宮仕えロビンの仕事と恋4
気持ちを整え、殿下の執務室をノックする。
「どうぞ~。」
「失礼いたします。」
「どうだった?」
「はい、少しずつですが、糸口が見えてきたかと。
恐らくですが、魔石は隣国に横流しされ、地産の紅茶には、混ぜ物が混入していました。混ぜ物もただの茶葉類なら良いのですが、たぶん、アレの目くらましの可能性が。
ただ、この場合、彼の家は莫大な資産を形成されるはずなのですが、
その様子が全くありませんので、その辺りも、今後調査する予定です。」
「ご苦労。糸口が見えてきて良かったよ。引き続き頼んだよ。ところで、例の彼女はどうだい?」
「...。例の彼女とは?」
「君の叔父さんの新しい美人の奥さん♪」
「屋敷内で孤立しているようです。問題あるような性格ではないのですが。」
「そう。孤立は辛いね。君が、慰めてあげれば?」
「いえ、そういうわけには。」
「固いね、君は。
僕は別に良いと思うけどね。バレても修羅場になっても、構わないよ。
任務さえ順調ならね。」
「...。」
あー、こういう人ですよね、殿下は。
ていうか、面白がってますよね、絶対。
そして、いつものように殿下は、仕事を、それはもう沢山押し付けていき、いつもの俺の王都生活に戻っていった。
今、俺が王都に居を構えているのは、
そんなに広くない部屋に、簡素なベッドと机、椅子、書棚程度の家具が置いてある軍の独身寮である。士官学校に入学してから、俺は祖父母の家は出た。軍に入って数年、領住まいが義務とされているが、俺の年次では、既にその義務はもうない。
祖父母の家に戻ることも考えたが、殿下の元で働いていると、潜入捜査やなんやらで家を空けていることが多いし、王都にいる時も、朝に晩に殿下に振り回され不規則な為、外孫の自分が屋敷の者達を振り回すのも、気がひける。
上の理由により、自分の屋敷を持つのも、管理しきれないのが目に見えているので、却下した。結果、長らく住み慣れた軍の独身寮に、未だにお世話になっている。
あの事件以降、沢山の愛情を持って、親代わりに俺を育ててくれたのは、間違いなく、祖父であり、祖母だ。最近では、忙しさにかまけて、足が遠のいているが、少し時間を作って、久しぶりに行ってみるのも良いかもしれない。
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「あら、久しぶりね。ロビン、元気だった?」
朝の鍛錬の後、祖父母の屋敷に帰ると、祖母が満面の笑みで迎えてくれた。
最近、足を悪くしているが、それでも祖父と共に毎日屋敷内を、仲良く散歩しているらしい。
「ねぇ、あなたに何件かお見合いの話、
わたくしの知り合いから来ているんだけど、どうする?」
「お断りを入れておいていただけますか?今の仕事をしている以上、結婚は難しいので。」
「そう。結構良い話だと思ったのだけれど。
はぁ、仕方ないわね。
それとも、本当は、好きな人でも出来て、仕事は断りの方便なのかしら?」
「...。いえ、そんなことは。」
「そうお?まあ、そんな娘が出来たら、おばあ様に教えて頂戴ね。
あなたの選んだ娘ですもの、きっと良い娘に決まっているわ!」
「...はい。」
好きな娘と言われ、彼女の顔が真っ先に頭に浮かんだのは、
きっと先日、殿下にいらぬ事を言われたせいだ。
そうに違いない。
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殿下に押し付けられた仕事を、いつものように完遂し、叔父の領に向かう頃には、季節は、春から夏へと完全に変わっていた。
例のごとく、特に何も知らせず、ジェファー家に行く。
最初の頃こそ、「先触れを出してほしい。」と言っていたロンバートだったが、最近は諦めたらしく、何も言わず対応してくれている。
屋敷の廊下を歩き、とりあえず、この屋敷の主である叔父に挨拶しに行こうと、彼の執務室に向かう途中、向こうからこちらに歩いてくる女性がいた。
あれは、彼女じゃないか!
