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第11話 行き当たりばったりの、本領発揮

「うぇえええええぅぐぅぅぅんあぅあぅあああ」


 りるはの号哭が響く。


 昼下がりのハンバーガーショップ。日差しの差し込む窓際の席。店内はピークを過ぎ、テイクアウトの列も落ち着きを見せ始めている。


「うぐっ。な、なんでぇ、なんでぇぇ」


 目の前の照り焼きバーガーも眼中にない。りるはは流れる涙を拭うことも忘れて、嗚咽を漏らす。


 あれから、サルは無事保護されて、動物園に帰って行った。残ったものは、無惨な姿になった三人分の弁当。


 俺の妹は今、世界一可哀想な女の子だった。


「お兄ちゃんにぃっ、食べてほしがっだのでぃっ」


「あーもう、いい加減泣きやみなさいよ」


 ポテトを口に運びながら、呆れた様子で桜歌が言う。片手に持ったえびフィレオバーガーは、すでに半分ほど無くなっている。


「ごめん。俺が目を離したせいで」


 おいおい泣くりるはに、俺は声をかけるが、


「そんなこと言ったって、あんたがあの場にいたってどうしようもなかったじゃない。それとも、サルと互角に戦えるとでも思ってるの?」


 桜歌の鋭い言葉に、俺は思わず口をつぐむ。


 罪悪感はある。俺が離れなければ、せめて弁当は、とも思う。とはいえ、相手はサルだ。桜歌の言う通り、どちらにしろ結末は変わらなかったかもしれない。


「あれは不幸な事故だった。そうでしょ?それにあんた、サル見たかったって、言ってたじゃない。一応、ほら、願いは叶ったじゃない?」


「ば、馬鹿にしやがってぇっ!」


 ぐしゃぐしゃになった顔を上げ、りるはが絶叫する。


 掴みかかる勢いのりるはに、桜歌は怯んだのか、慌てて体を反らせる。


「悪かった、悪かったわよ。……でも、もうあれから一時間以上経ってるじゃない。このまま泣き続けたってどうにもならないのは、あんただって分かってるでしょ?」


「でも、もう全部台無しなんだもん!今日のために、みっちりプラン練ったのにっ」


 りるはの手には、くしゃくしゃになった例の計画表のルーズリーフ。健気だなあ。そしてその分いたたまれない。


 桜歌は、そんなりるはを横目にウーロン茶をストローで啜る。


「桜歌ちゃんは!?」


「え?な、なにが?」


「プランだよ。何をするかくらいは決めてたでしょ?勝負なんだから」


「決めてるわけないじゃない」


「……な!?」


 口をあんぐり開けるりるはをちらりとも見ず、食べ終わった桜歌は、バーガーの包み紙を畳み始める。


「兄妹で出かけるのに、プラン練る奴なんていないわ」


「そ、そんなわけないよっ」


「そんなわけあるわ。あのねえ、兄妹のお出かけなんて、基本的には行き当たりばったりよ。行き先も、食事も、帰る時間だって適当なの。他人と違って遠慮も気遣いもない。それがいいんだから」


 ま、そういうもんだよな、と、俺は内心桜歌に同意する。プラン練ってくれるのも嬉しいけれど。


 りるはがぎりりと歯を食いしばった。


「それ、早く食べちゃいなさい」


 桜歌は、りるはの前に鎮座する、未だ手のつけられていない照り焼きバーガーを指さす。


 そして、どこか挑発的に、にやりと口角を上げた。


「今日はまだ終わってないわ。時間はたっぷりある。ここからはあたしのターン。行き当たりばったりの本領発揮よ」


 りるはが面白くなさそうにそっぽを向き、鼻をぐすんと啜る。


「なーにかっこつけてんだか……」


「う、うるさいわね」


 どこか行きたい場所でもあるのか、と俺が聞くと、桜歌は再び大人びた笑みを取り戻す。


 ゆっくりと彼女は頷いた。


「映画館に行きましょう。おすすめの作品があるの」

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