第2話:美少女二人の愛の猛アプローチで両腕がもげる! そして周囲の目が完全に死んでいる件
旧家の生徒たちから鋭く睨みつけられ、冷や汗が背中を伝うような重苦しい昼休みが明けた。
ようやく訪れた放課後――そこに待ち受けていたのは、胃に穴が開きそうなほど過剰で、かつ最高にトチ狂った「ダブル美少女による仁義なき肉薄アプローチ」だった。
「ねえ、啓一くん。今日の放課後、私たちの教団の『愛と救済の儀式』に参加しませんか? 特製の怪しげな聖水を用意して待っています。ふふっ、飲めば魂が浄化されてトロトロになりますよ」
無表情のまま背後から忍び寄り、気配をまったく感じさせないまま、まるで自分の指定席であるかのように俺の右腕にしがみついてくるサヤ。
その細い身体の体温はなぜか、冷蔵庫の野菜室なみにひんやりと冷たかった。密着するたびに背筋に奇妙な悪寒が走る。
「ちょっとサヤ! あんた、学校の敷地内で堂々と新興宗教の怪しい儀式に誘わないでよ! つーかその聖水、絶対になんかヤバい怪しい薬入ってるでしょ!」
すかさず反対側の腕をガシッと力づくで掴み、ものすごい怪力でサヤを引き剥がそうとするミナ。その勢いはもはや女子高生の域を軽く超越していた。
「……って、おいミナ! 引っ張る力が女子高生のそれじゃねぇよ! 腕がもげる! 本当にもげるって!」
「うるさいわね! こいつの甘ったるい誘いに乗ったら一生教団から抜け出せなくなるわよ! それより藤原くん、今日の放課後はうちの離れに来なさい。ウチ特製の、イノシシの血抜きが不十分で野性味あふれる特製すき焼きをごちそうしてあげる!」
「どんな罰ゲームだよそれ! 獣臭すぎて一口で気絶する自信があるわ! ていうか二人が両脇からギュウギュウ押し付けてくるせいで、オレの腕がパンク寸前なんですけど!」
――待て待て待て。さっきから物理的にも精神的にも距離感がバグりすぎているだろ!
もちろん、クラスの男子全員から殺意を向けられそうな美少女二人独り占め状態は嬉しいけれど、物理的に心臓と関節が耐えられないわ!
「おい、ミナ……! 何をやってるんだ、そんな外様の野郎とベタベタと……!」
そこに血走った目を据えて割り込んできたのは、旧家の跡取り阿波流川博だった。
彼は山田ミナに対して妙に強い執着めいたものを抱いているらしく、ミナが自分以外の男、しかもよそ者である啓一に馴れ馴れしくしている光景が面白くなかったのだろう。
博は嫉妬で顔を歪めながら、啓一の胸倉を掴もうと勢いよく手を伸ばす。
「お前みたいな鼻つまみ者が、ミナに近づいていいと思って……っ!」
「ちょっと博! 余計な口出ししないでよ、邪魔!」
「なっ、なんだとミナ、そいつを庇うのか……!? くそっ、後悔させてやるぞ外様が……!」
「「博、うるさい(邪魔です)」」
なんと、ミナとサヤが綺麗にハモった声で一斉に博を睨みつけた。
お前ら、普段は犬猿の仲のくせになぜそこだけ息が合うのか。その冷ややかな拒絶の視線を浴びた博は、「ぐっ……!」と言葉を詰まらせ、悔しさに歯ぎしりしながらその場に立ちすくむしかなくなった。
「あのさ、二人とも……その、誘ってくれるのはありがたいけど、オレにはちょっと荷が重いというか……」
「ダメです。私の愛の教えに身を委ねれば、あなたを束縛するすべての苦しみから解放されます。さあ、今すぐ教団の地下牢へ――じゃなくて、厳かな集会所へ行きましょう」
「逃がすわけないでしょ! 藤原くんは今日、私と一緒にウチの山林で罠にかかった鹿の解体を手伝うのよ! 血の匂いに慣れなさい!」
再び始まるグイグイ、バキバキと両腕を引っ張り合われる壮絶な争奪戦。
ミナの温かくて少し強引な熱と、サヤの不気味だけど妙に心地よい(?)密着感に挟まれ、オレの理性はすでに崩壊寸前だった。
そんな修羅場と化した教室の隅から、一部始終を眺めていた姥井山守は、呆れ果てたようにやれやれと首を振った。
「……はぁ。あいつら、いったい何やってんだか……」
守は呆れ返ったように吐き捨てると、興味なげに視線を逸らして教室から去っていった。
カオスな修羅場の最中、サヤが耳元で「あなたも、そろそろ血を壇上に捧げる頃でしょう?」という致命的なまでの天然ホラー発言をサラリとぶっこんでくるものだから、オレの脳内警報器はもはや修理不能なレベルで鳴り響き続けている。
それでも、男のプライドと、「もしかして人生最大のハーレムの波が来ているのでは?」という浅ましい期待から、オレはその場を「ははっ、モテる男はつらいぜ!」という死んだ目の愛想笑いでごまかし続けるしかなかったのである。




