第8話 新たな拠点
「大丈夫です。
ところで、どこに行くのでしょう?」
「事務所で借りている部屋の一つです。
車ですので20分もあればつくでしょう。
私の予想が正しければ、お二人の新たな拠点となるのではないでしょうか」
「新たな拠点ですか?」
「はい、とりあえず移動しながらにしましょうか。
現地で所長が待っていますので」
助手席のヘッドレストにゲートを固定し、視界はまるで助手席に座っている気分。
異世界に車持ってこれないかなー。
バイクでもいい。
両方免許持ってないけど。
どうやら上野方面に向かっているようだった。
「お二人が異常な事態に巻き込まれているということは確認できました。
そして渡辺さんの能力がとんでもないことも。
お二人にその自覚はありますか?」
自覚というか、掲示板では注意されたかな。
「一応は」
アイは既にちょっと眠そうだ。
いつの間にか3時近くになっている。
「渡辺君の力は出所が分かってしまうと危険です。
仮に何らかのことがあってゲートの場所が判明しても、事務所の借りている部屋であれば、渡辺君にたどり着くことが難しくなります。
逆に何らかの方法で渡辺君だということが判明したとしても、ゲートがどこにあるのか分かりにくくできます」
つまり場所から僕という情報を隔離することと、僕から場所を隔離することができるということね。
「そろそろ着くわ」
上野の方に向かっている、ではなく、目的地が上野だった。
「上野だったんですね」
「ええ、事務所がここにあるの。
それに何か手に入れるにしてもここは便利よ」
確かに、デパートもあれば家電量販店もある。
ガード下は混沌としているけど。
車を駐車場に止め、用意された部屋に到着した。
途中は小池さんのスマホにゲートを張り付けて移動した。
これなら通話しているように見えるから会話も簡単だった。
「いらっしゃい。
急ぎだったから夜分遅くに移動してもらって悪かったね。
弁護士の沢木です。
小池君を向かわせた時点では、早乙女さんの確認と予備のスマホを渡すだけのつもりだったんだけど」
「渡辺雄一です。
よろしくお願いします。
アイ、起きて。
弁護士さんのところに着いたよ」
外で月を見せたあたりまでは起きていた。
眠そうだからとベッドに移動してしまったのがまずかった。
「ん。
おはようございます」
ゲートの向こうを見てアイが寝ぼけた挨拶をした。
「おはようございます、早乙女さん。
まだ夜なので寝ていていいですよ。
今日は遅いので、少し渡辺君と話したら終わりにしますから」
「はい。
おやすみなさい」
沢木さんの言葉で再びアイは寝るようだ。
異世界についていきなり襲われ、助け出されてからもいろいろあった。
僕はいろいろ準備ができたけれど、愛にはそれがなかった。
流石に起きているのは限界そうだった。
「さて、夜も遅いし必要なことだけやったら、あとはまた今日の夕方辺りでどうかな?」
「はい、僕たちに特に決まった予定はありませんので大丈夫です」
今のところ時間とは無縁の生活になるだろうし。
「ありがとう。
まずは急いできてもらった理由だが、渡辺君、君のネット接続の件だ」
掲示板かライブ配信の件かな。
何か法律的にまずいことやったかな。
やったかもしれない。
どうしよう
「えっと、まずかったですか?」
「何についてかによるが、一番の問題は接続環境だ。
早乙女さんから依頼された後に掲示板などは一通り確認したが、渡辺君を特定させてはいけない。
既に掲示板でも注意されていて、それは知っていそうだけどな」
確かに絶対顔を映すなって言われた。
「はい、僕が誰だか特定されたらまずいと注意されました」
「そうだ。
小池君、実際に渡辺君の力を見た状況でどう思うかね?」
「絶対に特定させてはいけません。
ただ、おそらく我々が思っている程の事は、渡辺君だけではできないでしょう。
誰かに聞かれたとして、無理に名探偵アイゼンを提供しなければ問題ないかと思います。
誰かに入れ知恵されたときに、私達がそれ以上に信用されていれば問題ないかと思います」
「その根拠は?」
「世界を破壊できる力を内包していても、そこまでの使い方を知りません。
そして素直です」
「なるほどな。
早乙女さんの話とネットでの発言、小池君からの報告を聞く限りは同意見だ。
渡辺君、君は世界を不必要に混乱させたいかね?」
「いえ、平和が一番です」
アイと一日のんびり暮らしていればいい生活がいいな。
あれ?