今日は何を言って、揶揄おうかな。
と思っていたが、彼女の様子が、おかしい。
彼女は、全く俺に気がつく様子はなく、あっという間に、俺の横を走り去っていた。
孤立している中でも、屋敷内では穏やかな顔で取り繕っている彼女だが、あの様子はおかしい。
この先で、何があった?
彼女を追いかけようかどうしようか悩んでいたが、やはり追いかけようと一歩踏み出したところ、マリーに出くわした。
さっと頬を赤くし、何か話しかけてきた。どう会話を終了させようかとマリーの顔を見ると、今日の彼女は服も髪も乱れていた...。そして、俺は目線をあげるとその先には、叔父が乱れた襟元を直しながら部屋に入っていくのが、マリー越しに見えた...。
確証はないが、多分そうなのだろう...。
そして、その決定的な何かを、彼女は見てしまったのだろう...。
なぜ、叔父は彼女を大切にしない。
『君が、慰めてあげれば?』
と殿下の声が頭の中でこだまする。
マリーは何かを話していたが、そのまま放置し、急いで彼女を、カメリアを追った。
エントランスに出ると、ちょうど彼女は馬に乗って、屋敷を出るところだった。
きっと、あそこに向かったに違いない。
さっき馬丁に預けた馬を、再度受け取り、自分もあの場所へと向かった。
あの場所に近づくと彼女の姿が見え、ひとまず安堵する。
こちらの様子に気づかず、ただずっと立ったまま、領を眺めている。
「カメリア、いったいどうしたんだ。そんな顔をして、馬に乗って飛び出していくなんて...。」
彼女の顔は、眉が下がり、困ってような、そして、泣くのを忘れてしまったような顔をしていた。
初めて出会ったあの日に比べ、彼女はだいぶ痩せてしまった気がする。
「俺に話をしてみませんか?」
理由がわかっているのに、白々しいセリフだと思いながら、彼女に尋ねる。
自分には、話してほしいと願いを込めて。
だが、彼女のことだ。きっと、何があったのか言わないだろう。
「私のね、覚悟が足りなかったみたい...。
腹くくって、嫁に来たはずなんだけど、実際目にしたら、ダメだった...。
ごめん。これ以上は言えない。」
やはり、俺には、彼女の苦しみを話してはもらえない。
どうしたら…どうしたら、彼女の心を安らかにしてあげられる?
許されるならば、彼女を抱きしめたい。
彼女は、俺のすぐ傍に居るのに、抱きしめられない今の彼女との関係がひどく遣る瀬無い。
迷った挙句、座り込んでしまった彼女の頭を、撫でるのがやっとだった。
それでも、泣き方を思い出したかのように、ぽろぽろと泣き始めた彼女を見て、
少しは役に立ったのではないと思いたかった。
その夜、挨拶がてら、叔父に彼女との事をさり気無く尋ねたら、
「ああ、順調だよ。クリスとも良くやってくれている。」
とあの笑顔で答えた。
飼い殺しにしているくせに!
気がつけば、拳をギリギリと握りしめていた。
結局、あの後、自分では彼女をどうすることも出来ず、いつもどおり、メリンダとナターシャと、そして最近加わったキャロライン(仮名)とイザベラ(仮名)と情報交換をして、王都に戻った。
せめてと思い、いつも彼女に渡しているブックリストに、今回は、恋愛要素の少ない喜劇の本を数冊混ぜたが、彼女の心の救いに少しはなるだろうか。
普段通り過ごしていたはずなのだが、聡い殿下には俺の心が読めたらしい。
洗いざらい白状させられた。
そして、全てを聞いた殿下に「ヘタレだね~」と鼻で笑われた。
えー、わかってますとも!
潜入捜査中でもあり、そして彼女の不貞を疑われない為にも、
彼女へ手紙一つも送れないのが、歯がゆい。
彼女は大丈夫だろうか。
トルタイム領の方角の空を見て、彼女を想う。




