宮仕えロビンの仕事と恋6
「クリス嬢が、失踪いたしました。」
「クリス嬢って、君の従妹の?」
「はい。自ら失踪したのか、誘拐なのかわかりませんが、決死の捜索にも関わらず、見つかっていません。」
「てことは、犯人から何等かの要求はないんだね。」
「はい。私の滞在中は、そういった事はなかったかと。」
「う~ん。今回の件と何か関連あると思うか?」
「私も帰りながら、考えてみたのですが、何とも。」
潜入している者達の情報や、あの宴での参加者達の動向をまとめると、何か今回の失踪の件に違和感を感じる。
ふと、殿下の顔がニヤリと笑った。
うっ。嫌な予感しかしない。
「よし、今抱えている案件もちょうど区切りが良いし、そろそろ僕も現地に行くか!」
「は?今なんと?」
「僕も、トルタイム領へ行くと言った。
だいぶ君の叔父さんの不正も見えてきたし、文句はあるまい?」
近くにいた副官が、フルフルと首を横に振っている気がした。
が、言わざるをえないだろう…
「御意。」
くそっ、滞在中の殿下のお世話は、誰がすると思ってんだ!
と思いながら、馬の手配や宿泊場所での手配など、やることをリストアップする俺。
誰か、褒めてほしい。
とはいえ、今の俺では、作戦の役割上、付きっきりで殿下のお世話をすることは無理なので、目途が立った時点で、このありがたい役割をナターシャに押し付けておいた。
ナターシャは「ゲッ」と言った気がしたが、
キニシナイ、キニシナイ。
ちなみに、殿下は森で愛馬と散策するのが、トルタイムでの日課らしい。
「池の周りの景色が、神秘的で良いよね~。」とありがたい感想をくれた。
いらん、そんな感想。
いや、自分の領を褒められるのは、うれしいが...
遊びじゃないですからね!殿下!
わかってます?
そうこうしているうちに、季節は秋から冬へと変わったが、まだクリスは見つからない。
一体彼女はどこへ?
無事なのだろうか?
これからどんどん寒くなる。
辛い思いをしていなきゃ良いのだが。
そんなある日、離れた領地に視察に行くという事で叔父が、ロンバートを始め主だった使用人たちと出かけて、屋敷にいなかった。今まで俺の滞在中、叔父とロンバートが一緒に出掛けている事がなかった為、絶好のチャンスだと思い、そっと彼らの部屋に入る。案の定、叔父の部屋からはいくつかの書状が、ロンバートの部屋からは裏帳簿が出てきた。
それら全てを、今すぐ押収したい気持ちに駆られたが、今押収してしまうと、内偵している事がバレてしまうので、ロンバートの部屋から使い終わった裏帳簿を、一冊だけこっそり拝借し、あとは殿下の指示を仰ごうと思い部屋を出た。
そして、書状の裏付けを取るため、俺はイーサムの家へ向かった。
俺とイーサムはあの再開後、何度が長男イムサムと会っている。だが最近は任務に関する話が多く、彼の妻や他の子供達に聞かせるわけにもいかなかったので、彼の森の小屋ではなく別の場所で3人、会うようにしていた。
いつもは予め連絡を取って会いに行くのだが、今回は証拠が見つかり、急いで確認したく、イーサムの家族がいる森の小屋へと直接向かった。
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「いや~、イーサムゴメン!ちょっと話があるんだが...。」
子供達の出入りが多いので、あの家は昼間基本的に、鍵はかかっていない。
それを良いことに、俺はそのままノックもせずに扉を開けた。
すると、俺の目の前で、彼女と失踪中のクリスが、お茶をすすっていた。
「な、なぁ、今、俺の目の前に失踪中のクリスがいるように見えるんだが、気のせいか…?」
目の前の状況を整理するため、問いかけてみると
「気のせいじゃないかしら?」
と隠しようがないのに、白を切ろうとするカメリア。
なぜ、クリスが彼女と一緒に、ここに居る?
彼女が誘拐した?
いや、彼女が連れてきた?
見た感じ、クリスも無理やりここに居るわけでもなさそうだし。
なぜ?
気がつけば、俺は彼女の腕をつかみ、詰問していた。
「一体、どういう事なんだ!なぜクリスがイーサムの家で、君とのほほんとお茶しているんだ!俺が王都に戻っている間、クリスが無事に帰っていたっていう事でいいのか?」
「クリスは今現在、絶賛失踪中よ。
私がクリスをここに連れてきて、イーサムにお願いしたの。」
やっぱり、彼女が連れ出したのか...。
「なんで、また。」
「エドワードに虐待されているみたいなの...。」
彼女は、観念したのか
クリスの状況やこれまでの経緯など、ポツリポツリと話始めた。
そんな、まさか。
そんな素振りは、全く気がつかなかったぞ...。
いや、あの叔父だ。ありえなくもない…のか?
使用人たちは気づいていなかったのか?