今の異世界生活って天国じゃない?
「誰かに入れ知恵され、万が一にも暴走する前に伝えておこう。
渡辺君、この先お金で苦労することは殆どなくなるだろう。
だからいくらお金が稼げるからと言って、不必要な混乱につながることはやめてほしい。
この話は早乙女さんから特に言われているからね」
あれ?
アイのお父さんから意外と好感触?
「多分わかっていないだろうから具体的に言おう。
ネット接続と名探偵アイゼン。
この組み合わせでクレジットカードは使い放題。
ネットバンキングからだっていくらでも手に入る。
ネットがつながっているどの設備にだって遠隔侵入。
文字通信であればいくらでも入れ替わって誤情報を流せる。
各国の諜報員だろうが、隠しておきたい兵器だろうが、すべて場所も人も筒抜け」
まるほど、確かにヤバイ。
クレジットカードの番号とか暗証番号系の物は確かに行けるだろう。
ネットバンキングも口座番号とか暗証番号系だよね、多分。
最後のは一番やばそう。
これ、やるやらないにかかわらず国に狙われるんじゃない?
「ゲートと名探偵アイゼンと魔法。
この組み合わせはさらに危険。
どこにでも侵入可能。
誰でも暗殺可能。
大きささえ問題なければ盗み放題。
欲しい物がある場所は簡単にわかるだろう」
あれ、なんかすごくやばいんじゃない?
「まだまだあるが、少しは理解してもらえたかね?」
やばい。
これは危険だ。
「はい」
「ネットへの情報提供をやめれば、君のことは都市伝説のような扱いにはなるだろう。
だが、情報提供をする意味は存在する。
名探偵アイゼン君に聞いてほしい。
今でも、転移の暴走は続いているのかね?
渡辺君と一緒の時の転移待ちの人以外に新たに転移待ちになっている、もしくはすでに転移した人はいるかね?」
(アイゼン、現在も転移は暴走中?)
(暴走中です)
(アイゼン、僕の時の転移待ち以降に転移待ちになった人や、すでに転移した人はいる?)
(いません)
「暴走中だそうです。
そして新たな転移待ちや転移は発生していないそうです」
僕たちだけでは終わらなかったか。
「であればまたいつ転移が発生してもおかしくない。
異世界がある。
自分が転移に巻き込まれるかもしれない。
異世界がどんなところか。
異世界に行っても渡辺君にたどり着ければ地球に連絡できる可能性がある。
情報提供を続ければいつか巻き込まれた人が助かる可能性はある。
渡辺君が行った状況提供はそういうことだ」
僕は困ったから助けを求め、望まれて異世界の情報を提供しただけなんだけど。
結果的にはそういうことになるのかな。
「情報提供を続ける場合もやめる場合も、我々はどちらでも協力する。
とりあえずはこれを使ってほしい」
PCが用意してあった。
「この部屋はもちろんネットがつながる。
契約は事務所なので、直接渡辺君にたどり着くことはない。
今のままだと掲示板管理者と警察とISPが組むと、特定されてしまうだろう。
もしくは罠に引っかかって踏んでしまうと、ある程度まではばれる可能性もある。
ウィルス系も厄介だ」
なるほど。
「渡辺君と早乙女さんのスマホも、情報提供に関係することは事務所で契約した物を使うようにしてもらう。
20cmのゲートなら10インチタブレットならいけるな。
好みの機種もあるだろうから、それは早乙女さんも含めて後日相談しよう」
「分かりました」
PCがあればネットが使えるし、しばらくは十分かな。
「では今日はこれで失礼する。
急ぎで何かあれば小池君のスマホに連絡を。
では、また明日の夕方に」
そういって沢木さんと小池さんは部屋から出て行った。
鍵は外からかけてくれたようだ。
とりあえず僕も寝よう。
起きるとすでに8時を過ぎていた。
寝た時間を考えれば早く起きたほうかもしれない。
アイはまだ寝ているようだった。
そこには山山があった。
そう、山、山だ。
僕の方にも山がある。
これは朝なのだからしょうがない。
僕の方は置いておこう。
目の前に山山がある。
登らなければならない。
なぜか。
それはそこに山があるからだ。
麓にたどり着いた探検隊右手の指と左手の指。
登山を開始する。
なぜ麓から攻めるのか。
もちろんそこに山があるからだ。
山頂を征服する。
全てを手に収める。
やわらかい。
至福の一時。
幸せな一日の始まりだ。
顔を上げるとアイと目が合った。
アイはにやにやしている。
はい、襲われました。
ラウンド1,2,3。
朝からハッスルハッスル。
時間はあるし、いいよね。
お風呂ですっきりして朝食を食べ終わると、10時過ぎになっていた。
そこで気が付いた。
10時。
スマホで確認している時間。
つまり日本の10時。
この世界では、何時?
