第6話 シスターはエイリアン
《今日はハヤシライスだよね(˶ᐢᗜᐢ˶)リクエスト聞いてくれてありがとうm(_ _)m
そういえば、この近くのショッピングモールに、新しくドーナツ屋さんができたみたいだよ!胡桃は興味津々です!食べてみたいな〜(﹡ƠωƠ֦﹡)
あと、りるはちゃんと桜歌姉さんはあんまり気が合わないのかな?ちょっと心配です|q •ㅿ•̀ )仲良くしてくれるといいな(((*°▽°*)八(*°▽°*)))♪ 》
《ドーナツ屋、機会があればチェックしておくよ。あと、もしかして一階の話し声、結構聞こえてたりする?》
《バッチリ聞こえてるよ(* ー̀ ֊ ー́ )و✧》
《うるさかったろ?ごめんな》
《自宅警備員として、家族の動向はチェックしておかねば( ⸝⸝•̀֊•́⸝⸝)و心配ご無用ですദ്ദി˶ー̀֊ー́ )✧》
うちの壁、結構薄かったんだな。
俺は胡桃とのやり取りを確認しながら、リビングに向かう。今日の夕飯は、胡桃のリクエストに応えてのハヤシライスだった。
すでに食卓では、桜歌とりるはがセッティング済み。今日も今日とて、六人掛けテーブルで三人横並びだ。
「えーっと、桜歌さん?」
一応呼びかけるが、腕を組んだ桜歌は、それには答えない。
朝の一件から、桜歌は俺に口を聞いてくれないのだ。むすっと黙り込んで、ずーっと何やら考え込んでいる。形のいい眉がぎりりと寄っていた。
「桜歌ちゃん……」
りるはも心配そうだ。いや、お前が風呂に乱入してきたのが原因なのでは?
「ま、まあ取り敢えず夕飯にしよう」
りるはにそう言い、俺は二人に挟まれた席に腰掛ける。スプーンを手に取り、
「いただきま……」
「ねえ」
俺の言葉を遮るように、桜歌はすっくと立ち上がった。
「どうした?」
「あたし、朝からずっと考えてたんだけど」
「おう」
「ようやく、真実にたどり着いたの」
「真実?」
なんだそりゃ。胡散臭いタイトルの書籍の帯に、よくそんな文言が書いてますけど。朝の件なら、りるはが風呂に押し入った以上のなんの真実もありませんよ?
桜歌は意を決したように、きりっとした顔で、俺の右に座るりるはを指さした。
「この子は、偽物の妹よ!」
……に、偽物と来ましたか。
「わ、わたし偽物なんかじゃないよ!?」
りるはも立ち上がり、胸に手を当てて反論する。
「いいえ、偽物よ。あたしは確信を持ってそう言うわ。あなたがここに来てからの不自然な行動……。それらを分析し、あたしは二つの仮説を立てた」
桜歌はなんか語り出した。ドラマかなにかの真似なの?指を二本立て、そのうちの一つをぴっと折り曲げる。
「まず一つ目の仮説。あなたたち兄妹が十年会っていなかったのが、嘘って説よ。昨日の玄関での一幕、そして、今日の朝のお風呂でのこと。ああ、思い出すだけでもおぞましい。あんなに肌を重ね合って……」
やな表現。もう俺は呆れ返って、ハヤシライスを食べ始める。うん、美味い。
「そこから推測するに、あなたたちはこれまでも、頻繁に会っていた。人目を盗んで、何度も逢瀬を重ねていたのよ!禁断の愛を育んでいたの。何も知らないあたしの前で、二人でアイコンタクトを取って、ほくそ笑んでいた……これが一つ目の仮説よ」
「そ、そんな、違うよ!」
りるは、そんな真剣に取り合わなくてもいいって。
「ええ、これはあたしも違うと思うわ。だって、それにしちゃあなたは危機感が無さすぎる。禁断の関係だと分かっていたなら、もっとあたしの目を盗んでするべきだわ。だから、あたしが推すのは二つ目の仮説よ」
桜歌は、ぴっと二本目の指も折り曲げる。
しっかし、このハヤシライスは美味いなあ。我ながら傑作だ。トマト缶が家にあって良かった。このトマトの、ちょっとごろっとした感じがいいんですよね!