いや、使用人だから何も出来なかったのか。
それにしても、なぜ彼女は一人で成し遂げようとする?
しかも、何という事だ。
街で会った時は、俺はデートみたいだと浮かれていたのに、彼女は逃走用の準備をしていて。
収穫祭当日も、俺は彼女とのダンスに浮かれて、
気の利いた言葉を言わなくてはと思って、言った言葉も、
彼女にとっては、自分の計画が露見するのではないかと、
ハラハラしていて、あの対応だったのかと思うと、自分の気づかなさ加減に呆れる。
何が殿下の元で働いて、自信がついただ!
そして、また彼女が自分を頼ってくれなかったことに、肩を落とす。
それに対し彼女は、
「知っている人が少ないほど、計画は上手くいくし、何より、あの時、お屋敷の誰を信じてよいかわからなかったし、信用出来たとしても、巻き込みたくなかったのよ。」
と尤もな事を言う。
「他に、協力者は?」
「イーサム一家以外は、誰もいないわ。」
「で、これから、どうするんだ?
いつまでもイーサムの所に、クリスを置いておくわけにもいかないだろう?」
「わかってる。わかっているわよ!
侯爵家に対応出来る家ってなると、私じゃなかなか見つけられなくて。それなら、市井にでもと思ったんだけど、それも見つからなくて...。」
!!
それなら、俺に出来るじゃないか!
自分自身の伝手でも、なんとかなるだろうし、
無理でも、それこそ殿下の伝手を使えば良いじゃないか!
殿下が敵わないのは、兄の国王ぐらいだ!
侯爵家なんて、目じゃない!
殿下があーだ、こーだ言ったって、俺が言いくるめれば良い!
「なあ、それ、俺に任せてくれないか?」
「え?」
「俺、王都に知り合いいるし。今、パッと考えても、いくつか心当たりあるから。」
「でも、巻き込むわけには...。」
「お願いだ。頼りにならないかもしれないけど、君の役に立ちたいんだ!」
お願いだ。俺を頼ってくれ。
まだ躊躇しているようだったが、なんとか彼女の了承を得、俺は直ぐに殿下の元へ訪れた。
彼女が一人思い悩んでいたというのに、俺は何で全く気がつかなったのだろう。
悩んでいたのは知っていたのに、何も出来なかった。
いや、しなかった。
今度こそ、彼女を助けられる!
それに、叔父上の不正が正せれば、彼女の環境も良くなるはずだ!
あ、
違う。
叔父が失脚したら、彼女は...。
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ジェファ―家の裏帳簿を渡し、叔父の部屋で証拠を見つけたこと、クリスを見つけた事、そして、本件とクリス失踪事件は、全く別物だったことを、殿下に報告した。
「あー、やっぱり、あの美少女が、クリス嬢だったか。」
は?
今何て言ったよ、あんた!
気づいていたなら、言えよ!オイっ!
てか、どこで会ったんだ?
森か?森なのか、あの馬との散歩でか!
「それにしても、君のお姫様は、勇猛果敢だね。
自分に全く利がないのに、行動起すし、
しかも、未だに屋敷の誰にも気づかれてないだけじゃなくて、
俺らにも今までバレずにいたんだよ!
いや~、僕の部下に欲しいくらいだ!!」
いや、それはヤメテクレ。
「で、どうするの?」
「はい、とりあえず、うちの祖父母に、一旦クリス嬢の事を相談しようと思っています。」
「そ。もし、僕の力が必要だったら、言ってね。」
「ありがとうございます。」
殿下から、言っていただけるとは。
これで、確実に助けられる。
その後、今後の打ち合わせをし、クリスの移住地確保の為、俺は王都へ向かった。
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王都に着くと、祖父に相談しに、一番に彼の屋敷へ訪れた。
確かに、親戚にあたるとはいえ、クリスは祖父母とは、直接血がつながっていない他人だ。だが、祖父には、伯爵家にも対抗できる地位もあるし、人格的にも一番適任だと思う。
最初こそ、俺の両親の事件の事もあり、難色を示していた祖父だったが、最終的には、「クリスが来るのを楽しみにしている。」と承知してもらえる事が出来た。人道的な意味もあったようだが、女の子が居れば、足が悪くなり家に籠りがちな祖母に、生きる張が出るだろうと、祖父なりに祖母を思いやった事が大きいらしい。
その祖母はというと、祖父から話を聞いたとたん、ソワソワしだして、侍女たちに最近の流行を聞きまわっているらしい。
直ぐに、カメリアに報告しに領へ戻りたかったが、こちらでの根回し、物理的な準備、そして任務もあるので、実際に領へ戻れるのは、もう少し先になる。
ようやく、彼女の助けが出来る。
彼女は、俺に笑顔を見せてくれるだろうか。
次回は、一旦カメリアの視点に戻ります。
急展開!の予定です。(あくまで予定...)
お楽しみに!




