閑話 マリーという少女
今日は、マリーの視点です。
私が物心ついた時には、母と二人で、既に父親はいなかった。
死んでしまったのか、出ていったのか分からないけど、一度父の話を聞いた時、いつも優しかった母が手が付けられない位取り乱していたので、それ以降、我が家ではタブーとなり、何も聞けなくなってしまった。だから、父の事は、私は何も知らない。
母は、ジェファー家のお屋敷でずっと住み込みで働いていたので、私は、あの屋敷で育ったようなものだった。ロビン坊ちゃまに遊んでもらったこともある。今思えば、彼は私の初恋の人だったのだろう。
何歳だったか、はっきり覚えていないけれど、ある日、坊ちゃまのご両親である領主様夫婦が賊に襲われたとかで、お亡くなりになった。その時のロビン様の気の落ちようったらなかった。いつも優しく明るい方だったのに、ぼーっとしていて、まるでお人形のようだった。とても仲の良い親子だったので、とても気の毒だった。
それから間もなく、ロビン様は母方のご親戚に引き取られていった。
しばらくすると、ご領主様の弟であるエドワード様が、次のご領主様になった。
彼はこのお屋敷にいらした時は、いつも優しく声掛けしてくれたので、良く覚えていた。
私が10歳になったころ、エドワード様のお部屋に呼ばれるようになった。
最初の頃は、昼間に1、2時間エドワード様のお膝の上で、絵本を読んでもらったり、珍しいお菓子をごちそうになったり。年を重ねていくと、呼ばれる時間帯は遅くなり滞在時間も長くなっていった。その頃、エドワード様はいつも「みんなには、ヒミツだよ」って言って、私を部屋へ帰していた。
深夜に数時間部屋を開けていると、さすがに母に気づかれ、しぶしぶ答えると、母は一瞬にして、顔を青ざめプルプル震えていた。でも、「まるでお父さんと一緒に遊んでいるみたいで楽しいの、幸せよ!」と言ったら、それ以上母は何も言わなくなった。思えば、その頃から、母はだんだん精神的に不安定になって言った気がする。
それから、エドワード様と私の秘密の時間は続いていった。そんなある日、突然お腹が痛くなり、厠へ行くと血が出ていた。母に相談すると満面の笑みで「大人の仲間入りをしたので。おめでとう。みんなに言いふらさなくて良いけど、喜ばしい事だから、エドワード様には、ちゃんと伝えてなさい。」と言ってくれた。どうやら初潮だったらしい。
後にも先にも、母のあんな笑顔を、私は見たことがなかった。
エドワード様にお伝えしたら、ちょっとびっくりしていたけれど、優しいお顔で「おめでとう、良かったね。体つらいだろうから、今日はもう帰って休みなさい。」と言って頭を撫でてくれた。
それから、何度かお部屋に呼ばれたが、しばらくすると、ほとんど呼ばれなくなり、体が動けなくなってしまった母と共に、わずかばかりのお金を渡され、お屋敷を出された。
私は16になり、数か月前に母は亡くなっており、私一人でどうやって暮らしていこうと途方に暮れていた頃、「エドワード様が、新しい奥様を迎えられるらしい」と噂が町中に広まった。
そして、私はお屋敷に呼ばれた。
もうエドワード様との「秘密の遊び」の意味も理解していたので、「ひょっとして!」と淡い期待を胸にお屋敷に行ったら、あの女の侍女要員で呼ばれただけだった。
最初から、あの女は気に入らなかった。エドワード様の事を何も知らないくせに。顔だって、大した顔してないし、ただ金の力で結婚したくせに。だから、ちょっとずつ意地悪をしていった。あまり目立つようならバレてしまうので、少しずつ少しずつ、彼女が孤立していくように...。
初夜の日も、事前に睡眠薬をドクターから入手していた睡眠薬を、ワインに入れて彼女に渡した。ドクターはエドワード様と私の関係を知っていたから、「眠れない」と言ったら、すぐに睡眠薬を処方してくれた。
ロンバートさんからスケジュール調整の回答を持ってきた時も、ちょうどあの女はいなかったので、「自分で屋敷内を見回るから、案内はいらない。」と言っていたと嘘をついた。
あの女の部屋に飾ってあった花瓶を、うっかり割ってしまった時も、モリスさんには、あの女が癇癪を起してわざと壊したと報告し、わざと作った傷に対して、同僚が「奥様にやられたのか?」と尋ねた時は、否定せず曖昧に答えてみた。
なのに、あの女へこたれずに、毎日過ごしている。
挙句にロビン様に馴れ馴れしくして!
「あの事件」からしばらくお屋敷を離れていたロビン様は、この数年、たまにお屋敷に戻ってきているようだったが、逆に私が、お屋敷を離れていたので、お会いすることはなかった。
久しぶりにお会いしたロビン様は、あの頃の面影を残しつつも、お話に出てくる騎士様のようにとても素敵な男性に成長されていた。
もうあの頃の私のような綺麗な私ではないけれど、こちらに気づき話しかけてきてくれた。覚えていてくれて、うれしい!あの頃の綺麗な私に、少しは戻れた気がして、本当にうれしい。
なのにあの女、ロビン様におすすめの本を無理やり聞いたり、一緒に馬で出かけしたり...。許せない!
許せないと言えば、クリスティーナ様はもっと許せなかった。だって、エドワード様のクリスティーナ様を見る目。まるで、昔、エドワード様が私を見る目と同じなんですもの。
むしろ、「それ以上」とも思えたわ。
だから、計画したの。二人とも消す計画を。
そしたら、私が幸せになれるでしょ?
準備を進めているうちに、ある日突然、クリスティーナ様が失踪されてしまった。
計画を検討していたら、あの女が、おかしな行動をし始めたので、後をつけていったら、森の中の小屋にクリスティーナ様がいらっしゃるではないか!
見つけた‼
私は、その時とても良い顔をしていたと思う。
あの女は、屋敷の人間が少なくなった日に出かけるのがわかっていたから、その日に合わせて毒リンゴを用意した。そして、あの女が出かける時に声をかけ、ローブを直すふりをして、籠の中にリンゴを滑りこませた。
馬鹿な女。私に騙されているとも知らず、信用して...。
あの女の後を追い、森の小屋をのぞき込むと、見事にクリスティーナ様は毒リンゴを口にし、苦しんでいた。あの女が何か飲ませていたけど、その後、クリスティーナ様は動かなくなったのを見届けてから、私は急いでお屋敷に戻り、ロンバートさんへ見てきた事を「そのまま」報告した。
その後の出来事の詳細はわからないけれど、あの女は、お屋敷の牢の中に押し込められているようだった。
”裁きの場”で私が証言したら、これで二人とも消える。
これで、エドワード様もロビン様も私を見てくれるに違いないわ。
あー本当に楽しみ。