「あなたが偽物って説よ!」
ハヤシライスと言ったら、マッシュルームだよな。これがいい味出してて……。
「あなたは妹のフリをして、うちの兄を誑かそうとしているのよ。だっておかしいもの。お風呂で抱き合うなんて、普通の兄妹がするわけないわ」
「す、するよぉ。だって本でもアニメでも、兄妹は抱き合ってたんだもん!」
「それなのよ!あなたはフィクションの情報だけを頭にインプットして、機械的に妹ってのをシミュレートしている、宇宙人なのよっ」
暴論だ。りるはもこれには涙目だ。
「ひ、ひどいよっ。私は普通の妹だよっ」
「いいえ、兄妹でイチャつくなんて、まったくもって異常よ」
「普通のことだよっ。そんなこと言ったら、桜歌ちゃんだって、変だよ。お兄ちゃんのことあんたって呼んだり、言い方だっていつもきついしっ。朝からずうっと無視してるしっ。わざわざ兄に嫌な態度とるのが、普通の妹だって言うの?」
「そうよ!」
そうなの!?驚愕の真実だ。
「普通の妹ってのは、兄に対して暴言吐いたり、無視したり、蹴ったり、殴ったりするものなのよ!決してごろにゃんと甘えたり抱きついたりするものじゃないわ!」
桜歌さん、まじすか。妹って、そんな巨悪だったんだ……。
二人は俺の頭の上で、クソほどどうでもいい口論を交わし始める。俺が思うに、どっちもどっちだ。二人とも妹ってのに対しての認識がなんだかずれている。
テーブルの上には、二人分の手付かずのハヤシライス。鮮やかな赤茶色が、寂しそうに佇んでいる。
「なあ、お前らそろそろ……」
制止を促す俺の声も届かないようで、
「桜歌ちゃんの方が偽物の妹だよっ。だって私は血が繋がってるんだよ!?」
「一緒に過ごした時間はあたしの方が長いんですけど?あんたの方が偽物よ!」
あーもう、いい加減にしてくれ。
「なあお前ら、」
二人を遮るように、俺は食べ終わった食器を持って、その場で立ち上がった。二人の視界に突如出現した俺の頭に、桜歌もりるはも思わず押し黙る。
「そんなに喧嘩がしたいなら、いっそ勝負でもしたらいいんじゃないか?それで正々堂々決着つければいいだろ?」
喧嘩になったときの、ライフハック。明確な勝敗を分かつ、勝負という舞台に二人を引きずり込むのだ。やるだけ無駄な水掛け論をやめさせるには、こういうやり方もありだ。
うちにはゲーム機だってあるし、テレビに接続して皆で遊ぶことだってできる。口喧嘩じゃなくて、マリオカートで決着つけようぜ?もうそれでいいだろ?
二人は、さっきまでの怒気が嘘のようだ。今は毒気を抜かれ、目をぱちぱち瞬かせている。りるはは小さく口を開く。
「勝負……」
「ああ、勝負だ。ガチンコ勝負だ」
きっと二人でゲームでもすれば、いつの間にか喧嘩していたことすら忘れてしまうだろう。
「そっか、勝負。勝負なんだ」
りるは、天命得たり。そんな感じで、うわ言のように呟く。そして、満面の笑みで顔を上げた。
「桜歌ちゃん、勝負だよ!」
びしっと桜歌を指さし、宣言する。その気になってくれたようだ。俺は安堵の溜息をつき、皿を持ってキッチンへ向かう。
「どっちがお兄ちゃんの本当の妹か、証明するんだよ!」
あん?
思わず俺は立ち止まる。
「妹としての能力、そう、妹力を見せつけるの。それで、お兄ちゃんに決めてもらうんだよ、どっちが本当の妹かっ」
お?
「いいわね、それ。ええ、乗ったわ、その勝負」
ちょっと待て、話が見えないぞ。俺が決める?何を?そもそも俺の意思はどこにも介在していない気がするんだが。
「なんだよ、妹力って。俺はただ、」
普通にマリオカートとかするつもりだったんだが。そもそも本当の妹ってなんだ。それってそんな重要なの?
俺の提案は予想外の方向に転がり始め、困惑を隠せない。
しかし、二人はなぜか納得しているようだ。ひと仕事終えたような顔で、二人揃ってハヤシライスに手を付け始めた。
「あ、お兄ちゃんお皿は私が洗っとくよ♡」
「あ、あたしだって洗うわよ!」
「お、おう……。そりゃどうも」
俺は食べ終わった皿をシンクに下ろして、リビングを去る。
りるはがうちに来て、二日。事態は思いもしない方向に動き出した。




