第9話:炎上
サヤの命懸けの犠牲によって追手から辛うじて逃れ、オレがたどり着いたのは、深い森の奥に隠された新興宗教の本拠地だった。
傷つき倒れ込んだオレを迎え入れたのは、教団の幹部たちだった。
そこであかされた教団の真の目的――それは、禍神を暴走させる旧家の儀式を阻止し、教団の者たちの手で禍神を永遠に封じ込めることだった。
かつて本家から異端として追放された彼らは、数百年の長きにわたる血族間の婚姻を重ねることで血統を純化させ、禍神を閉じ込めるための強力な「結界を貼る力」を受け継いでいた。
しかし、禍神を真に解放する力を持つ者は、彼らからはついに生まれず、だからこそ教団は、「真の器」であるオレを導き、護ろうとしていたのだった。
サヤがこれまで見せてきたあの奇妙なノリやふざけた予言の数々も、すべては旧家の目を欺き、教団の正体と本懐を隠すための芝居にすぎなかったのだ。
だが、その教団の悲願も、容赦ない暴力の前にはあまりにも無力だった。
旧家の老人たちにとって、目障りな新興宗教を儀式の前に根絶やしにすることは、最初から計画に組み込まれていた既定路線だったのだ。
そこに、博が個人的な嫉妬と狂気からオレを追い回してきた私怨が、皮肉にも最悪のタイミングで重なり合った。
「――見つけたぞ、異端のネズミどもめ!」
地響きのような怒号とともに、狂乱状態の阿波流川博を先頭に、姥井山守率いる屈強な若者たち、そして村人たちが周囲の山林を埋め尽くすように押し寄せてきた。
「お前だ……俺のミナを奪った外様め!」
博は目を血走らせて飛びかかろうとしたが、守が冷ややかにそれを制し、冷徹な笑みを浮かべて部下たちに命じた。
「阿波流川家の若様のご乱心はあとで付き合ってやる。だが好都合だ、儀式の邪魔立てをされる前に、教団の者どもを根絶やしにしろ!」
守の冷酷な号令のもと、武器を手にした旧家の手下たちが一切の容赦なく教団の本拠地へと雪崩れ込んでいく。
信者たちは持てるすべての結界術を張り巡らせて応戦しようとしたが、彼らの術はあくまで「禍神のような異形を封じるため」のものであり、血肉を持った人間同士の物理的な暴力や殺意の前には、全くの無意味であった。
無残に蹴散らされていく信者たちを尻目に、教団の拠点には瞬く間に火が放たれる。木造の建物は乾いた音を立てて激しく燃え上がり、夜の山を赤々と染め上げていく。
黒煙が立ち込め、断末魔の叫びと狂気的な哄笑が入り交じる地獄絵図の中、教団はなす術もなく全滅へと追い込まれていった。
「ぐっ……!」
煙に巻かれ、激しく咳き込むオレの前に、冷徹な笑みを浮かべた姥井山守が立ちはだかる。
そしてその背後では、全てを燃やし尽くす炎の中、博が虚ろな目でこちらを見据えていた。
数多の敵に囲まれ、教団が業火に包まれていく絶望的な光景を背に、オレはついに旧家の手によって無慈悲に捕らえられてしまうのだった。




