第10話:虚空の結末
ミナとサヤ、二人の少女の死を代償にして、旧家側は新興宗教の勢力を完全に踏みにじり、山村の全権を掌握した。
だが、彼らが求めたのは単なる村の支配などではない。
もっと醜悪で、もっと身勝手な欲望――禍神の解放による、絶大な力の略奪だった。
「暴れるな! お前の血こそが、我が家に永遠の栄光をもたらす鍵なのだ!」
姥井山守らに両腕を押さえつけられ、オレは電波の届かない山奥深くにある、おどろおどろしい石造りの祠へと引きずり出された。
その中央には、冷たく横たわるミナの遺体が無残に放置されている。
昨日の夜、見晴らし台で交わした温もりが嘘のように、彼女の身体はすでに冷えきっていた。
「……ミナ……っ!」
オレの背後から足を踏み入れた阿波流川博は、祭壇に投げ出されたミナの遺体を目の当たりにし、ぴたりと動きを止めた。
昨夜、山田ミナが遺体で見つかったという報せは聞いていた。外様がたぶらかし、殺したのだと頭から信じ込み、だからこそ狂ったように啓一を追い回し、教団の聖地まで焼き払ってきたはずだった。
だが、こうして現実の冷たい亡骸を目の前に突きつけられた瞬間、博の中で燃え盛っていた狂気の炎が、音を立てて冷えていく。
「……俺は、いったい……何を……?」
博は震える手で頭を押さえ、血走った目をさまよわせる。外様を追い詰め、教団を滅ぼし、すべてを復讐の炎に捧げたその果てにあるのが、この静かに腐りゆくミナの肉体だという現実。
自分がしてきたことの空虚さと異常さに、博は激しい眩暈を覚えた。
「何を感傷に浸っている。禍神の力に比べれば、女の一人や二人など安いものだろう。……泣いている暇などないぞ、博! さっさと祭壇に縛り付けろ!」
守が一喝すると、旧家の老人たちが冷酷な手つきで動き出す。
彼らは儀式の祝詞を上げながら、オレを祠の中央にある血に染まった冷たい祭壇へと力任せに縛り付けた。そのすぐ傍らには、ミナの冷たい亡骸が転がっていた。
彼らの目的はオレの命を奪うことではなく、救手家の血を持つオレの肉体を生け贄として捧げることで、地底に眠る禍神を目覚めさせ、その見返りとして「山系全体を従える絶対的な権力」を手に入れることだった。
「さあ、偉大なる神よ、この血を受け取り、我らに力を授けたまえ……!」
旧家の老人が狂気的な眼差しで神楽鈴を激しく鳴らし立てる。
集まった村人や若者たちが、異様な熱狂に酔いしれながら声を合わせて呪文を唱え始めた。足元で頭を抱え、己のしたことに絶望して立ちすくむ博の姿など、狂騒のなかにすっかりかき消されていく。
もはや逃げ場はない。ここでオレの血が流れれば、本当にすべてが終わってしまう。
二人の少女の命が奪われた絶望と、自分の無力さに震えるオレの胸元へ、老人は禍神を解放するための儀式の刃を冷酷に突き立て、その血を祭壇へと容赦なく注ぎ込んだ――!




