何かを叫びだして、別の毒々しい色をしたクスリを飲ませてました。薬を飲んだクリスお嬢様は、そのまま動かなくなり、カメリア様が勢いよく小屋から出てきたので、私は怖かったけど、勇気を出してお屋敷まで急いで戻り、執事のロンバートさんに見てきたことを報告しました。」
いやいやいやいや、違うでしょう。
いや、客観的に見ると合っているか。
完全に私の行動、怪しいわ。
「マリー嬢、ありがとう。
それでは、次の証言者ドクターモーゼル お願いいたします。
まず、あなたのご職業を」
「はい。この領内で医者をしておりますモーゼルでございます。
今回は、証拠品として持ち込まれた品を、鑑定させていただきましたので、鑑定結果を、この場を持って、ご報告させていただきたく存じます。」
「その証拠品とは、拘束時に被告人が手にしていた薬品ですね。」
「はい。そう聞いております。
鑑定したところ、千夜草の根から採れるモノトトプシンという成分が検出されました。このモノトトプシンというのは、一口でも口にしたら、立ちどころに息が吸えなくなり、やがて死んでしまうという猛毒です。」
「他の成分は、検出されましたか?」
「いえ、このモノトトプシンのみでございます。」
待って!そんなはずは!
だって、あれは、何種類かの成分が検出されるはず。
まさか、どこかで入れ替わった?
「して、その千夜総草は、どこで手に入れられるのだ?」
「はい、このお屋敷の庭にございます薬草園のなかに。」
何これ、マリーの証言しかり、ドクターなんちゃらの証言しかり、
私、黒じゃない?
「ドクター、ありがとうございます。証言は以上になります。」
「それでは、判決を言い渡す!」
待って!これで、終わり?
反対尋問は?弁護人すらいないし。
そもそも私しゃべれない様にされているし。
何よこれ...。
裁判を行う意味ないじゃない。
まるで、刑の執行の正当性を持たせる為だけのものじゃない...。
ひょっとして、私詰んだ?
「被告人、カメリア・ジェファーは有罪とし、死のダンスの刑に処す!」
と大きな声が広間に宣言された。
結局お話の通りの結末になってしまったじゃない。
言い終わると同時に、石で焼かれて毒々しく赤くそまった鉄の靴が、横の扉から運びこまれてきた。
準備いいなー。
刑の執行、即日かよ。
とこれから起こる激痛への恐怖を考えないように、心の中で悪態をつく。
刑の執行官が私に向かって、一歩また一歩と歩いてくる。
好奇の目を私に向けつつ、息をひそめて刑の執行をまっている。
静まりかえった広間に聞こえるのは、鉄の靴とともに私に向かって歩いてくる刑の執行官の足音のみ。
カツ―――ン カツ―――ン カツ―――ン カツ―――ン
と突然
その静寂を破るかのように、バンッと扉を開ける大きな音と共に
「お父様、お待ちください!」
とスズランのようなかわいい、しかし、リンとした声が聞こえた。
その声がする方へ、裁きの場にいる全員が一斉に注目すると
そこには、クリスが、肩で息をしながら、立っていた。
あぁ、クリス。良かった。
解毒剤、間に合ったのね...。
張りに張りまくっていた緊張が緩んだせいか、私は徐々に視界が狭くなっていき、意識を手放す...。
その直前、いつもヘラっと笑った顔ではなく、焦った顔をしたロビンが、こちらに向かって走ってきた気がしたが、私の意識はそのまま深く落ちていった。「もう、せっかくの美男子の顔が台無しじゃない」と思いつつ。




