牢の中
人生で初めて入った牢は、この屋敷の外壁と同じ黒い石に囲まれており、入り口の反対側には、自分の背よりもはるか高い所に、格子がはめられている喚起用の小さな窓があったが、十分といえず、籠った臭いがする。
中には、スプリングが全く聞いていなさそうな簡素なベッドと、薄い毛布。
小さな机とガタガタする椅子しかない簡素な部屋だった。
「カメリア様、しばらくこの中でお過ごし下さい。」
と無表情なロンバートが、扉をバタンとしめた後の牢には、
遠ざかっていく足音と、雨の音だけが聞こえた。
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――――ぴちょん ――――ぴちょん
規則的に聞こえる雨の雫の音。
どこか雨漏りしているのかしら...。
――――ぴちょん ――――ぴちょん
規則的な静かな音を聞いていると
だんだん、自分が冷静になってくる。
大丈夫かしら、クリス...。
よくよく考えたら、イーサムの小屋に解毒剤4ダース、
以前押し付けていたんだった...。
あれだけあれば、大丈夫だよね。
間に合ったわよね...。
ハッ、でも、そもそも、あの解毒剤じゃ、効かない毒だったら?
どんどん、悪い方に考えていってしまう...
――――ぴちょん ――――ぴちょん
そもそも、何でバスケットの中にリンゴが入っていたのかしら。
お菓子は、自分で籠に入れたし、
屋敷を出る時、誰に会ったかしら...
そうだ。
マリーに話しかけられて、そして、ローブを直してもらって...
えっ、まさか、あの時に?
でも、なんでマリーが?
いやいやいやいや...。
――――ぴちょん ――――ぴちょん
あれっ、そもそも何で私、牢に入っているんだっけ?
クリスを隠した罪?
毒リンゴを食べさせた罪?
スリンの事がバレた?
何か色々あって、どれが理由がわかんないなぁ...
あ~全部かも...
――――ぴちょん ――――ぴちょん
スリン、大丈夫よね。
うっかり、何かしゃべって、バレたりしてないわよね...
――――ぴちょん ――――ぴちょん
寒いなぁ...。
夜、だいぶ冷えてきたなぁ...。
冷え性なのよね、私。
ほら、もう足先に痛いの通り越して、感覚が無くなってきた...
服も髪も雨に濡れたまま、牢に入れられちゃったから、生乾きで臭くなるなぁ...。
風邪もひいちゃうじゃない...。
そういえば、喉が痛くなってきたかも...。
――――ぴちょん ――――ぴちょん
そういえば、
ロビンと最後、何話したっけ...
必死過ぎて、覚えてないわ
きっとひどい顔していたんだろうな、私...。
きらわれたかなぁ...
それは、やだな
――――ぴちょん ――――ぴちょん
――――ぴちょん ――――ぴちょん
――――ぴちょん ――――ぴちょん
――――ぴちょん ――――ぴちょん
――――ぴちょん ――――ぴちょん
「...リア様
カメリア様、お食事でございます。」
気がつけば、寝ていたらしい。
体がだるい。
頭がぼーっとする。
熱出てきたかな。
牢番が、私の前に朝食を出して、そのまま出ていった。
とりあえず、ごはんは出るらしい。
とはいっても、いつ焼いたのかわからないカビの生えたパンと、具も塩気もないスープだけで、とても「お食事」と言える代物ではなかった。
とりあえず、明日の活力の為にも、出されたものは食べないと。
重たい体で食事をしていると、エドワードが牢の中へ入ってきた。
「カメリア...。クリスをどこへやった。」
「...。」
「どこへやったと聞いている。
クリスを、私の白雪をどこへやったんだっ!!」
最初は、あのいつもの優しい声できいてきたが、私が答えないでいると、声がどんどん大きくなっていった。」
「......ッ!」
「どこへやったと聞いている、答えよっ!」
と次の瞬間、旦那様の手が私の首をギリギリ締め付け始めた。
「くっ...」
「クリスをどこへやった?お前が殺したんだろう?死体をどこへやったんだ?あの小屋は、もの家の空だったぞ、オイッ、答えろ...」
「旦那様、旦那様!お止めください。これ以上やったら、死んでしまいます!
死んでしまったら、クリス様の居所も話せません!!」
いつも無表情のロンバートが珍しく焦った顔で旦那様を止めていた。
「う、うむ。 そうだな...。」
エドワードの手が、私の首から離れ、
空気を必死で吸っていた私を横目に、彼らは牢を出ていった。
その日以来、尋問らしい尋問は特になく、
ただただ時間だけが過ぎていった。
牢に入って二日目に風邪を引いたかもと感じていたが、
どうやら本当に風邪をひいたらしく、熱が出てしまったようだ。
体はガタガタ震えて寒いし、関節も痛いし、
つらいなぁ...
もう何日牢に入っているのか、わからなくなってきた。
夜と朝を何回か迎えているから、何日か経っていると思うのだけれど...。
このまま死んでしまうのかしら。
死んでしまったら、病死扱いになるのかしらね。
ラムル領のみんなに会いたいなぁ。
お父様、お母様、弟に...。
そろそろ弟夫婦に子どもは生まれたかしらね。
クリスにも会いたいな...。
彼女には、結局、苦しい思いをさせてしまった。
もう会ってはくれないかしらね。
あーあのロビンの軽い声も聞き納めしたかったわね...。
「おや、俺の声が聴きたいとは、うれしいですね。」
と軽いが、少し辛そうな声がした気がした。
「カメリア、熱がすごいじゃないか!
さあ、これを飲んで。果汁と薬だ。少し体が楽になるよ!」
きっと、これは夢ね。
何て、都合の良い夢なのかしら。
とつらつらと考えていると、
口元にやわらかい感触の後に、冷たい液体が口の中に入ってきた。
体が熱で熱いせいか、
口の中に入ってきたものが冷たくて「気持ちが良いぃ...。」
「ごめん、ごめん。カメリア。俺には、今君にこれしかできないけれど、もう少し。もう少しだから、もうちょっと頑張って...。」
体全体に程よい締め付けを感じながら、私の意識は、闇に溶けていった。