外を見てみると、既に日はだいぶ上っていた。
昼間であることは間違いない。
(アイゼン、この星の1日って、何時間?)
(24時間です)
これは偶然?
それともこれが地球とつながる原因?
召喚してもこの世界に対応できなくては意味がない。
地球とこの世界があるのだから、異世界はまだ他にもきっとあるのだろう。
もしかしたら、環境が似た世界につながるような仕組みがあるのかもしれない。
盗賊達も、どう見ても人間に見えたし。
(アイゼン、この世界のこの場所は、今何時何分?)
(11時7分です)
日本との時差は約1時間か。
1時間ならしばらくは日本時間で過ごそう。
そこまで影響は出ないだろう。
「ユウ、そういえばお父様は?」
「今日から仕事だから、すでにこの時間ならいないかな」
学校が冬休みに入ってからは夜遅くまで勉強し、朝は比較的起きるのが遅かった。
その時も起きた時にはすでにお父さんは仕事に出ていた。
今日もおそらく部屋を確認すらしていないだろう。
「昨日沢木さんに言われたし、僕の家のPCは使わないようにしておこう。
キーボードとマウスも戻しちゃうね」
昨日は移動するつもりがなかったからそのままにしてあった。
確認するとPCはスリープ状態だった。
シャットダウンしなおし、キーボードもマウスも自分の部屋に片付ける。
スマホの充電ケーブルはとりあえずさしておこう。
充電先を新たな拠点に変えるのは、一度断りを入れてからがいいだろうし。
忘れていることはないかと自分の部屋を見渡す。
はい、忘れてました。
すっかりと、完全に。
ベッドの上にきれいな珠が7個在ります。
そういえば転移する前にまとめておいたのを忘れてました。
間違えて捨てられてしまうのはまずい気がする。
とりあえず、こっちの世界にもってきておこう。
新たな拠点に置いてもらってもいいだろうし。
「きれいな珠ね」
アイが覗き込んできた。
「これが宝箱に入っていた物。
これを使えっていう意味だと思ったんだけどね」
「私の方には何もなかった」
「女神様登場といい、アイの方には何もなかったことといい、多分あの部屋に合っただけなんだよね、きっと。
珠が残るってことは何か意味がある気がするから、無くさないようにとっておきたい」
「その方がいいわね。
私はそのおかげで助かったんだし、私たちは巡り合えたんだし」
そういえば昨日も同じこと言ってた。
「どこに置こうかなと思って。
自分の部屋だと、間違えて捨てられてしまうとまずいし」
「新たな拠点の方も、あまりこっちの関係物は置かないほうがいいんじゃない?」
「それもそうか。
そうするっとこの家の中か。
どこかに飾っておく?」
飾るならリビングかな?
「神棚に居てもらうのはどうかな?」
「神棚か。多分名前的にこれ自体が七竜珠なんだと思うし、ご利益があるかも」
「〇龍?」
「少年漫画だけど、知ってるんだ」
「流石にあれくらい有名なのは知ってるわよ」
7個とも神棚に飾り、祈りをささげる。
「一緒に見守っていてください」
アイも同じように祈っている。
「竜神様、よろしくお願いします」
目をつぶっていてもわかるほどの光に包まれた。
「アイ、今光ったよね?」
「うん。目をつぶっていたけど、それでも光が見えた」
周りを見ても変わっているようには見えない。
「何が起きたんだろう」
「ユウ、さっきの珠がなくなってる」
神棚を見ると、確かに消えている。
「確かに」
「ユウ、こういう時こそアイゼンに確認すればいいんじゃない?」
「そういえばそうか」
(アイゼン、光ったみたいだけど、何が起きたの?)
(神域が強化されました)
「神域強化?」




