宮仕えロビンの仕事と恋8
翌朝、「件の小屋はもぬけの殻だった。」とロンバートから報告を受けホッとする。
イーサム達も間に合ったようだ。
「それでは、私もクリスを探そう。」と言って、屋敷を出発し、潜伏先であるトランバール邸に向かった。
彼女を助け出す計画を練らなくては...。
トランバール邸に到着し、
俺は、殿下に屋敷の近況を報告した。
「そうか。侍女の証言だけでねぇ...。
君の叔父上、中々の視野の狭さだね。」
「申し訳ございません。ですので、私としましては、“裁きの場”までには何とかしたいのですが。」
「そうだね。
そうそう、ちょうどさっきね。メリンダから例の隣国の間諜を落としたって報告があってね。早速、君が手配してくれた隊を、こっちに向かうように連絡したから、準備もかねて5日後には、ここに到着すると思うよ。勝負はその時かな。」
五日後...。間に合うのか?
「ロビン、気持ちはわかるけど、焦って余計な事しないでね。上手くいけば、今回の任務と君のお姫様と両方解決するんだから。」
「...御意。」
殿下と打ち合わせやその他の準備を行い、その日の夕方、屋敷に戻るとロンバートから裁きの場が六日後の午後に設けられる事を聞いた。「死体が出ていないのに?」と聞いたら、「他に証拠が出そうなので。」との事だった。他の証拠ってなんだ?クリスは死んでいない。そもそもカメリアはクリスを殺していない。証拠をでっち上げるのだろうか。
それにしても、六日後か。ギリギリだな。
昼間はクリスを探すふりをしてトランバール邸に赴き、夜はジェファー家に戻るという生活を数日過ごし、四日目の朝、屋敷の私兵として内偵しているイザベラ(仮名・男)から呼び止められた。
「ロビン様。」
「何だ。俺を屋敷内で呼び止めるという事は、よっぽどなんだろうな。」
「はい、カメリア様の事で。」
「!!、話せ!」
「劣悪な環境の中、食事も満足に与えられず、また、全身濡れたまま投獄され、高熱にうなされているにも関わらず、そのまま放置されているようです。」
「ッ、なんてことだ!!」
「今晩は、私が牢番となりますので、薬か何か差し入れようと思います。」
「いや、俺が行こう。」
「承知しました。それでは、今夜11時に交代となります。場所は第三の塔になりますので、よろしくお願いいたします。」
その夜、俺は、手持ちの解熱剤や栄養剤、その他必要な物を手に携えて、第三の塔に向かった。
ジェファー家の屋敷には、屋敷の四隅それぞれに塔が立っている。その昔、見張り台の役割として利用していたが、領内が安定してからは、ずっと備品庫の役割をしていた。と思ったが、こんな所に牢があったとは...。
イザベラの牢番交代を見届けて、しばらくしてから俺は第三の塔に近づき、彼から牢の鍵を受け取り、中へと入る。塔の中はとても暗く、入った瞬間から腐ったような嫌な臭いがする。そして、暖房器具がないせいだろう、とても寒い。
...こんな所に彼女がいるのか?
はやる気持ちを抑えながら、螺旋階段を上がっていき、該当の扉を開けると、申し訳程度の明かり窓から月明かりが照らすその下に、彼女は横たわっていた。
鉄格子の扉の鍵を急いで開け、彼女を想わず抱き寄せる。
その体は、想像以上に細く折れてしまいそうで、そして、とても熱かった。
声をかけるが、反応がない。
何度か繰り返していると、うわ言のような声が出てきた。
よく聞こえるようにと耳を彼女の口元へ持っていく。
「... ... ないかしら...。」
「.. ロビンの ... 聞き納めしたか ...。」
反応があるうちに、答えなければ。
しかも、俺の事言っているじゃないか!
「おや、俺の声が聴きたいとは、うれしいですね。」
カメリア、反応を返してくれ!
「カメリア、熱がすごいじゃないか! さあ、これを飲んで!果汁と薬だ。少し体が楽になるよ。」
何かと気を遣う彼女が心苦しくならないよう、なるべくいつもと変わらない調子で声をかける。
「きっとこれは、夢ね。
... 何て ... 夢かし.....」
反応はあるが、彼女は、まだ夢と現の間にいるようだった。
この熱だ、しょうがない。
このままでは、自分で水も飲むことも出来ないだろう。
俺は迷わず、薬を自分の口に含み、彼女の口に直接飲ませ、その後も、水も同じ方法で飲ませる。熱でうなされている中、水を飲ませたためだろう、彼女の口から「気持ちいい…」と呟いた。
なんで、なんでなんだ。
彼女は、何も悪くないのに。
こんな仕打ちを受けなければならないんだ。
「ごめん、ごめん、カメリア。俺には、今君にこれしか出来ないけど、もう少し、もう少しだから、もうちょっと頑張って。」
自分の不甲斐なさに唇を噛む。
なんで、俺はあの時、彼女の牢の環境を確認しなかったんだ。
そうだ!明日ロンバートに言って、もっと待遇改善を要求しなければ!
殿下は、余計な事するなと言ったが、これぐらいは問題ないだろう!
しばらく彼女を抱きかかえていると、穏やかな寝息が聞こえてきた。
良かった。
薬が効いてきたようだ。
明かり窓から、月が完全に見えなくなる頃、
後ろ髪をひかれながらも、俺は彼女の元を離れた。




