第3話:旧家 vs 新興宗教、狂気の全面衝突! そして謎のラップでSAN値がマッハでダウンする件
モテ期などという呑気な勘違いは、数日後の放課後に音を立てて粉々に砕け散った。
村の中心にある旧家の敷地近くの広場。
そこでは、阿波流川博や姥井山守といった旧家の次代を担う若者たちと、新興宗教の信者たちが真っ向から衝突していた。
それはもはや、ただの口喧嘩のレベルを超えていた。
「おい、新参者のカルトども! うちの領地で『救済の舞』とか踊ってんじゃねえ! 騒音公害なんだよ!」
博が旧家お抱えの屈強な作業員を十数人引き連れ、怒号を上げる。
彼らは鎌や鍬を振り回し、本気で村から宗教信者を追い出しようと圧力をかけていた。
だが、その博の背後で荒狂う怒りは、単なる縄張り争いによるものではなかった。
(ちっ……あの外様の野郎といい、ミナの態度といい、頭にくることばかりだ……!)
胸の内でくすぶるミナへの歪んだ独占欲と、余計な波風を立てる啓一への苛立ち。その個人的な八つ当たりを晴らすかのように、博は普段のクールな旧家の跡取りらしからぬ荒々しさで、宗教信者たちを怒鳴り散らしていた。
その博の背後で、守はメガホン片手にスピーカー並みの爆音で嫌がらせの演説をぶちかましながらも、どこか冷めた目をしていた。
(……まったく、博の奴は私情で周囲を煽って、何をやっているんだか。旧家の看板を背負う立場だというのに、あんな見苦しい感情で汚されていく……)
未来の当主候補としての冷徹な諦念を胸に抱きつつ、守は淡々と旧家側の指揮を形だけ整えていた。
対する新興宗教側の反応は、相変わらず気味が悪かった。彼らは怒るでもなく、ただニコニコと、ひたすらに笑い続けている。
「私たちはただ、この地に眠る『禍神様』の慈悲を説いているだけです。……あ、お兄さん、眉間にシワが寄っていますよ? 呪われますよ?」
教団の幹部らしき男が、真顔のまま、博の顔面に極彩色に塗られた禍神の御札をペタペタと貼り付け始める。
周囲の信者たちも、旧家の若者たちの周囲を取り囲み、全員で一斉に「禍神様、禍神様、禍々しいけど真顔だヨ」と、なぜかラップ調で呪文を唱えながら円陣を組み、高速でスキップをし始めた。
――いや、スキップ!?
しかも何だその微妙にリズム感の良いラップは!?
物陰で騒動を見守っていたオレとミナは、引きつった笑いを堪えるのに必死だった。
「ひ、ひえぇ……マジで気持ち悪い。あの信者たちの目、一切瞬きしてないぞ……」
オレが青ざめて呟くと、ミナも頭を抱えこんだ。
「あいつら、旧家の連中に嫌がらせされるのが楽しくて仕方ないのよ……。旧家の支配を『いかに芸術的に破壊するか』ってことに血道を上げてるから、もうどっちも狂ってんのよ」
旧家側の作業員たちが宗教の立て看板を破壊すれば、信者たちは「お見事! 破壊のエネルギーが禍神様に届きました!」と大歓声を上げ、その場に全員で土下座して拍手喝采を送る。
博たちが「……え?」と困惑して動きを止めると、すかさず信者たちが「次は何を壊してくれますか?」と、目を輝かせながら博に熱視線を送る。
あまりの狂気のキャッチボールに、旧家側さえも逆に腰が引け始めている。
「……あの、ミナ。今のところ、新興宗教の方が数段ヤバくないか?」
「そうね。旧家はただの嫌味な田舎の権力者だけど、あいつらは本当に『何をしでかすか分からない』。……ねえ藤原くん、ウチは旧家とも、あんなキ◯ガイじみた宗教とも距離を置いてるの。お願いだから一緒にしないでね」
その時、広場の中央でサヤがふと、こちらを向いた。
彼女の目は、滑稽な小競り合いを繰り広げる旧家も信者たちも、そして隠れている自分たちすらも、まるで「手の上のチェスの駒」であるかのように冷ややかに見据えていた。
サヤはまるでオレたちがそこにいることを最初から知っていたかのように、首を百八十度回転させそうな勢いで振り返り、ゾッとするほど穏やかな笑みを浮かべて告げた。
「おやおや、啓一くん。そんなに怯えなくても……あなたがどんなに隠れようと、その身体で脈打つ血のカウントダウンは、もうとっくに始まっているんですよ?」
――うげえええ! 勘弁してくれ!
オレとミナは、狂乱する広場を背にして、全速力でその場を逃げ出した。
背後からは「禍神様は見ていますよ~!」という、やけに陽気な呪いの合唱がいつまでも追いかけてくるのだった。




