第4話:黄昏の書庫
抗争の不気味さに背中を押され、オレは村と教団の秘密をスマートフォンで調べようとした。
だが、唯一のライフラインである、役場の電波でヒットしたのは、掲示板サイトにある「神隠し村のデマ」といった、不確かな噂や古い書き込みばかりだった。
ネットの海には、この閉鎖的な山村の闇を暴くような決定的な手がかりなど何一つ落ちていない。
――こうなれば、直接過去の記録を漁るしかない。
放課後、人目を盗むようにして向かったのは、役場の旧館にある古びた郷土資料室――俗に「幽霊書庫」と呼ばれている場所だった。
施錠された正面や、日中から職員の目が光る厳重な通用口を避けるため、オレは裏手の斜面に回り込んだ。
そこは長年の風雨と湿気でコンクリートが大きく剥がれ落ち、壁の基礎部分に大人の身体が這いつくばってようやく通れるほどの破損部が口を開けていた。
土と苔の匂いが鼻をつく中、泥だらけになりながらその冷たい割れ目を押し進む。這うようにして暗い書庫の床へ転がり出た瞬間、背後から不意に声をかけられて息が止まった。
「……こんな所から潜り込むなんて、藤原くん、あなたもなかなか大したものね」
振り返ると、そこには同じように別の窓の隙間から忍び込んでいた山田ミナが立っていた。彼女の制服の裾にも、這いずり回った際についた黒い汚れが痛々しく付着している。
互いに苦笑いを交わしながら、二人が連れ立って立ち入り禁止の立て札がかかる「非公開郷土資料コーナー」の重厚な木製扉を押し開けたとき――その暗がりの中から、もう一つの足音が静かに響いた。
「……あら、奇遇ですね」
煤けた書棚の影、その闇の底に佇んでいたのは、新興宗教の信者の娘・田中サヤだった。
彼女もまた、誰にも知られず、この村の隠された歴史の真相を探りに来ていたのだ。
もはや言葉は必要なかった。重い沈黙を共有したまま、3人は埃を被った古い村の地誌や、約二百年前の記録が綴られた虫食いだらけの古文書の束を引っ張り出し、それぞれの机に広げた。
ページをめくるたび、この山あいの村が隠し続けてきたおどろおどろしい歴史、そして血塗られた因習の数々が次々と暴かれていく。薄明かりの射す書庫の中で、古い紙の匂いと湿った埃が鼻腔を突き刺し、3人の顔を青白く照らし出していた。
さらに分厚い古文書の束のページをめくっていく中で、オレはかつて禍神を巡る秘術を司っていた一族の系譜に関する記述に目を留め、思わず息を呑んだ。
そこに記されていた珍しい苗字が、亡くなった母の旧姓と一字一句違わず一致していたからだ。
「……おい、嘘だろ。ちょっと見てくれこれ。母さんの旧姓と同じ……『救手』って書いてある。こんな苗字、他で見たことも無かったのに⋯」
オレが血の気の引いた声で呟くと、のぞき込んだミナが目を見開き、ガタガタと震え出した。
彼女は自分の手元にある、別の家の古い戸籍台帳の記述と見比べ、さらに激しく動揺する。
「嘘……!この本によれば、 私の実家も家系のルーツを辿れば、まさにその『救手』の血筋だわ……!」
静まり返った薄暗い書庫の中で、2人の血族を繋ぐ残酷な因縁が、音もなく姿を現そうとしていた――。




